第201話 隠しクエストでした
隠しクエストって便利な設定。
「あの、お爺さん。このレコードを私達に見せてくれたのは?」
「無論、このレコードをお前さん達に譲ろうと思ってな」
「「「えっ!?」」」
あまりにも唐突な話しだった。
その流れはあったものの、急展開を迎える。
間がまるでなく、いきなりレコードを貰う流れに移ったので動揺する。
「えっ、そのレコードくれるの!?」
「如何にも。これは礼じゃ」
「礼って、そんなの貰えないよ」
「嘘ん!?」
フェスタにツッコまれてしまう。
それ程までにグリムの即答はおかしく、目を見開いて驚かれる。
けれどグリムとしてみれば、簡単に受け取ることはできない。
前置きもそこまで無い。経緯も不明。如何にも怪しい。
おまけに五十年前に手にし、この世に一枚しかない筈のレコードを渡す信念。
流石に理解ができず、グリムは拒否してしまった。
「謙虚な奴じゃの。いいから貰っておけばよいものだ」
「そうはいかないよ。この世に一枚しかない、NPCもプレイヤーも欲しがるような品だよ。そう簡単に受け取れない」
「そ、そうですよね。グリムさんの言う通りです!」
「Dは相変らずグリムの味方か―。で、お爺さんは?」
グリムの反応は謙虚さそのものだった。
それに追従するように、Dもグリムの味方をする。
フェスタはそんなやり取りを見守ると、老爺はレコードを手にして悩みを打ち明けた。
「確かにこのレコードは貴重な物で、俺の宝物じゃ。だがの、お前さんは知っているだろう。さっきもこのレコードを狙って、俺を詰めよって来るような輩がいた。乱暴な奴だったな」
「アレはたまたまで……」
「こんな嫌がらせが何年も続いていると言ったら?」
「それは……警察案件じゃないかな?」
個人で解決するのが難しそうな案件だった。
もはや事件にまで発展していて、只事では済まない。
本当に怪我人や死人が出るかもしれず、例えNPCであったとしても大事だった。
「警察か。そんなものに言っても、レコードを狙う輩は増えるじゃろうな」
「それじゃあ堂々巡りだね」
警察に通報したとしても、所詮はレコードと切り捨てられる。
おまけにレコードの所有者を知らしめることになる。
今以上に嫌がらせが増えそうで、怖い気持ちは凄く分かる。
「おまけに俺にはこのレコードを聴くことができない」
「貴重だからですよね。分かります」
「それもあるが、このレコードの音を俺は聴くことができなんじゃ。だから、俺がいくらこのレコードを持っていても、レコードは浮かばれん。流石にそれは、コレクターとして許せんのだ」
更に意味不明なことを言われてしまった。
“レコードの音が聴こえない”。只の難聴とは思いにくい。
グリムは少し考えると、幻のレコードについて深掘る。
「もしかして、幻のレコードはなにかロックが掛かってるとか?」
「いや、そうではない。このレコードの音は、人によって変化する。聴くものの心に寄り添うこと。それがこのレコードの持つ意思であり、俺の心ではこのレコードの声を聴くことはできないんじゃ」
“レコードの声を聴く”。難しい話だった。
けれどここはゲームの中であり、不思議な事なんて日常茶飯事。
現実とは掛け離れているのだから、不思議なレコードがあっても不思議じゃない。
「レコードが意思を持ってるのー?」
「面白いですよね」
「そうだね。でも聴く人によって、音が変わる性質か。確かに面白いかも。だけど貴方にはどうして聴こえないのかな?」
人によって聴こえる音が聴こえるのなら、どんな形であったとしても老爺には音が聴こえる筈。
例え耳にできなくても心に直接語り掛けられる。
それがこのレコードの素晴らしい部分だとすれば、異質であることは間違いない。
「簡単な話じゃ。俺にはこのレコードが応えてくれない。大切にしているとは言っても、いつまでも箱に閉じ込め、一度たりともまともに聴こうとしなかった俺にな」
「なんだか悲しいですね」
「それに俺の手は汚れている。このレコードを若い頃はどうしても欲しくて、たくさん手を汚してきた。それこそ、赤く濡らしてきたんじゃよ」
「うわぁ、それって……言わないでおこっと」
老爺がどれだけ幻のレコードを欲しかったのか伝わる。
けれどレコードは応えてくれない。
それが手にした代償であり、汚い手を使った末路だった。
「だからこそ、お前さん達にこのレコードを託す。俺ももう長くはない」
「そうだとしても、ちゃんとしたコレクターに」
「そんなことをすれば俺と同じ末路を辿るだけ。このレコードのためにならない。だからこそ、お前さん達に貰って欲しいんじゃ。俺の汚れた手から、綺麗な手の持ち主達に移るべきなんだ」
老爺の目は本気だった。
汗まみれになった手からは、今までの思い出が膨らむ。
どれだけのことをして手に入れたのか。その価値をグリム達は知らない。けれどこの気持ちを無碍にはできず、グリムは覚悟を決めた。
「分かったよ。それじゃあ貰うね」
「「グリム!?」さん!?」
グリムは幻のレコードを受け取った。
その瞬間、老爺の力強い手がレコードの箱から離れない。
悔やんでいるのか、それとも惜しいのか、感情が膨れ上がるものの、ゆっくり指の力が抜けてグリムの手に移った。
「ありがとう、でも本当に良かったのかな?」
「いいんじゃ。それはもうお前さん達のものだ」
「そっか、それじゃあ聴かせて貰うね」
「うむ。俺より大切に扱ってやってくれよ」
言われなくても丁寧に扱わせて貰う。
とは言えグリムはコレクションするつもりは無く、屋敷に戻ったら早速聴いてみることにした。
「やったね、グリム」
「うん。買わずに済んだよ」
「なんだか凄そうですよね。……あれ?」
「コレは……なるほど、そう言うことだったのか」
レコードを手にしたグリムの元に、フェスタとDが集まる。
小さな団子になると、レコードをタダで手に入れられたことをシンプルに喜ぶ。
その瞬間、目の前にウィンドウがポップした。いつの間にか依頼を受けていたのか、勝手に達成までされている。
隠しクエスト:〔幻のレコードは何処に?〕
——幻のレコードを入手し、依頼を達成しました——
「これクエストだったんだね」
「しかもまた表記が変わってるよ」
「セルフでしたよね? えっと、やりましたね。グリムさん、フェスタさん!」
「「うん、いい感じだね」」
何気に依頼を達成していたグリム達。
とんでもない幸運の持ち主達だった。
謎のレコードを手にすると、知らぬ間に受けていた隠しクエストに達成感が溶けた。
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