第215話 絶望の根
バシュンバシュンバシューン!
「な、なんか急に乱舞してない?」
「明らかに蔓の動きがいいんだけど!?」
突然だが、楽器植物(パイプオルガン寄生体)が蔓を振り回し始める。
元気になった、というよりも、狂喜乱舞している方が正しい。
何がそこまでさせたのか、何か思う所でもあるのか、少なくともグリム達は焦る。
「マズいね。これじゃあ近付けない」
「どうするんですか、グリムさん!」
「どうしようか」
グリムは蔓の動きをゆっくり観察する。
もちろんその間にも楽器植物(PO体)は蔓を叩き付け続ける。
確実にグリム達を殺そうとしているが、タダでは絶対にやられない。
カキーンカキーン! バシュン!!
グリムは少しずつ避けながら、大鎌を降り続けた。
刃の部分を合わせると、蔓の叩き付けたエネルギーを利用する。
グリムはただ待っていればいい。上から叩き付けられた蔓が、待っていた刃にスパンと切られる。
「凄い、凄いです、グリムさん!」
「なるほど。待っていればいいのね」
「そういうこと。フェスタ、もう一度道を作ってくれる?」
楽器植物(PO体)は脆い。成長率を引き換えに、蔓は強度がまるでない。
簡単に千切れてしまうと、その度に再生する羽目になっている。
これならばと、グリムはフェスタに叫んだ。
「道を開けるの? OK」
「グリムさん、なにをされるんですか!?」
「決まっているよ。このままパイプオルガンの真下まで行く」
グリムは大鎌を突き出すと、蔓をバッサリ切り飛ばす。
宙を舞った蔓がステージ上に落ちると、パサッと音を立てた。
千切れた途端に腐ってしまう。短命な命だと思うグリムは、儚い中で生きる楽器植物達を讃えた。
「凄いよ。楽器に絡み付いて、生きていく。共生なのか、一方的な寄生なのかは分からないけど、面白いよ」
「面白がってる暇ないでしょ!」
「そうだね。だからさ!」
グリムは【観察眼】を発動した。
目を凝らし、楽器植物(PO体)を観察する。
隙間を縫うように【看破】を発動すると、パイプオルガンを見ようとした。
「やっぱり見せてくれないか」
けれど椿の花が邪魔をする。よからぬことを企んでいたグリムを警戒して、目を細める。
本当に気持ちの悪いくらい賢い目だ。
グリムは笑みを浮かべると、フェスタに指示を出す。
「お願い、フェスタ」
「OK。んで、何処に作ればいい?」
「正面突破だよ。D、ミュージュ、付いては……」
「「行きます! 何処まででも」付いて行かないとマズいでしょ?」
Dとミュージュも付いて来てくれる。
つまりここからはバリケードの向こう側での戦いになる。
そのためにも椿の花を掻い潜る必要が出た。けれどそうはさせまいと、椿の花はグルリと回る。
「また回転し始めましたよ」
「マズいね。充填される前に短期決戦で仕留めようか」
再びビームを放たれれば、今度こそ終わりだ。
椿の花の修正力を考えてみても、即死は確実。
撃たれる前に撃ち込む。その精神でフェスタは道を切り拓く。
「せーのっ、おりゃぁぁぁぁぁ!」
威勢のいい声と大剣の振り抜きざま。覇気を感じる。
もちろん威力も絶大で、邪魔をしていたバリケードを強引にこじ開けた。
これで先に進める。と思うのも一瞬で、すぐに塞がり始める。
「あっ、マズいよ。やっぱりすぐに塞がっちゃう」
「そうだね。だからこそ!」
グリムはミュージュに視線を飛ばした。
〈女教皇の奏剣〉を構えると、アイコンタクトで合図する。
「Break」
〈女教皇の奏剣〉を振るうと、指揮棒を振るうみたいに指示を出す。
音を奏でると、塞がろうとするバリケードを封じた。
ピタリと止まると、グリム達は走り出す。蔓が塞がるまでに走り抜ければ、楽器植物(PO体)も反撃できない筈だ。
「やっぱり凄いよ、ミュージュ」
「褒めてもなにも出ないわ。それに、十秒しか持たないわよ」
「十秒も持てば充分だよ」
十秒なんて余裕、充分過ぎた。
グリム達はバリケードを乗り越えようとするが、楽器植物(PO体)もタダでは済ませてくれない。蔓を鞭のようにしならせると、絶対に行かせないように叩き付ける。
バシュン! バシュンバシュン!!
「よっと。止めてくれるかな?」
「グリムさん、手伝います」
グリムとDは振り下ろされた蔓を切り飛ばす。
蔓が柔らかく、軽く吹き飛ばすことができた。
その隙にフェスタとミュージュがバリケードを突き抜けると、グリムは先にDを行かせる。
「D、行っていいよ」
「グリムさん、すみません」
「大丈夫。ん!?」
グリムはDをバリケードの向こうに向かわせた。
グリムもすぐに向かおうとするが、椿の花は最後の抵抗を見せる。
目が閉じて花弁がクルクル回転すると、ビームを放とうとしていた。
「ふん。そうはさせないよ」
グリムはインベントリから小石を取り出す。
左手で放り投げると、花弁にぶち当たる。
コツンと目を閉じているせいか、グリムを狙っていたが逸れてしまうと、天井を向いてしまった。
ビュシュ―――――ン!
熱光線が天井に向かって放たれる。
眩い光が視界を奪いそうになると、グリムは目を伏せてバリケードに向かって逃げる。
何とか十秒以内に間にあったのか、グリムが飛び込んだ瞬間に、バリケードは閉じてしまい、天井がガッシャ―ン! と轟音を立てる。
「グリム、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。それにしても、今のはマズいね」
「ええそうよ。バリケードのせいで見えないけど、天井がヤバいことになってるわ。戻るのが怖いの、私だけ?」
ミュージュの言う通りだった。
グリム達はとんでもないことをしでかした気がしたが、今は忘れるしかない。
見るべきは目の前のパイプオルガン。グリム達は気持ちを切り替えようとするが、見た瞬間に絶望した。
「な、なによコレ?」
「あはは、ヤッバいねー」
「気持ちが悪いです。グリムさん、これはどうしたら……グリムさん?」
グリムは黙り込んでしまった。Dに心配を掛けてしまう。
けれどそれも無理は無い。目の前のパイプオルガンは酷い状況。
たくさんの根に絡み付かれると、パイプが気持ち悪いことになっていた。そう、絶望する程に。
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