第207話 小さな石碑の秘密?
秘密ってなんだろう?
グリムは小さな石碑を観察する。
小さすぎて何が書かれているのかは正直分からない。
けれど細かく彫り込まれていて、【観察眼】を使えば文字の一部は読めるかもしれない。
「えーっと」
「読めるんですか、グリムさん!?」
「まあ、一応ね。ちょっと待って」
グリムは目を凝らして覗き込んだ。
石碑の文字は酷いくらいに潰れている。
おまけに苔が生えたり、カビが生えていて、非常にお粗末な状態だった。
「読めるー?」
「なんとかね。えっと……これは」
グリムは目を凝らし、石碑の解読に挑戦した。
けれど潰れている部分は分からない。
そのせいか、グリムが並べた文言は以下の通りだ。
汝、ここに来てはならぬ
汝、足踏み入れたるは●が待●
汝、それでも●踏み●れ●るならば
汝、以下の忠告を贈ろう
汝、これより先は●が支●する地
汝、魔境に踏み入るは
汝、●●●●により●が待つ
汝、魔境に●いたくば
汝、以下のことを●け
汝、さすれば鎮魂の歌が●●●●を退けるであろう
汝、求めしものその手にあらんことを
「だってさ」
「「「だってって」」ですか?」
正直肝心な部分が潰れていて読めなくなっている。
苦悶の表情を浮かべると、これ以上は読めない。
あまりにも意味深すぎて首を捻ると、フェスタは頭の上で腕を組む。
「なーんか、分かんないね」
「そうかな? ヒントみたいだけど」
「ヒントですか?」
「うん。きっとこの音楽堂の中にはなにかがいる。確実にね」
とは言えそこまでは分かり切っている。
問題は一体何が潜んでいるのかだ。
今回はイベントではない。PvPでもない。レベル差で覆せない相手ならば今回は撤退がベストになる。
「まあ、撤退はしないけどね」
「ってことは行くのよね?」
「そうなるね。さてと、そろそろ入ろうか」
石碑に書き込まれた碑文の内容からは、これ以上の情報を得られない。
音楽堂の中に入ってみることにしたグリム達は、今にも外れてしまいそうな扉の前に立つ。
「うわぁ、壊れそうー」
「そうだね。フェスタ、そっち持って。外すよ」
「OK。よいしょっと……うわぁ、腐ってる!?」
「本当だ。豆腐みたいに脆いね。シロアリに食われているみたいだよ」
音楽堂の正面玄関。外観としては一応原型を留めてはいる。
改めて形状としては奥に行くにつれて丸みを帯びた円形に、三角形の屋根が付いている。
明らかに意味がありそうで、噂を照らし合わせれば意味も見える。
そんな計算された構造と形状の音楽堂は不気味だ。
扉は外れかけており、しかも触ってみればかなり腐っている。
経年劣化の前に、シロアリによって中身が食べられていた。
「あ、危ないですね」
「そうだね。よいしょ……でも、なにかありそうだよ」
「な、なにかですか!? 一体なにが……」
「それは分からないよ。でもね、明らかに”招かれてはいない”かな」
扉をとりあえず二枚外した。
出入り口がオープンになると、灯りなんてものは当然ない音楽堂の内部が明らかになる。
そこは薄明かりだけが差し込んでおり、とても暗くて立ち入りたくない。絶妙にホラーな雰囲気を立ち込めさせていた。
「それじゃあ行ってみよう」
「あっ、待ってください、フェスタさん」
フェスタはまるでこの空気に動じることは無い。
むしろ果敢に足を踏み入れると、Dは慌てて止めに入る。
けれどその時には遅い。土足で足を踏み入れた直後、重みで床がバキッ! と音を立て、板が割れてしまった。
「うわぁぉ!? 穴が開いちゃった」
「ど、ど、ど、どうしましょう。グリムさん、これって大変なことですよね!?」
「落ち着いて、D。この音楽堂はもはや誰にも管理されていない。完全に廃墟だよ」
「そうだとしても、管理人はいる筈ですよね。どうしたら、その、どうしたら……」
Dは慌てふためいてしまった。
頭を抱えて動揺する仕草が可愛らしく映る。
グリムもミュージュも動じることは無く、むしろ今の音で何も起きないことが不思議だった。
「グリム、分かるわよね?」
「まあね。今の騒ぎで存在は確かに伝わった筈。もう少し静かに過ごしたかったけど、扉があの調子なら仕方がないね」
扉が腐っていた以上、中も相当傷んでいるのは承知の上。
けれど一歩踏み入れただけで床が抜けるとなればかなり脆い。
音楽堂が潰れるのも時間の問題か、グリムとミュージュも足を踏み入れた。
「フェスタ、大丈夫そう?」
「うん。床は抜けたけど、私は平気だよ」
「そっか。それじゃあ奥を目指そう。音楽堂に長居できそうにないからね」
グリムの指示を受け、フェスタは「はーい」と手を挙げる。
まるで子供のように無垢な態度を見せつけた。
もちろんフェスタの素が出ているだけなのだが、それでも一歩一歩が大きくて床の軋む音がずっと響いている。
「ちょっと、フェスタ。うるさいわよ」
「えー、でも騒いだ方がよくない?」
「よくは無いわ。敵をおびき寄せるつもり?」
「うん。その方が面白いでしょ? どうせ後で戦うんだったら、今でも同じだよ」
「……分からないわ、その感性」
音楽堂の中にはどれだけにモンスターが潜んでいるかは不明。
そのほとんどは音楽に絡めたものであるだろうが、気掛かりは石碑の内容。
●で塗り潰されたモンスターが今の所見えず、グリムは警戒していた。
「さてと、なにが出て来るかな」
「グリムさん?」
「大丈夫だよ。最悪逃げればいいからね」
不安そうなDを尻目に、グリムは楽しそうだった。
道への探求はワクワクする。
そんな胸の奥に秘めたものを撫でられ、ついDの頭を撫でていた。嬉しそうに目を細めるDだったが、グリムはご褒美だとは気付いていなかった。
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