第213話 嘲笑う花
このモンスターは進化を望む。
「また成長を始めたわよ」
「そうですね。このままどれだけ伸びるんでしょうか?」
「さぁね。少なくとも放置はできないかな」
パイプオルガンを飲み込もうと成長を続ける蔓。
一体何をしようとしているのかは分からない。
けれどこのまま放置はできないので、フェスタは早速動き出す。
「よーし、一発ドーン!」
大剣を振り下ろし、フェスタは蔓を切り飛ばそうとした。
大振りの大剣が蔓を切る。バッサリ千切ってしまうと、成長が止まってしまった。
「よし。止まった!」
「いや、まだ終わらないよ」
グリムは未だに警戒している。
フェスタが切り落とした蔓に大鎌を刺す。
完全に成長点を潰そうとしたが、千切られた蔓は再び成長を始める。
「うっ!」
「グリム、よっと」
グリムは蔓に成長率に慄く。
つい蔓がグリムの足に巻き付こうとすると、体勢を崩して倒れそうになった。
けれどフェスタが後ろに回り込んでいてくれたので怪我をせずに済むと、支えられてしまう。珍しい姿に、Dは少し興奮気味だ。
「グリムさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。それにしても驚いたね、まさかここまで成長するなんて」
「感心してる場合?」
「いいや、場合じゃないね。さてと、どうしようか?」
植物の成長速度は尋常じゃない。
例え蔓を切り刻んでバラバラにしても、何度も何度も生えて来る。
まるで雑草。もっと言えば葛。非情な厄介な怪物を相手にすると、グリムは悩まされた。
「それで、どうする気? このまま黙って見てるの?」
「そんな訳には行かないよ」
「それじゃあどうするのー……グリム?」
グリムはジッと見つめている。謎に咲いた椿の花が意味深だ。
おまけに目の模様が気持ちが悪く、ギョロリとこちらを見つめている。
「D、あの花を狙える?」
「あの奇妙な花ですか?」
「うん。【投擲】スキルで届けばいいけど。どうかな?」
「はい。やらせてください! 必ず当ててみせます」
グリムはDにお願いすると、自信を無くすどころか、むしろやる気を出した。
瞳の中に炎がメラメラと燃えだし、全身を使って興奮する。
よっぽどグリムに頼られたのが嬉しいのか、ミュージュは呆れてしまう。
「Dってグリムが好きすぎるわよね?」
「そうだよねー。まあ、グリムは人気者だから」
「人気者っていうより、狂信よ」
「あはは、そうかもね。でもグリムは間違わないよ」
フェスタからの信頼も厚かった。
けれどグリムは決して間違えない。間違いを間違いにしない。
だからこそ何よりも信じられるが、ミュージュはそれさえ気色悪い。
「まあいいわ。それで、あの花に当ててどうするの?」
「それはこれから見るよ。完全にパイプオルガンを覆い尽くす前にね!」
グリムは大鎌を振り抜くと、未だに成長を続ける蔓を切る。
バッサリ切り落とすと、次から次へと排除して回る。
少しでも生長点を潰すことで成長を衰えさせようとしたのだが、蔓の成長は未だ止まってくれない。
「ダメだね。こっちは手詰まりかな?」
「グリムさん、いつでも行けます!」
「戦輪は大丈夫そうだね。それじゃあお願い!」
「はい。行ってください!」
Dは【投擲】のスキルも使い、戦輪を投げつけた。
クルリと回転しながら、まるでブーメランのように飛んで行く。
Dの腕が高いのか、【投擲】スキルも相まって、椿の花目掛けて飛んだ。
「当たるわね」
「うん。これなら……嘘ん!?」
ミュージュもフェスタも高を括っていた。
確実に当たる。そう思ったのは慢心で、戦輪は花に当たらない。
否、当たる筈だったのだが、何故か腕のように目の前まで伸びた蔓により防がれてしまった。
「おっとっと。グリムさん、今のって」
「間違いないよ。この花は私達を観察してる。あの花が本体で、私達のことをずっと、ずっと嘲笑ってね」
憎たらしいことこの上ない。パイプオルガンに何故巻き付きたいのかは分からないが、少なくともグリム達を見ているのは確か。
明らかに観察しており、蔓を操っている正体なのは間違いない。
グリム達の攻撃を全て嘲笑うかのような動きに嫌気が差すと、ミュージュはついムカついた。
「許せないわね。せっかくの楽器をメチャクチャにして、そんなくだらないことをするなんて」
「怒るとこ、そこなの?」
「グリム、絶対に取っ払うわよ。もっと激しく、Agitatoに行くわよ」
「激しく激しく?」
時折口にする音楽用語をグリムも連呼した。
どのみち音楽堂から出られないのならやるしかない。
それぞれ武器を手にすると、グリム達を嘲笑う花を睨んだ。
「さてと、それじゃあ狩らせて貰おうかな」
「いいねいいね。なんだかパーティーって感じするよね!」
「はい。頑張りまそうね」
「頑張るんじゃなくて、やるだけやるのよ!」
グリム達は武器を手にして突撃する。
どのみち近距離武器なので前に出るしかない。
その事実を花も気が付いたのか、目がニヤリと笑った。
「ん? みんな、止まって」
グリムはその表情の変化にいち早く気が付く。
けれど口にしたのが遅かった。椿の花は大きく膨らみ、一枚一枚花弁を広げる。
真ん中の目玉がカッと開くと、なにが起きたのか分からない。熱光線が放たれ、グリム達の眼前が真っ白に染まっていた。何も見えない、何も分からない。ただ一つ言えるのは、あり得ないことをしてくる花は油断してはいけないことだった。
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