第209話 忍び寄る蔦
楽器の体を持つ植物。
とりあえずグリム達は、パイプオルガンは把握した。
けれど把握しただけで、何の意味もない。
少なくとも目当てのものの気配は無く、周囲を見回す。
「静かですよね」
「そうだね。なにも無いね」
Dの言葉にあやかったが、モンスターの気配さえ感じられない。
グリムの【観察眼】もDの【気配察知】も効かない。
完全に静まり返り、寂れてしまった音楽堂になっていた。
「なーんだ。つまんないのー」
「つまらないなんて言わないでくれる?」
「フラグ立てたってことー? だったら好都合じゃない?」
「好都合じゃないわ。私、モンスターと戦いたくないもの」
ミュージュはと言うと、戦いたくないらしい。
確かにミュージュの戦闘スタイル的にも、まともにやり合うのは得策じゃない。
とは言え、フェスタはストレートなスキル構成。おまけに近接戦闘の装備だ。敵が出て来てくれないと、戦うことさえできない。
「さてと、それじゃあ見て回ろうか」
「見て回るって、座席を?」
「それもいいね。でも、私とDのスキルが発動しないってことは、そう言うことだよね?」
グリムの言いたいことは一つだ。
結局、スキルに反応しない以上手掛かりはそこには無い。
ともなれば、モンスターが隠れている可能性が高い。何せ噂だと楽器の形をしたモンスターが眠っているらしい。
「とりあえず楽器の収納部屋に行ってみよう」
「収納部屋ね。そこならあるかもしれないわ」
「それじゃあ早速行ってみよー」
グリム達は音楽堂のステージホールから、楽器の収納部屋を探すことにした。
備え付けの楽器達ならまだ残っている可能性がある。
けれどかなりの時間が経過している。管理もされていないのなら、既に使い物にならなくなっている可能性は高かった。
「まあどうあれ、ここに来た以上はアイテムを手に入れないと……えっ?」
「どうかしましたか、グリムさん? ……あれ?」
グリムは立ち止まった。
ピタリと周囲を見回すと、ゾクリとした感触は肌を撫でる。
同じようにDも体を擦った。鳥肌が立つと、髪の毛まで逆立つ。
「どうしたのー、二人共?」
「急に立ち止まって、なに? 早く行くわよ」
「ああ、うん」
「そうですよね。気のせいですよね?」
グリムもDも嫌な感触がした。
けれどミュージュに急かされてしまい、ステージ上を後にする。
収納部屋を探しに向かうと、グリム達の去った後、ズルリと何かが這っていた。
「ここかな?」
「以外に早かったわね。っていうか、一番奥なんね、かなりベタよね」
探していた収納部屋は音楽堂の最奥だった。
とは言え、一番湿度が安定している場所に楽器を補完するのが基本だ。
楽器はすぐに傷んでしまうと、そんなことになれば音が変わってしまう。本来のパフォーマンスが発揮されないのは明白で、何よりも厳重な扉構えの部屋が怪しいのは窺える。
「それじゃあ入るよー。ありゃぁ?」
フェスタが扉を開くと、ガララと何の抵抗もなく開いた。
錆びついている節も無く、ましてや鍵さえ掛かっていない。
明らかに怪しく映り、グリムはムッとした表情で眉を寄せた。
「なんで扉が開いているのかな?」
「さぁ? ここを放棄する前に、鍵を開けっ放しにしたんじゃないの?」
「それとも、鍵穴を誰かが壊したんでしょうか?」
「いや、その可能性は低いと思うよ。鍵穴にピッキングされた様子が無いからね」
グリムは鍵穴を目を凝らしてよく見る。【観察眼】と【看破】を併用し、確実なことを言い当てる。
この鍵穴はピッキングされていない。ましてや長い間鍵が閉っていなかった。
にもかかわらず扉が簡単に開くのは不可解で、グリムは神妙な面持ちになり、収納部屋に入るだけで警戒する。
「ほーら、そんなのいいから早く入ろうよー」
「ちょっと、フェスタ。少しは警戒を……はぁ」
溜息を付いてしまうのも仕方が無い。
警戒心〇のフェスタにとって、警戒するとかしないとかはつまらないものだ。
腕を引っ張りグリムを収納部屋に引き摺りこむと、真っ暗な部屋が広がるだけ。
「真っ暗ですね。灯りが必要ですよね!」
「頼めるかな?」
「任せてください。【光属性魔法(小):ライト】!」
Dはすぐさま魔法を唱えた。
真っ暗な部屋の中が一瞬にして明るくなると、昼間のように視界が良好。
ミュージュは明かりが供給されていない部屋の中が明るくなったことで、達観した姿勢を見せる。
「へぇ、やるじゃない」
「ありがとうございます。それにしても……」
「そうね、案の定楽器は放置されていると」
州の部屋の中にはたくさんの棚やラックが供えられていた。
その中にはギターやベースのような楽器や、オーケストラでお馴染みのバイオリンやチェロなど大きな弦楽器まで収まっている。
更に別のガラス棚の中にはトランペットやトロンボーンに加え、ホルンのような金管楽器が収まっている。
どれも妙にピカピカ光っていて、錆びついている様子が無い。
ましてや棚の中には埃が積もっていて、何者かの手によって開けられた節がある。
「怖っ。誰か潜んでいるわよ、これ!」
「そうだね。こっちの箱は……」
音楽堂の楽器が一人で動き出す。そんな可能性も考慮するが、何者かの手によって持ち出されている可能性も感じられた。
そこで一つずつ楽器を調べることにしたグリムは、一番近くに置いてあった黒い箱を手に取る。
厳重にロックがされており、カチャと金属製の留め具を開錠すると、中にはこれまた見事な造りの笛が収まっている。
「クラリネットかな? 新品未使用品みたいだけど、盗品狙いなら持っていくんじゃないかな?」
「さぁ? 価値が無いと思ったんじゃないの? 意外に高いのよ、クラリネットって」
「そうだね。私も楽器店で見たことがあるから知っているよ。だけどここにある楽器達はどれも手入れがされている。それを放置するなんて……考え辛いよね」
実際、今でも現役で使える楽器達ばかりだった。
むしろ今で頃輝きそうな楽器が多く、マニアなら喉から手が出る程欲しい筈。
ミュージュがジッと目を凝らす時点でそれは確かで、グリムは手にしたクラリネットを観察する。するとある物に気が付いてしまった。
「ん?」
「どうかしましたか、グリムさん?」
「いや、ちょっとね。D、コレが見えるかな?」
飛び跳ねるようにDが傍に寄ったので、一緒に見て貰う。
クラリネットをDの高さに合うように下ろすと、何かに気が付いてくれる。
もちろんとんでもない違和感……ではないのだろうが、明らかに普通じゃない。
「グリムさん、植物の蔓が絡まっていますよ!?」
「はっ、なにそれ絶対にあり得ないわ!」
「それがあり得るから困っているんだよ。ほら」
グリムとDがクラリネットに感じた違和感。
何故か植物の蔓、しかも真新しい物が絡み付いている。
まるでクラリネットから手足が生えたみたいな位置から伸びているのがまた気持ちが悪い。
「本当……ね」
「えー、それじゃあ楽器が動いてるってことー? あはは、面白いね」
ミュージュはドン引きしてしまった。何せこんなこと起こりえない筈だ。
それを面白がるのはフェスタだけで、“楽器が動いた”と表する。
もちろんまだ確証がある訳ではない。グリムは頭の中に発せられた“ソレ”の意識から目を逸らすように、信じたくなかった。何せあまりにも不気味で、もしそうだとすれば“既に手の中にある自分”が危険にあるのは確かである。
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