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第218話 崩れる植物

植物ってしぶといですよね。

 楽器植物は苦しんでいた。

 ミュージュの弾くレクエイムを受け、パイプが激しく震えている。

 空気によって振動が伝えられているせいか、根っこが軋み始め、蠢いている。


「ミュージュさん、根っこが暴れています。苦しんでいますよ!」

「そう」

「そうって、ミュージュさん!?」


 ミュージュは演奏に集中していた。Dが声を掛けても全然返事が無い。

 ましてや視線を配ると目を瞑っていて、指の感覚だけに身を任せる。

 ミュージュ本人が楽器の一部であり、音楽を奏でる妖精のような雰囲気だった。


「ミュージュさん、凄い」

「本番はこれからよ」


 ミュージュはまだ本気を出していない。

 ここまでは至って普通の前奏。もちろん、その限りでは無いのだが、ミュージュにとってはここまでは通過点。

 ここから奏でられるのは、柔らかい指先を持つミュージュにしかできない技だ。


 タッタッタッ♩


 ミュージュは自分なりにアレンジを加えた。

 寂しさと悲しさの中に本来無い筈の、ここでは無い筈の譜面を付けたす。

 まるで涙の海を弾む様に渡り歩く。そんな妖精のような、神から与えられた最後のチャンスのように感じ取ると、Dはミュージュの演奏に飲まれる。


 ガサガサガサガサガサガサガサ!!!


 楽器植物(PO体)は激しく蠢ているが、ミュージュは一切止めない。

 冷静に鍵盤を弾き続けると、ボトンボトンと根っこが腐る。

 まるで千切れたみたいに本体から切り離されると、徐々にパイプへの拘束が弱まる。


「ミュージュさん、あと少しですよ!」

「そうね。終曲(フィナーレ)よ」


 ミュージュはここから畳み掛ける。

 曲の原型を残しつつも、テンポを大きく変更した。

 助けを求めて伸ばした手が涙の波に飲まれる。

 溺れてしまいそうになる演出に、Dもイメージを飲まれた。


「これがミュージュさんの技」

「ご清聴、ありがとうございました」


 ミュージュが鍵盤から手を離した。

 パイプに絡み付いていた根は脈動を終えている。

 命がこと切れた様子でボロボロと千切れてしまうと、ドスンとステージ上に落ちた。

 如何やら楽器植物は息絶えたらしく、根っこが一つ一つ外れた。


「倒せたわね。とりあえずこれで一安心ね」

「はい。ミュージュさんお疲れさまでし……おっと!」


 Dは突然言葉を遮ると走り出す。

 パイプの上の方から小さな何かが落ちて来るのが見えたのだ。

 アレは一体何? 何故かDの体が動き出すと、陽の光でキランと光ったそれを受け止める。


「ふぅ。危なかったですね。それにしても、これはなんでしょうか?」

「どうしたのよD。そんなに慌てて……なにこれ?」

「分かりません。ですが種のようですね」


 Dが受け止めたそれは丸い植物の種のようだった。

 もしくは植物の実。どちらにせよ、植物に関係するのは明らか。

 つまり楽器植物(PO体)の中から出て来たもので間違いない。


「もしかしてこれがドロップアイテム!?」

「そうみたいですね。私達、経験値貰えていませんから」

「はっ、はぁー。なんか損した気分ね」


 今回は経験値が一も入っていない。その原因は明らかで、“音楽”で倒したせいだ。

 直接的な攻撃で楽器植物(PO体)を倒した訳じゃない。

 グリムとフェスタも同じ模様で、無駄に骨を折っただけだった。


「で、でも、よく分からないですけど、種を手に入れましたよ!」

「D、もしかしてこの気色の悪い植物を育てる気?」

「えっと、それは遠慮したいです」

「同感よ。っていうかそんな真似したら許さないわ」


 何故ミュージュが許さないのかは分からない。

 けれど言葉のあやだと思い、Dはすんなりと受け流す。

 ステージ上が安全になり、ミュージュは腰を落ち着かせると、ボーッと周りの植物を見る。根っこが無くなった筈なのに、何故か植物は未だに健在だ。


「それにしても植物って凄いわよね。根っこが無くなっても残っているんだから」

「はい。凄い生命力ですよね」

「もしかしてまだ生きてるの?」

「どうでしょうか? ですけど、グリムさんの言っていた生長点? は無いと思いますよ! 多分ですけど」

「多分ね。まあ倒せたならいいんだけど……いつまでここにいるのかしら?」


 楽器植物(PO体)は無事に倒せた筈だ。けれどバリケードは未だに残っている。

 攻撃的な武器じゃないDとミュージュには脱出は難しい。

 速く開けて欲しいと願うと、薄っすら光が零れた。バリケードの向こう側からで、グリム達の声も聞こえる。


「……大丈夫!?」

「グリムさんですよ。グリムさん!」

「遅いわよー。早く助けて」

「……無事で……た。けど……には行けない。植物が腐って……壊してきてる」


 何故かグリムの声が聞き取り辛い。

 眉間に皺を寄せ、文句の一つでも言いたくなるミュージュ。

 Dに至ってはグリムの声を聞き逃さないよう全神経を研ぎ澄ませると、何だか嫌な予感がした。


「ミュージュさん、これってマズいんじゃないですか?」

「マズいってなにがよ?」

「えっと、グリムさんもフェスタさんも助けてに来てくれなくて、何故かずっと叫んでいて……これって、凄くマズい気がします!」


 Dの予想は正しかった。囃子立てるようで悪いが、グリムもフェスタも助けには行けない。

 何故ならメキメキと植物が軋んでいる。そんな音が不快な思考を掻き立てる。

 終曲を弾くのはミュージュだけじゃない。楽器植物も最後の抵抗を見せた。

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