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第217話 弾く鎮魂の詩

ミュージュが居なかった時の負担がヤバい。

「そう言えば、鎮魂の歌ってヒントがあったよね?」


 石碑には特大のヒントが隠されている。

 ここまでの流れ的にほぼ間違いないと、確信を持ったグリムは、一番キーワードになりそうな部分を取り出す。


「鎮魂の歌ですか?」

「歌なんて知らないよー」

「そうだね。この部分がなにを指しているのか……」


 正直初見・ミリしらにはかなり厳しい。これが現実に添っているのなら簡単だが、そんな甘くはない。

 実際●●●●には楽器植物という固称が入っていた。

 それを踏まえると、この世界のものの可能性は非常に高い。


「この世界の歌をあまり知らないからね」

「はい……どうしましょうか、グリムさん」

「そうだね。もう少し知識を集めて置けば……」

「なにバカなこと考えてるのよ。普通にレクイエムでいいでしょ?」


 ミュージュは悩んでいたグリムの考えをバッサリと切ってしまう。

 “レクイエム”は鎮魂歌だ。つまり、一番初めに思い付くベタ中のベタになる。


「それはそうだけどね」

「迷う暇ないでしょ? 鎮魂歌はたくさんあるけど、プレイヤーがクリアできるように設定しているなら、レクイエムが正解よ」


 言われてみればソレが何より正しい。

 とは言えそんな簡単な仕掛けがあるだろうか?

 ここまで音楽に関係の無いモンスターに襲われている現状、グリムは少しだけ怪しむが、ここはミュージュに賭けてみる。


「分かった。それじゃあそれで行こう」

「やっと決まったわね。それで、どれで行く?」

「ん? どれってなんのことー?」

「三大レクイエムが一番ベタだよね。その中でもやっぱり……」

「「モーツァルトだよね」よね」


 ベタ中のベタで踏み込むなら、ここは最も有名なレクエイムを弾くことだ。

 グリムもミュージュもバカみたいに揃うと、オルガンを弾きに向かう。

 きっと何かが起こる筈。そう思ったのは当たりらしく、大量の蔓が妨害した。


「ちょっと邪魔よ!」

「ミュージュ、ここは私達が引き受けるよ」


 オルガンに近付こうとするものを明らかに拒絶する蔓野動きをしていた。

 鞭のようにしなりうねり、波のように踊ってみせる。

 けれど生易しいものでは無く、ステージ上には擦れた跡が残っていた。


「頼んだわよ、グリム・フェスタ・D。私を守ってくれないと」


 ミュージュの進路を妨害するなら、グリム達も黙ってはいない。

 ミュージュの前に躍り出ると、武器を手にして蔓と戦う。

 当たれば相当のダメージだろうが、それでも臆したりはしない。何せ、既にもっと危険な目に遭ったのだ。


「はっ!」


 グリムは肩に掛けていた大鎌を振り上げ、蔓をバッサリ切ってしまう。

 蔓は非常に脆く、グリムの振り下ろした大鎌を前に、簡単に千切れてしまった。

 ボトンとステージ上に落ちるとほんの少しだけ隙間が生まれた。


「ミュージュ、行って」

「分かってる。って、またよ。なにこの再生力!?」

「どうやらラストスパートみたいだね。ここに栄養を全て集めているみたいだ」


 グリムが道を開いた筈が、すぐに塞がってしまう。

 如何にも残ったエネルギーのほとんどを目の前の蔓に注ぎ込んでいるらしい。

 そのせいか、茎や蔦・花は少しずつ萎れ、元気を失っている。枯れるのも時間の問題か、蔓と根だけが生き生きしている。


「ズドーン!」


 そこに飛び出したのはフェスタだった。

 自慢の大剣で蔓を切り落とすと、凄まじい轟音が響き渡る。

 グリムが開いたものより広い道が作られると、グリムはDを付けてミュージュを連れて行かせる。


「D、ミュージュと一緒に行って」

「は、はい。分かりました。行きましょう、ミュージュさん」

「分かったわ。グリム・フェスタ、分かってるわよね?」

「「分かってるよ」」


 ミュージュから背中を守るように念押しされてしまった。

 とは言え言われなくても分かっているし、分かり切っている。

 グリムとフェスタは相槌を打つと、ミュージュとDはオルガンに辿り着いた。


「ミュージュさん、これからどうするんですか?」

「どうするもなにも、弾くのよ。モーツァルトの遺作レクイエム」


 オルガンの前に立つと、鍵盤を大量の根が覆っていることに気が付く。

 邪魔で取り払おうとするが、しっかりと食らい付いていてまるで離れない。

 苦悶の表情を浮かべるが時間も無い。ミュージュはこのまま制限付きのオルガンで弾くことにした。


「それじゃあ行くわよ。ベタもベタだけど、第八番からでいいわよね?」

「分からないですけど、お願いします!」

「それじゃあ……」


 ミュージュはオルガンを弾き始めた。

 すると哀しいメロディーがパイプを通じて奏で始める。

 重苦しく、心の底から涙が溢れそうになるような振動が伝わる。


 ドクンドクンと涙で一杯の海を渡る。

 一番傍で聴いていたDは感動というよりもそんな悲哀が胸を打った。

 人それぞれ感想は違うけれど、救済を求めるようにも受け取れる。


「これが……えっ?」


 ミュージュの演奏が素晴らしいからか、それとも嫌っているのか、蠢く蔓が苦しみ始める。

 踊る昆布のようにウネウネ捻じれてしまうと、少しずつ腐り始めた。

 確かに悲しくはなるけれどここまで影響が出るものなのか? Dは怖くなってしまうと、ミュージュに話し掛ける。


「ミュージュさん。なんだか変ですよ。急に蔓が苦しみ出して」

「……」

「聞こえてませんか? そんな、これはどうしたら」


 Dは訳が分からなかった。如何したらいいのかは分からない得体のしれない恐怖が襲う。

 音楽が人や動物・植物にまで影響を及ぼすことはある。

 けれどこれは別格だ。ゲームの中だと割り切れば簡単だが、目の前で起こると怖い。


「一体なにが起きて……」


 バキッ!


「ひやっ!?」


 何かがステージ上に落下した。腐ってしまった真っ黒な植物。

 一体何? と思ったのは一瞬で、正体はパイプに絡み付いていた根っこ。

 Dは口を押えてしまうと、確かなことが伝わる。本当に鎮魂歌を聴き、楽器植物は苦しんでいた。

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