第210話 植物のバリケード
「ちょっとグリム、これどういうこと?」
「信じたくは無いね」
「信じたくは……って。まさか半分信じてるんじゃないわよね? バカバカしい、そんなのある訳ないでしょ?」
「そうかな。そうだといいんだけどね……」
グリムは少し弱音を発してしまう。今は考え事をしているから仕方が無い。
とは言え、楽器が動くのならここにいるのは危険だ。
今すぐにでも離れるべきと、クラリネットを分解して再び箱の中に納めると、見なかったことにして立ち去る。
「みんな、一旦戻るよ」
「戻るって、ステージに?」
「そうしたいのは山々だけど、外かな。建物の外に出よう」
グリムの提案は“逃げ”のようであった。らしくはない判断で、フェスタは首を捻る。
それだけこの場所が危険な証拠、そう受け取るのが吉。
流石にバカには成り切れないので、フェスタも従うことにした。
「いいよー。じゃあ逃げよっか」
「に、逃げちゃうんですか!?」
「一旦体勢を立て直すんだよね。グリムの考えていること、なんとなく分かるよ」
「正解。それじゃあ一旦建物の外に……はっ?」
グリム達が楽器の収納部屋から出た瞬間、信じたくもない光景が広がっていた。
果たして今の会話を聞いていた何者かの仕業か? いや、そうとしか考えられない。
バカげた光景が広がっており、大量の植物の蔓が伸びると、進路を封じていた。
「ちょっと、進路が無くなったわよ!?」
「マズいね。勘付かれたかな?」
「ちょっと、それじゃあ私達は最初から……はぁ、面倒だわ、やっぱり面倒よ!」
ミュージュの言う通り、かなり厄介で面倒な状況になった。
目の前を植物の蔓がバリケードになって覆っている。
強行突破は難しそう、かと言って退路もない。部屋の中に閉じ込められれば完全にお終いだ。
「さてと、どうしようかな?」
「どうするもなにも……進撃あるのみでしょ!」
「フェスタらしいね。でもそれしかないかな?」
フェスタは大剣を振りかざすと、いつでも蔓を切れる用意をする。
もちろんグリムも大鎌に手を掛けていた。
二人でどれだけ刈れるかは分からないが、バリケードにも穴はある。例え追い込まれているのだとしても、今は行くしかない。
「二人共、私達に付いて来て」
「えっ、まさか行くんじゃないわよね?」
「行くに決まってるよ。なに言ってるの、ミュージュ? もしかして、怖気づいた?」
「怖気づくとかじゃないでしょ? Dはそれでいいの」
「私はグリムさんに付いて行きます」
「もうグリム大好きね、貴女は!」
ミュージュはこの状況を呆気に取られた。
グリムとフェスタはバカみたいに目の前のバリケードを壊しに行く。
Dはグリムに全部任せ、命の天秤さえ傾かせている。
どんな“絆”なのか、ミュージュは取り残されると、顔色が悪くなった。
「もういいわ。賭けるわよ、貴女達にね」
「ありがとう、それじゃあフェスタ」
「うんうん、せーのっ!」
バコーン!
フェスタは振り上げた〈戦車の大剣槍〉を大剣モードで振り下ろす。
もの凄く重たいおかげか、威力は形外だ。
目の前のバリケードが完全完成する前に一発切り落とすと、少しだけ道が開けた。
「流石、フェスタ。それじゃあ行くよ!」
コートをひらりと振り払い、〈死神の大鎌〉を振り上げた。
肩に掛けた一振りは、蔓をバッサリ切ってしまう。
フェスタよりも素早く動き回ると、二振り三振り蔓を切った。
ザッ! ザザッ! ザザザッ!
とにかく大鎌で切り続け、蔓を刈り続けた。
バリケードに少しだけ穴が開き、道を開くことができる。
如何やら植物とは言っても眠りから覚めた状態。まだ成長速度は速くないのか、それとも成長点を先に潰したおかげか、経路が垣間見えた。
「行くよ!」
グリムの号令に合わせ、一直線で廊下を突き進む。
大量の植物は根を張り蔓を伸ばし、もはや外への脱出は不可能。
一旦諦めることにしたグリム達は、選択を委ねることにした。
「グリム、この後はどうするの?」
「そうだね。とりあえず行けるとこまで行こう」
「行けるとこまでって……って、ステージに戻ってない?」
「確かに。誘導されているのかな?」
明らかに罠のニオイが立ち込めている。
植物のバリケードは何故かステージホールの方には伸びていない。
誘き出されているのだが、それでも行くしかないので方向転換した。
「扉が閉まってるよ!」
「フェスタ、分かってるよね?」
「分かってるよー。せーのっ!」
ズッキューン!
大剣を大槍に変形させると、体ごと体当たりを繰り出す。
サイの突進のような荒々しさで扉に激突すると、まさかの扉が負けてしまう。
金属製の扉が凹み簡単にひしゃげてしまうと、グリム達はギリギリ開いた空間に飛び込んだ。
「みんな滑り込むよ。引っ掛からないようにね」
「は、はい!」
「分かってるわよ、そんなの」
「そりゃぁぁぁぁぁ、うおっとっと」
何とか全員でステージホールに戻って来れた。
けれど後ろの扉はもう使えない、つまり逃げることができない。
ましてやステージホールは植物の罠が待ち受けている。
グリム達は全力で警戒をすることにし、ステージホールで一塊になり。
「さてと、一体どんな罠が待っているか……」
「な、なんかヤバそうじゃない?」
「そうね。これは想定外よ」
「い、急いで防御します! 皆さん、集まってください」
グリム達を待ち受けていたのは蠢く植物の群れ。
大量の蔓が飛び交うと、完全に化物。
近付くだけでも恐ろしい光景に、グリム達は団子になった。
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