第219話 得られた成果
成果は得られたのかな?
メキメキと嫌な音を掻き鳴らしている。
ミュージュはDの言葉に触発されて、急いで立ち上がる。
ここはもう持たない。そんなイメージが沸き上がると、薄っすらと開いたバリケードの隙間を指さす。
「D、あの隙間を潜るわよ!」
「ミュージュさん!?」
突然ミュージュが活発になったので声を上げるD。
しかしミュージュはDの腕を掴むと、必死な形相で伝える。
「Dの言う通りよ。今マズい状況だと思うわ」
「と言うことはここはもう!」
「それ以上は言わないで。急ぐわよ」
「はい!」
コール&レスポンスは手短に。ミュージュはDを連れて走る。
ユニークスキルは使えない。使えば最後、無防備だ。
ここは二人の自力でバリケードに滑り込むと、根っこが完全に落ちてしまい、雪崩のように蔦も蔓も花びらも舞い落ちた。
ズドーン!!
轟音が響き渡り、鼓膜が破けてしまいそうになった。
そんな地響きが真後ろから聞こえると、Dとミュージュは命拾いする。
あと少し判断が遅ければ、きっと押し潰されていただろう。
「はぁはぁはぁはぁ……ミュージュさん、ありがとうございました」
「いいわよ……別に。あー、辛っ!」
Dとミュージュは汗を掻いていた。
背中がダランとなってしまうと、丸まって座り込む。
バリケードを背もたれに二人は休むと、グリムとフェスタは声を掛ける。
「大丈夫、D・ミュージュ」
「二人共―、大丈夫-?」
「グリムさん、フェスタさん」
「大丈夫じゃないわよ。なんで二人は助けてくれなかったの!?」
「「それは……ねぇ?」」
グリムとフェスタは口を噤んだ。苛立ってしまい、ミュージュは眉根を寄せる。
鋭い目をしてグリムとフェスタを睨み付けると、手元に武器が無いことに気が付く。
「どうして武器が無いのよ?」
「武器ならあるよ、そこにね」
グリムが指を指すと、Dとミュージュは視線を預けた。
そこにはグリムとフェスタの武器が置いてある。
けれど立て掛けてあり、バリケードの間に挟み込まれている。
「ちょっと、つっかえ棒になってるわよ?」
「ダメだよ、触ったら」
「どうしてですか?」
「その武器を取ったら、バリケードが崩れるからね。だから触らないようにしてね」
「「嘘っ!?」」
グリムとフェスタが助けに行けなかった理由。それは武器を使ってバリケードが崩れないように押さえていたから。
ほんの少し、人が一人くらい通れる隙間を開けたおかげで、Dとミュージュは命からがら抜け出せた。
ソッと胸を撫で下ろし、ミュージュは渋々感謝する。
「ありがと、助かったわ」
「あれ? ミュージュが素直だよ」
「なに、私が感謝したらダメなわけ?」
「そんなことは無いよ。それより二人共、無事に楽器植物は倒せたんだね」
「はい。ミュージュさんのおかげです。成果も……どうですか?」
Dは大事にポケットに仕舞っていた種を見せた。
グリムはDから受け取ると、すぐに種では無いことに気が付く。
「これは実だね。それにしては硬いけど」
「実だったんですか!?」
「うん。それにしてもどうしてこれを?」
「何故か落ちて来たんです。あの、もっと探した方がよかったですか?」
Dは役に立てなかったと、グリムに失望されたと思って、悲しそうに俯く。
グリムはそんなDの頭を優しく撫でた。
くすぐったくなり、顔色が真っ赤になる。恥ずかしいのか嫌がっているのか。グリムは分からない。
「本当、なんなのあの世界?」
「あはは、そうことだよー」
「にしては気が付いてない子が一人いるけど?」
「それが最高に良い所でしょ。鈍感バカ野郎だけどね」
「二人共なにを話してるのかな? とりあえずここで得られるものは得たよ」
グリムは好き勝手喋るフェスタとミュージュを咎める。
もちろん何を咎めればいいのかは分からない。
けれど言葉を挟むと口を閉ざされ、音楽堂で手に入るものは全て手に入った。
「成果としてはこの実かな。Dが持っていて」
「私が持っていていいんですか!?」
「いいよ。それより早くここから出ようか」
メキメキと異様な音が聞こえる。
根っこが千切れてしまったことで、楽器植物としての生を果たせていない。
そのせいか、少しずつ腐り始めている。いずれ植物は完全に腐り、枯れてしまうのだろう。
「時間も短いね。急いでここから出ようか」
「出るにしても武器を取り返さないと」
「そうだよね。そのためにコレを巻いたんだよ」
武器の柄には紐が巻かれている。引っ張れば武器を回収できる仕様で、グリムとフェスタは手のひらに巻き付ける。
後はタイミングを見計らうだけ。グリム達は扉の向こうに生えた植物が消えるのを待ち、そのタイミングで紐を引っ張る。
ザササァァァァァァァァァァァァァァァ!
「消えたね。それじゃあ行こうか」
「はい!」
「「いつでもいいよ」いいわよ」
グリムとフェスタは紐を引っ張る。
手元に武器を回収すると、急いで走り出す。
同時に背後のバリケードが崩れ始め、残った植物がバラバラになり始めた。
「皆さん、来てますよ。ドンドン来てますよ!」
「そうだね。振り返る暇があるなら走った方がいいかな」
「よっ、それっ! みんなバリケードが無くなってるよ。このまま走って外へ出よー!」
グリム達は力の限り走った。その間も植物達は軋み始め、次々に腐る。
枯れてしまい萎れてしまった植物の蔓や蔦が散り散りになる。
メキメキとドスンドスンの二重奏が神経を掻き立てる中、グリム達は扉を潜る。
これで外に出られた筈。グリム達は全員揃って外へ逃げる。
「「「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
グリム達が音楽堂の外へと避難する。
転がるように草木の上に倒れ込むと、何とか命はあった。
ホッと胸を撫で下ろすと、息を荒げて額を擦る。汗がくっ付くと、全身が疲れ切っていた。
「とりあえず出られたね」
「あー、疲れた―」
「そうですね。皆さん、お疲れさまでした」
「お疲れ。で、これでよかったの?」
「よかったと思うしかないかな。少なくとも、音楽堂には滅多に近付かない方がいいよ」
グリムは音楽堂に視線を預けた。
植物が侵食している音楽堂の構えは、正直言って変わっていない。
如何やら変化は幻だったのか。そう思わせてくれる程には、音楽堂は相も変わらない。
「気持ちの悪い音楽堂だったわね」
「そうだね。それじゃあ帰ろうか」
「うんうん。さっきの実の正体も知りたいもんねー」
長いようで短い冒険だった。音楽堂の外に出ると、グリム達はフォンスへ帰る。
騒めきの森からも音楽堂からも音は一切聞こえない。
ここまでの抵抗は何か。グリム達に知る由は無く、”そう言う設定”と思うしかなかった。
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