第212話 支配する椿
楽器の力を倍にしてる?
謎の植物の攻撃を難と掻い潜ったグリムとフェスタ。
悲鳴を上げたDとミュージュの元へ急ごうとした瞬間、扉から深緑色をした何かが飛び出す。
勢いが強く、歪ませてしまった筈の扉さえ、いとも容易く壊してしまった。
バーン、ドサッサッサァァァァァ!
深緑色の正体は、波のようにうねる蔓。
一本一本が生き物のようで、例えるなら触手。
扉からステージホール内部に侵入すると、Dとミュージュを飲み込む勢いだった。
「D、ミュージュ!」
「グリム、これヤバすぎるって」
近付こうにも近付けない。蔓の勢いは止まらない。
Dの持つ〈運命の腕輪〉は、いくら無敵の防御形態とは言え、あくまでも表面上。
どんな強大な攻撃から身を守っていても、動けなければジリ貧は確実。むしろ握手にしかなり得ず、流石のDとミュージュも理解していた。
「ミュージュさん!」
「分かってるわよ。奏でよ、〈女教皇の奏剣〉」
Dが防御を解除した瞬間、ミュージュは武器を振る。
指揮棒としての真価を発揮したミュージュの〈女教皇の奏剣〉は、見事な旋律を響かせる。
ただ剣を振っているだけなのに、何処からともなく音楽が聴こえる。
まるでミュージュの体から発せられているようで、グリムとフェスタにまで干渉する。
「Presto。急ぐわよ」
「は、はい! うわぁ、体が勝手に……ええっ!?」
ミュージュが足を上げた瞬間、全身を音楽が包み込む。
すると体が勝手に動き出し、太腿が会長に上がった。
一歩ずつ確かな歩幅で走り出すと、背中から風が押してくれるような感覚になり、Dとミュージュは座席の方に逃げ出した。
「グリムさん、フェスタさん!」
「D、掴まって」
「ミュージュも早く」
「分かってるわよ。解除!」
Dとミュージュはグリムとフェスタ目掛けて突っ込んで来た。
完全に体当たりで、ぶつかる前にお互いに手を伸ばす。
互いの手を掴み合い、Dとミュージュを引き寄せると、勢い余ろうとしていたミュージュは音楽を止めた。
「ふぅ。なんとかなったわね」
「ほんとー。でもさ、ステージ上が地獄なんだけど?」
「そうだね。ステージ上が植物の蔓に支配されているね」
ミュージュの言う通り、何とか命は助かった。
けれどステージホールには植物が嵐となって舞い込む。
大量の蔓がステージ上を支配すると、ひたすらにうねりを上げて蠢いていた。
正直気持ちの悪い光景だ。
けれどもっと気持ち悪いことが起ころうとしている。
ニュルニュル蔓が壁を伝って上っていくと、何故かパイプオルガンにしがみつこうとした。
「キモっ、なによアレ!?」
「植物が壁を伝って……パイプオルガンのパイプに巻き付いている?」
「如何にもって感じだねー」
「はい……ですが、まだ終わらないんですよね?」
「そうだね。多分だけど、ここからだよ」
グリムとDは誰よりも警戒していた。
わざわざ植物の蔓が、パイプオルガンに絡み付こうとしているのは何か意味がある。
確実に意思がある証拠で、侵入者であるグリム達を逃がす気は無いらしい。
全身を鳥肌ものの不安が襲い掛かると、植物の蔓から小さな芽が出る。今にも花が咲きそうで、明らかに変化を迎えていた。
「ちょっと、花が咲きそうよ!?」
「花!? グリム、絶対にマズいよ……グリム!?」
ミュージュとフェスタが叫ぶ前には、グリムは動いていた。
Dもグリムの動きに合わせ、背中を追いかける。
〈運命の腕輪〉を攻撃モードに切り替えると、戦輪状態で振り回す。
「グリムさん」
「D、ごめんね。急な動きに対応して貰って」
「大丈夫です。渡しはグリムさんを見ていますから。それより」
「そうだね。私の直感が囁いているよ。このまま座席に残っていたらダメだって」
グリムはいつもならば口に出してから行動していた。
けれど今に限ってはその範疇に無い。
パイプオルガンに巻き付こうとしている奇妙な光景に、グリムの直感が本人を急かした。
「フェスタ、ミュージュ、急がないとマズいよ」
「マズいってー、って考えても無駄かー」
「はぁ、ちょっとは余裕持ちなさいよね」
「あはは、植物の成長速度舐めてたらヤバいよー?」
「それなら尚更よ。全部止めちゃえばいいんだから。Break」
フェスタは親友のグリムの直感に従った。
せっかく座席で体勢を立て直したかと思ったが、すぐさま攻撃に転じる。
忙しない姿にミュージュは憐れむと、〈女教皇〉シリーズの力を解放した。
ニュルニュル……ニュル……ニュ……ピタッ!
「植物の動きが」
「止まりましたよ? これって一体」
「急ぎ過ぎなのよ。十秒くらいは時間稼いであげるから、ちゃんと説明しなさい」
グリムとDは突然植物の成長が止まって驚く。
つい立ち止まってしまいそうになるが、座席から下りて来たミュージュに説明を促される。
植物の成長を止めたのはミュージュの装備の能力。その効果で十秒間の休憩時間を確保したが、残念なことに間に合わない。
「ごめんミュージュ、十秒じゃ足りないよ」
「そうでしょうね。それじゃあ……アレはなに?」
ミュージュは壁を伝う植物に指を指す。
もちろんミュージュは分かり切った情報が欲しい訳じゃない。
気になっているのは突然出た芽。赤い花を咲かせると、目のようなものがギョロッと浮かび上がっている。
「気持ち悪っ。なに、あの模様」
「分からない。けど……」
明らかにグリム達を観察している。
突然現れた椿のような花。しかもとても巨大で、一般的な花の大きさじゃない。
ピタリ立ち止まって睨みを利かせると、Breakが解け再び成長が始まってしまった。
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