第203話 ミュージュと再会
偶然か必然か?
ミュージュは凄く嫌そうな顔をしていた。
グリム達の姿を見るや、全身に鳥肌が立つ。
表情が変わり、険しくなってしまっていた。
「チッ、なんで貴女達がここにいるのよ!」
「さぁ、なんでかな?」
「ウザッ。もしかして、私を付けて来たの? ここが私の行きつけだって知って」
「行きつけなんてオシャレだね。残念だけど、ただの偶然だよ」
グリム達はミュージュがピッコロ・スオノに足を運んで居ることなど、知る由も無かった。
ましてや行動を把握している訳もない。
つまりは単なる偶然。いや、偶然を引き当てた時点でそれは必然なのかもしれない。
「偶然って怖いよねー」
「そうですよね。偶然って怖いですよね」
「そうだね。偶然って……」
「ウザッ、本当にウザいわね。なに、私のこと恨んでるの?」
被害妄想も大概だった。
如何やらミュージュは本気で偶然を信じていない。
グリム達がストーキングしていると勝手に決めつけると、NPCの女性=#―プを睨んだ。
「#―プさん。なんてことしてくれたの?」
「わ、私は良かれと思っただけですよ」
「その“良かれ”が迷惑になることくらい、考えてみれば分かるでしょ?」
「す、すみませんでした」
ミュージュは怒りの矛先をNPCに向ける。
#―プは俯き加減になり、全身から申し訳ないオーラが出る。
流石に可愛そう。#―プは何も悪くないので、グリムは間に立つ。
「ミュージュ、#―プは悪くないよ」
「悪くないじゃないわよ。もう、私になにか用?」
腕組をすると、ミュージュは面倒臭そうに口走る。
如何やらグリム達の目的を確かめようとしている。
もちろんそんなもの決まっていて、グリムは単刀直入に答えた。
「ミュージュは知ってる筈だよ」
「はぁ。またバカなことしてるのね」
「バカなことじゃないよ。それが私達のプレシャスだから」
「わざわざゲームタイトルと掛けなくていいのよ。全く、本当にバカみたいに時間を使ってるわね」
ミュージュはグリム達のことを散々に罵倒する。
それだけグリム達のしていることが愚かだと思っているのだ。
けれどグリムはこうも思っていた。
くだらない会話なら無視すればいい。それをしない時点で、ミュージュもまた愚か。
つまりは同じ穴の貉。そんな単純なことに気が付いていない時点で、ミュージュが可愛く映る。
「なによ、その目気に入らないわ」
「そうみたいだね。でも、ミュージュに用があった訳じゃないんだよ」
「はっ、なにそれ。ムカつくわね」
「あはは、ミュージュって面白い!」
急にフェスタは笑い出した。
ミュージュの態度の変化が面白いのだ。
コロコロとグリムの言葉に動揺し、気に入らないとばかりに苛立つ。
「はぁ。貴女達と話していると、私がバカみたい。悪いけど、行くわね」
「あっ、待ってよ」
「なに? まだ用があるの?」
「もちろんあるよ。改めてミュージュ、私達の手伝いをしてくれないかな? もちろん報酬は出すよ」
グリムはミュージュを誘った。
二回も会うのだから、相当縁のある音楽家で間違いない。
けれどミュージュの気がそう簡単に変わるとは思えないので、ここは交渉に移る。
ミュージュの欲しがるようなものを提示することで、協力関係を築こうとしたのだ。
「それじゃあ、こういうのはどうかな?」
「ん?」
「私達のギルドに入ってよ。そうしたら、私達が手に入れた珍しいものを見せてあげる」
「珍しいもの?」
「ミュージュも音楽に精通しているなら知ってるよね? でもここでは敢えて核心は付かない。言えるのは、“レコード”ってことくらいかな?」
「はっ!?」
ミュージュの表情が変わった。
卑怯なことをしている自覚はあるものの、妙に食い付きがいい。
欲しい餌を垂らされれば、警戒しながらも魚は近付く。それが旨味が強く、ニオイが強ければそれだけで惑わされる。ミュージュも上手く針に掛かり、興味深そうに鼻を高くした。
「へぇー、持ってるのね」
「まあね」
「それじゃあこういうのはどう? 私が今、貴女の持っているそれを奪うの」
「あはは、面白そうだね。でも止めた方がいいよ。私は強くないけれど、ミュージュに負けるとも劣らずだからね」
非常に冷静なやり取りにはたった一言・二言に重厚感がある。
お互いに腹を割らない。代わりに見えない拳銃を突き付ける。
そんな描写に空気が重くなるも、先に折れるのはミュージュだった。
反応は……以外に好印象だ。
「いいわね、それ。でも悪いけど」
「まだ不十分かな?」
けれどミュージュは相変らず芯が強い。
自分の決めたことを曲げず、#―プにお金を払う。
何をするのか、もちろんここに来た以上楽器を見る……否、弾くのだ。
「いつものピアノ借りるわよ」
「あっ、はい。どうぞお使いください」
「いつものピアノ?」
ミュージュの武器が指揮棒の様だった。
てっきり指揮者志望なのかと思ったが、そんな訳もない。
ピアノと言うワードに惹かれ、視線を向けると一回の奥に大きなグランドピアノが置かれている。まるでこのライブハウスの象徴のようで、触れることが許されたものは一握りしか居なさそうな空気だ。
「ミュージュってもしかして?」
「うちで最も優秀な演奏者ですよ」
「ピアニストってこと?」
「はい。見ていてください、ミュージュさんの音楽を」
#―プは期待している。如何やら今から演奏が始まるらしい。
ゴクリと喉を鳴らし、固唾を飲んで見守る。
すると繊細な指が鍵盤に触れると、軽やかな音を安らかに奏でた。
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