第214話 ●●●●の正体
●●●●とは、一体?
グリム達の視界が真っ白に染まった。
何も見えない。けれど何も聞こえないことは無い。
バシュンと鞭打つような音が目の前から聞こえると、グリムは素早く後ろに飛んだ。
「よっと」
バシュン!
鞭打ち音が目の前の床を叩く。
ステージ上のためか、正直後ろには下がり切れない。
それでも初撃を無事に回避すると、真っ白に染まっていた世界が少しずつ彩りを思い出す。
「ふぅ。みんな、生きてるよね?」
グリムが声を掛けると、同じように色を取り戻した面々が姿を見せる。
如何やらフェスタは〈戦車の大剣槍〉を床に突き立てている。盾のように扱う、見事な技だ。
一方〈運命の腕輪〉の防御を使い切ってしまったDはまた別の方法を使っていた。
というよりも、ミュージュが前に立つことで、一時的に防御している。
この数秒間の間、〈女教皇の奏剣〉の力を解放したらしい。
「全く、Ritenutoを使ってなかったら、即死だったじゃない」
「ありがとうございます、ミュージュさん」
「別にいいわよ」
なんだかんだ言いながら、ミュージュはパーティーのために戦ってくれている。
それにしても視界を奪った挙句、蔓を使った鞭攻撃の奇襲。
かなりのやり手だと分かると、グリム達は再度気を引き締めた。
「みんな無事でよかったよ」
「よかったけどさ、どうするのコレ?」
「そうだね。闇雲に戦っても倒せるような相手じゃないのは分かったよ」
このモンスターはとにかく頭がいい。植物の利点を最大限利用している。
植物の再生能力。これは種を残すために必要なものだ。
それから自由自在に動く蔓。恐らく蔦も持ち合わせている。
最後に目となりビームになる花。グリム達を舐めた態度で嘲笑う。
「厄介な相手だよ」
「肝心なのはそこじゃないわ。どうやって倒すのよ?」
「そうですね。このままだと」
「逃げられないし、間違いなく殺されるね。ジリ貧なのはこっちだよ」
負けたっていいことは何も無い。何度でもデスポーンして再度挑む何てこと、このゲームでは許されていない。
経験値が活かされる。それはモンスターも同じ。仮に同一の個体だとしても、AIが自動で学習してより強くなる。倒すなら、今倒しておくのがベスト。グリム達の強さを認識させるのが大切だ。
「ここで退く訳には行かないよ」
「そうだとしてもさー」
「分かってるよ。対処法だよね? 少なくとも、まともにやり合って倒せるような相手じゃないのは確かかな」
とは言え魔元にやり合う以外に道は無い。
何せここは建物の内部。例えば冷や水を使ったとして、それで倒せるかもしれないが、同時にグリム達も巻き込まれる。
そんな自滅的な事故は演出しない。演出してはいけない。トラウマ必死を避けるべく、グリムの取った行動は一つだ。
「植物の根を潰そう」
「「「植物の根?」」」
ここまでずっと考えていた。怪しいの極致に来ていた。
何せこのモンスターは何処から現れたのか。バイオリンに取りついていたものと同じだとすれば、必ず根っこがある。
種のようなものが何処か、それこそ楽器の中に隠れているのが一番分かりやすく、グリムの思考はピンと来た。
「そもそも、生長点を潰せば植物は生えない」
「そうなの!?」
「大体根っこの少し上あたりにあるんだよ。ってことは、何処かに根っこがある」
「そうよね。さっきから蔓か蔦しか伸びてない物ね」
「後花もですよね。大事な根っこは何処かに隠しているんでしょうか?」
鋭い意見が飛び交う。
この中で特に大事なのは、“何処に隠している”のかだ。
「それじゃあ何処に隠すのー?」
「決まっているよ。ここに有る植物達には共通点がある」
「共通点……やっぱり楽器?」
「そうだよ。あの石碑に書いてあった●の正体。自ずと答えは見えて来るね」
音楽堂の前にひっそりと建てられていた石碑の正体。
アレは全てこの音楽堂に潜む強敵を示していた。
その中でも特に読めなかった部分。●●●●。その正体は当てはめれば分かるが、楽器植物というのは筋が通る。
「楽器植物、ダサいネーミングね」
「そう言ってあげないであげてよ。実際、分かりやすいでしょ?」
「分かりやすいわ。でもソレが分かってなにになるのよ?」
確かにミュージュの不満は最もだ。
敵の正体が判ったからと言って、何処に弱点があるのかは不明。
恐らくは楽器なのだが、廊下にでも隠れていれば探すのは不可能だ。
「ちょっと賭けになるかな」
「賭けですか?」
「おっ、大賭けするの?」
フェスタは何故か一人盛り上がる。
とは言えこれはあくまでも勘。直感じゃない、そうであって欲しいという願望。
グリムは信じ切ることにしたが、目の前のソレを指さす。
「あのパイプオルガン、怪しくないかな?」
「それはそうね。なんでパイプオルガンなんかに寄生して」
「寄生……確かにそう捉えれば分かりやすいかな。パイプオルガンに寄生する、ボスの威厳、これだけの知能。その源はパイプオルガンにある」
ここからは少し、否、凄まじきファンタジー。
思考を分解し、願望を口にする。
「あのパイプオルガンは音楽堂の象徴。それもそうだね、取り外しが利かない」
「当り前よ。一体化しているんだから」
「つまり歴史がある。栄華を極めた時代も、寂れて廃れた時代も。それらが植物を通して意思をも取ったとすればどうかな?」
「あっ、音に命が宿るってこと!」
「そうだね。これが全ての答え、つまりパイプオルガンに秘密はある!」
グリムの読みは正しいのか正しくないのか。真実を追うしかない。
そのためにはパイプオルガンに近付くこと。目の前の蔓のバリケードは非常に邪魔。
となればやるべきことは超えること。グリム達は鞭を打つ蔓に戦いを挑む。ここまで待ってくれていたのだが、流石に一撃だって入れさせるわけにはいかない。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。