第208話 パイプオルガン
「うおっ、なんか分厚い扉があるよー」
「二重扉だね」
「当然よ。ここは音楽堂、音が漏れたら意味無いでしょ?」
音楽堂の中を歩き回ったが、何も起きなかった。
モンスターが出てくる訳でも、罠が仕掛けられている訳でも無い。
何事もなく一番奥まで辿り着くと、分厚くて大きな扉が設置されている。
コンコン!
軽く扉を叩いてみると、金属の音がした。
更には銀色の扉の一部、特に角の辺りが変色している。
赤茶けていて、触ると指に付く。湿ったニオイがしており、グリムは鼻腔がツーンとした。
「おっ、鉄製だね」
「かなり古いわね。でも鉄だから腐ってはいないわ」
「錆はあるけどね。さてと……おっ。フェスタ!」
「はーい、なに? もしかして、引っ張る系?」
「引っ張る系。一緒に引くよ、せーのっ」
グリムとフェスタが扉を同時に引いた。
錆びているせいか、扉が頑固で開かないと思ったのも一瞬。
重いは重いが、すんなり扉は開いた。
「凄いです、グリムさんフェスタさん」
「ありがとう、D。さてと、この先は……おっ」
「「わぁ! なんか、凄いねー」凄いですね」
二重扉の奥には開けた空間があった。
如何やら地下に繋がっているらしく、すり鉢状かつ扇型で形成されている。
たくさんの席が並び、最奥には段差のあるステージが、今も煌びやかな光の袂にあった。
「へぇ、立派なホールね」
「そうだね。音楽堂らしいよ」
正直、ここまで現存しているとは思わなかった。
あまりにも意外だったので、言葉を失ってしまう。
何を隠そう、外観は完全に寂れていた。人の出入りが完全に無いせいか、内装も寂れて潰れたかと最低な想像をしていたのだ。
けれど蓋を開けてみれば、そんな想像は微塵も思えなくなる。
むしろ想像していた自分が恥ずかしくなってしまう程で、二重扉の先は当時のまま保存されていた。
如何やらあの扉とこのホールを覆う壁が特殊な効果を持っており、過去と未来を別っていた。
「それはそうだとして、一番気になるのはアレだよね」
「はい。あのステージ上に大きな楽器? はなんでしょうか」
「うんうん、たくさんのパイプ? が並んでるね」
ステージ上には特徴的な楽器が立て掛けられていた。
丸みを帯びた天井まで伸び、ましてや突き抜けてしまいそうな程長いパイプ。
それを覆うように赤茶けた木の箱が壁を侵食しており、その下にはピアノの鍵盤が繋がっている。
日常生活では決して見かけない楽器だ。
知識として知らない人も多いだろうが、ここにはグリムとミュージュがいる。
珍しい楽器の正体を容易く看破した。
「「パイプオルガンだね」ね」
「「パイプオルガン?」ですか?」
楽器の正体はステージとほぼ一体化したパイプオルガン。
もちろん持ち運びなんてできる筈もない、大型の楽器だ。
多数の楽器の中でも異彩を放っており、その大きさは世界最大。
機構も特殊なため実物を現実で見たことは、すくなくともグリムは無かった。
「まさかこんな所でパイプオルガンに触れるなんて」
「本当、楽器の大様よね」
「あはは、モーツァルトの言葉だね」
確かに引用するには充分な迫力だ。
早速階段を降り、ステージ上に向かう。
ふとグリムはその間も辺りを見回すと、当時の面影をそのまま残すかのように、座席には埃一つない。
「清掃が行き届いているね」
「不思議ですよね。もしかして当時のまま?」
「その可能性はあるね。この音楽堂は、当時の面影を情景と一緒に残していることになる。これはもう確定かな」
グリムの憶測が正しいのであれば、口にした事実は間違いがない。
けれどそんな話は如何でも良いのか、フェスタもミュージュもパイプオルガンに引き寄せられる。
それだけの存在感があるため仕方が無いが、グリムとDもパイプオルガンを見上げた。
「うわぁぁぁぁぁ! 凄いですね、言葉が出ません」
「たくさんパイプが繋がってるねー」
「なに言ってるのよ。今見えているのはほんの一部よ」
「嘘っ!? そんな訳ないってー」
「そんな訳あるんだよ。このパイプオルガンの向こう側には、林のように何本ものパイプが立ち並んで繋がっているんだ。それによって、迫力のある音を奏でることができる」
これはあくまでも動画サイトや高校時代の音楽の授業で聴いたことがある程度だ。
だから実際の音がどれほどの迫力かは分からない。
けれど今それが目の前にある。例えゲームの中とはいえ、脳に伝わる情報は本物だった。
「どうやって音が出るんでしょうか?」
「簡単よ。鍵盤を弾くことで、あの何本も繋がったパイプから、合致する鍵盤と同じパイプに風が送られて音が出るのよ。こんな風にね」
ミュージュはパイプオルガンに近付く。
試しに鍵盤に指を触れさせると、鍵盤を軽く弾いてみる。
指の腹に力を加えると、パイプに風が送られた。
ウォー――――ン!
パイプオルガンの鍵盤を弾き、送られた風がパイプを伝う。
迫力のある音が耳だけではなく体全体を伝うと、グリム達は動けなくなった。
一瞬にして音の魅惑に包み込まれ言葉を失ってしまうと、ミュージュは静かになるのを待つ。
「ふぅ。いい音よね」
確かに言葉を失うくらいにはいい音だった。
ミュージュは慣れているのか、満足そうな顔をする。
けれどグリム達はその流れに付いて行けず、ただ素敵な音に放心した。
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