表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/256

第220話 見えない視線5

「おっ、倒したか」


 いつもの白い空間。

 一般のプレイヤーが立ち入ることのできない不思議な世界。

 そこにいたのは今日も作業中のフシギだ。


「倒したってなにを?」


 フシギは大量の画面越しにポツリと言葉を発する。

 それに合いの手を入れたのはアイだった。


「ドライが考えたモンスターだ」


 フシギは淡々と答えた。ドライとは八人居る初期メンバーの一人。

 中々顔は出せないが、今もお家と世界を股にかけている。


「ドライが考えたモンスターって、プラントークンのこと?」


 アイは脳をフル回転させ、ドライが考えたモンスターを探る。

 そこまで多くのモンスターアイデアを出した訳ではないので、すぐに応えに辿り着く。

 プラント―クン。それは意思はあるが意識を持たない植物系モンスターの総称だ。


「そうだな。正確にはドライとウルワシが考えた音楽植物サウンドプラントのことだがな」


この植物の種類は音楽植物と仮名称が付けられている。

つまりは正式な名前は無い。それでもしっくりは来ていた。


実際このモンスターを考えてくれたのは大まかな括りでドライ。

 そこにアクセントを加え、アイデアの幅を広げてくれたのはドライの級友。

 初期メンバーではないにしても、ゲーム内のBGM制作を手伝ってくれた、運営人の頼れる仲間だ。


「凄いね。しかもフシギが喜んでるってことは、もしかして強敵のパターンだよね? ってことは、フォンスの近くだとして……古びた音楽堂のこと?」

「正解だ」

「やっぱりそうだったんだね」


 倒されたのは長い間手付かずだったダンジョン……では無い場所。

 経験値も碌に入らないモンスターだったので長い間放置されてきた。

 そもそも知られている訳も無く、随分と力を付けていた。


「アイツはAIとして進化してくれたからな。私もたまに様子を見に行っていたが、まさかここまでとは」

「あの子は確か、フシギとは……」

「私が音楽に対してあまり関心の無い態度を示すと、攻撃することさえ止めてしまったな。つまらない奴だ」

「それは……うん」


 本当にフシギの周りでは不思議なことが起こる。

 昔からそうだったとアイは記憶を辿る。

 今回もそれの内側。例外じゃない。だからだろうか、フシギはただ“倒された”事実だけを見てホッとする。バクまみれじゃなかったことに安堵した。


「修正が面倒だからな。倒されてよかった」

「フシギ、喜んでる?」

「倒される予定のモンスターが倒されないのは困るだろ」

「そうだけど……」


 確かにモンスターが倒せないようなバグがあれば、ユーザーからとんでもないバッシングは必至。

 株式会社……と言いつつ社員で株を全て買っているから、そこまで被害は出ない。

 のは分かっているが、今後の売り上げにも響きそう。色々と足回りが潰されるのは厄介なので、アイとフシギは揶揄する。


「そう言えばフシギ、少し訊きたいんだけど、いいかな?」

「なんだ」


 アイは気になっていたことがあった。

 もちろん考えはある程度まとまってはいるが、一応の答え合わせだ。


「あの音楽堂と騒めきの森、繋がってるよね(・・・・・・・)?」


 アイの発言は妙に意味深で、核心を付いている。

 これは古びた音楽堂、それから周りの騒めきの森。

 両方の密接な関係にメスを入れる言葉だ。


「そうだが」

「やっぱり。そうだったんだ」


 生憎とフシギは隠す気が無かった。むしろ隠す必要さえなかった。

 ここからはネタバラシになってしまう。それでもアイは自分の考えをまとめた。


「それじゃあ音楽植物が倒されたから」

「なんだ、答え合わせか? 一体誰に向けての?」

「えっと、視聴者とか?」

「視聴者ってお前な。Vlogでも撮る気か?」


 あまりにもよそよそしい言い回しだった。

 その答えを探ると、何処からともなくカメラが現れる。

 アイは撮影をしていた。これはネットに上げるための開発メモだ。


「ごめんね、フシギ。後で編集するから」

「はぁ……私にやらせろ」

「ごめんね、フシギ。それでは質問です。〔古びた音楽堂と騒めきの森の関係性はなんですか?〕」

「誰得な質問だ。とは言え答えてやるか。あの二つはダンジョンじゃない。いや、騒めきの森自体はダンジョンだが、古びた音楽堂はダンジョンじゃない。まず大前提がコレだ」


 フシギはインタビューに答える。

 決まった態度は取らず、適当に椅子にふんぞり返っている。


「大前提?」

「そうだ。古びた音楽堂と騒めきの森。この二つは因果関係にある。お互いが共生し合っているのが正しいな」

「共生? つまりお互いが必要とされている?」

「そういうことだ。古びた音楽堂には特殊なモンスターが住処としている。もちろん、そのモンスターはあくまでも媒介なんだが、そこから植物が根を伸ばすように派生し、騒めきの森に侵食している。ここまでは分かるな?」

「うん、分かるけど……それだと」

「共生とは呼ばないな」


 古びた音楽堂と騒めきの森の関係。それは古びた音楽堂を住処としていた楽器植物が媒介役となり、騒めきの森を侵食している構図。

 ここまでの話を噛み砕けば、一方的に楽器植物のせいになる。

 けれど話はまだ続く。共生されていない事実を真実に変える。


「だがな、騒めきの森はそれを望んでいる。何故だか分かるか?」

「えっ?」

「答えは簡単だ。騒めきの森自体には何の特徴も無い。侵食されることでアイデンティティの確立と防衛本能の開花を促していた。コレが共生だ」


 騒めきの森。この森が侵食を望んだ理由は、自己の確立。

 本来この森は“ダンジョン”の枠組みではあるが、何も無い意味の無い森。

 その森が共生を望み互いに利を叶えればどうなったか。“ただの森”から“騒めきの森”にレベルアップした。コレが真実だ。


「要するに音楽……いや、音に関する影響を森自体が受けることにより、根を弦代わりに伝って流された音が木々の幹をアンプ代わりにし、巨大な音楽を奏でていた。という訳だ」

「なるほど。確かにそうだと辻褄は合うかもしれないね」

「ふん。実際、ベースを作っただけで、変化したのは森自体だ」

「ベース?」

「掛けて無いからな」


 そこは掛けている方が面白かった。

 けれど真面目に返されてしまうと、アイも黙るしかない。

 とりあえず真実を知れたこと。それだけこの動画を撮った意味があった。


「ところでフシギ、もう一つ気になるんだけど」

「なんだ?」

「報酬ってあるの?」


 今回音楽植物が倒された。

 つまり報酬がある筈だ。

 経験値が一切入らない仕様になっていた方心配だったけど、フシギは「ふん」と鼻を鳴らす。


「報酬だと。そんなもの決まっているだろ」

「そうなんだ。よかった……って、どうしたの? なんだか、怖いよ」


 何故だかフシギはほくそ笑んでいる。

 自信あり気だけど、私は何だか不気味だった。

 そう思うとゾクリとした感触が喉を伝った。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ