表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/254

第221話 ひとまずの別れ

 グリム達はデンショバトにやって来た。

 もう何度目だろうか? 今日も今日とて客は居ない。

 静まり返った店内。奥のカウンターには、ピジョンが一人、クロスワードパズルと解きながらボーッとしていた。


「ピジョン、お疲れ」

「あっ、グリムさん達……それと」


 ピジョンの目が移ったのは、もちろんのことミュージュだった。

 初めましての関係なので、お互いに軽い会釈をする。

 流石に緊張するのか、ミュージュは腰に手を当て、自身を取り留めようとした。


「どうも、私はミュージュよ」

「ミュージュさんですね。私はアイテム屋兼ギルド〈《デンショバト》〉のメンバー、ピジョンです。なにかお探しのものはございますか?」


 早速ピジョンはお得意様にしようと、ミュージュに物売りをする。

 しかしミュージュは生憎と買うものが無い。

 キッパリと断ると、何だか悲しそうな顔をした。


「悪いわね。今は必要なものは無いの」

「そ、そうですか……しょんぼり」

「ピジョン、やっぱり今日も?」

「はい、グリムさん。あの、なにか買っていただけますよね? ねっ?」


 ピジョンは懇願しつつ、グリム達を詰める。

 チラチラと視線を浴びせられると、グリムは困った顔をした。

 けれどメニューからある程度のPを取り出すと、ピジョンに手渡した。


「ピジョン、これだけ払うから、少し頼めるかな?」

「こ、こんなにですか!?」


 ピジョンは慄いてしまった。それはまともに店の品を買う倍以上の金額だ。

 一体何を頼まれるのか? ピジョンは緊張してしまう。


「お願いしたいことって言うのは、例の装置だよ」

「例の装置ですか?」

「うん。D、さっき手に入れた実を渡してくれるかな?」

「はい!」


 Dにお願いをして、手に入れた実をピジョンに渡す。

 するとピジョンは瞬きをすると、知らなかった名前を口にした。


「コレは……言霊の実ですか?」

「言霊の実? なーにそれ」


 フェスタが代表して首を捻った。

 そんな名前の実だったらしく、グリム達はキョトンとする。


「はい。この実は言霊の実と言って、音に命を宿すんですよ。レア度も比較的高い部類なので、実物を見るのはこれで三回目ですけど」

「三回も見たんだー」

「それはレアなの?」


 確かにレアな代物なのか分からなくなる例えだった。

 けれど貴重な物であるには変わらない。

 早速この実を使って、作って欲しいものがあったので頼む。


「この間、鋼が言っていた変換装置。突飛な話だけど、作れるかな?」

「えっ!? 鋼ちゃんが言ってた奴ですか?」


 ピジョンはとんでもない顔をする。目を見開き、唖然としてしまう。

 なんだろう。もしかして嘘だったのかな?

 信じて進んで来たものの、それは堪えるな。グリムは胸を押さえそうになると、ピジョンは実を見つめた。


「本当に作るんですね?」

「うん、本当に作るけど……できるかな?」

「できますよ。〈《デンショバト》〉切ってのエンジニア、メルダウナーなら」

「「「メルダウナー?」」」


 何だか意味がありそうなプレイヤーネームだった。

 けれどそれは一旦置いておくとして、本当に作れるプレイヤーがいたなんて驚きだ。

 半信半疑をぶっ壊されると、グリムはピジョンに詰める。


「本当にできるのかな?」

「ええ、できますよ。メルちゃんは前にも同じものを作っていますから」

「凄いですね」

「ええ。でもログインをそこまでしないから、時間は掛かると思うけど?」

「構わないよ。でも一度会ってみたいね、メルダウナーさんか」


 メルダウナー。一体どんなプレイヤーなのだろうか?

 グリムは興味が湧いたものの、とりあえず約束は取り付けた。


「それでは、完成次第連絡しますね」

「ありがとう。それじゃあ私達は行くね」

「またのご来店を、絶対に絶対に心待ちにしていますからね!」


 ピジョンからのとてつもない圧を感じた。

 全身を熱したナイフで突き刺されるみたいに痛い。

 グリム達ははにかんだ笑顔を張り付けると、そそくさと店を後にした。


「さてと、これで一安心だね」


 グリム達の目的は何とか果たされそうとしていた。

 何事も無く装置が完成すれば、一件落着。

 モールス信号以外の会話方法が完成する。


 と言うことは、ここまで紡いだ関係が一つ解かれることになる。

 チラッと視線をミュージュに向ける。

 それを合図に、ミュージュは口を開いた。


「それじゃあ私は行くわね」

「えー、何処に行くのー?」

「何処でもいいでしょ? 私はあくまでも今回限りの関係を結んだだけ。手伝いも終わったんだから、これ以上関係を築く必要は無いわよ」


 ミュージュとの関係の終わり。それを意味している。

 実際、今回ばかりの協力関係を、無理やり取り付けたに過ぎない。

 ミュージュもようやく解放されたのか、腕を天高く伸ばす。


「ふぅーん、さてと、これで私も自由ね」

「あのミュージュさん!」

「なによ、D。私を引き止めるつもり?」


 解放されて有意義なミュージュに、Dが口を挟んだ。

 ジロッと睨み返し、Dのことを怖がらせる。

 一体何を言われるのか。グリムとフェスタは固唾を飲んだ。


「あの、ありがとうございました!」


 Dは深々と頭を下げた。

 ここまで助けて貰ったことへの感謝を伝える。


「はっ?」


 ミュージュは突然のことに対応できない。

 もちろん音楽に関することならできるのだろうが、こんなことほとんど無い。

 瞬きを何度もしてしまい、何を言い返せばいいのか分からなくなる。


「あー、別に感謝されるようなことじゃないわ」


 ミュージュはぶっきら棒に言い返した。

 けれどグリムとフェスタは気が付いている。

 明らかに照れ顔を隠しているミュージュの横顔を。


「ミュージュ、もう手伝ってくれないのかな?」

「当り前よ。約束は約束。私は果たしたわ」

「そうだけど、私はまだミュージュと冒険したいな」

「はぁ? なにそれ、私をスカウトしてるの?」

「もちろん。どうかな、ミュー……」


 グリムはミュージュを誘おうとした。

 けれどミュージュの答えは決まっている。

 パチンと差し出した手を払いのけると、興味無さそうに顔を歪めた。


「悪いけどパスよ。じゃあね」

「あっ、ミュージュ……そっか」


 ミュージュは踵を返して去ってしまう。

 グリムは追い掛けることはせず、キッパリと諦めることにした。

 何せ約束は果たしてくれた。これ以上望んではいけない。グリムは折を付けると、ミュージュの背中を追いかけなかった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ