第200話 幻のレコード
記念すべき200話達成!
「大丈夫ですか?」
「うん、お前さんには助けられてしまったな」
老爺を助けたグリムは安全を確保。
反撃されることは無く、五分が経過した。
とりあえず問題無いと悟ったからか、フェスタとDも店内から出て来る。
「グリムー、大丈夫?」
「怪我はありませんか? もし怪我をしていれば、すぐにでも」
「問題ないよ。それより、どうして貴方はあんなに詰められていたんです?」
グリムは老爺に訊ねる。
しかし老爺は表情を顰め、口振りを渋る。
けれど真実を知る権利はグリムには少なくともある。それを盾に踏み込もうとするが、老爺は口にした。
「恐らく、さっきの男は俺の持っている幻のレコードが欲しかったんじゃな」
「「「幻のレコード?」」」
なんだろう、そのアイテムは。少なくとも貴重な物なのは伝わる。
けれどグリム達は全くと言って予備知識がない。
興味もさほどないせいか、ポカンとした顔をする。“幻のレコード”と言う謎ワードだけがクルクル回ると、老爺は目を見開いた。
「お前さんらは幻のレコードを買いに来たんじゃないのか?」
「いや、普通のレコードを適当に」
「そ、そうなのか? 俺を助けてくれたからな、付いて来るといい」
老爺はそう言うと、店内に入った。
グリム達は首を捻るも、老爺に急かされてしまう。
付いて来るとは言っても、レコードショップの中だ。いい感じのレコードを紹介してくれるのか。そう期待したグリム達は、もう一度店内に入った。
カラカラーン!
再び鈴が鳴り、店内に入店した。
老爺は店の奥に向かって歩く、のかと思いきや突然曲がる。
何故か受付台の裏側、バックヤードに消えると、グリム達は立ち止まる。
「今のお爺さん、バックヤード? に入って行ったよ」
「そうだね。もしかして、この店の人?」
「分からないですよ。勝手に入ったら……」
「ほれ、なにをしているんだ。俺の店だから、早く来い」
「「「店主だった!?」」」
さっきまでいなかった店主の正体は老爺だった。
グリム達はバックヤードから怒鳴り声が聞こえたので、急いで受付台の裏に入る。
奥の空間を抜け、壁に直接付いた扉を通り、バックヤードへと立ち入った。
「うわぁ、凄いレコードの数」
「そうだねー。ぜーんぜん、分からないや」
「はい。でも在庫ってことは無いですよね?」
「如何にも、ここに置いてあるのは全て貴重なレコードで、普段だったら決して売ることのないコレクションじゃ」
老爺は先の方で待っていた。
グリム達の疑問に的確に答えてくれると、ここに置かれているレコードの存在を知る。
とは言え決して売る気が無い時点で、ただ自慢にしか聞こえない。
(自分のコレクションを自慢したい気持ちは、誰にだってあるよね。でも、本当に分からない。だからこそ、面白い)
グリムはバックヤードの廊下大量に置かれたレコードの価値が分かっていない。
けれど分からないというものは面白い。
グリムは笑みを浮かべると、老爺は手招きをする。
「ほら、こっちだ」
「ちょっと待ってください。グリムさん、フェスタさん、行きましょう」
「「うん」」
老爺に招かれ、グリム達は老爺の元へ駆け寄る。
壁に立てかけられた棚の中には大量のレコード。
グリム達は傷を付けないように躱しながら奥へと向かうと、老爺は後ろで手を組む。
「凄いじゃろ。これだけのレコード、集めるのは苦労した」
「確かに、管理も大変そうだね」
「うんうん。私はレコードに詳しくないけど、なんか凄そう」
「どれも品質は良いものばかりで、マニアと言うのか、欲しがる輩も少なくない」
確かに現実に存在しているレコードは、ここに一枚も無い。
NPC達によって作曲されたものばかりで、つまりこの世でここにしかない。
現実でもPCOで作られた楽曲やBGMはネットを探しても見当たらないし、販売もされていない。聴くには直接レコードを手に入れるしか無く、欲しい人にとってはたまらないお宝だった。
「その中でも、幻のレコードと呼ばれるレコードは、この世に一枚しか存在しない超貴重なものなんだよ」
「この世に一枚!? はぁ、凄いなー」
「うん。それで、そのレコードが発端になって、さっきみたいな」
「無論だ。俺がそのレコードを手に入れたのも今から五十年も前。あれ以来、一度たりとも聴いて来なかった」
「聴いて来なかった? 変だね。レコードは聴くものじゃないのかな?」
「俺にはできなかったんだ」
不思議な話しだった。せっかく手に入れたレコードを、聴かずに保管しているのは勿体ない。
もちろん聴けない理由はある。この世に一枚しか存在していない時点で、複製は不可能。
複製ができるのであれば、何枚にもコピーしている筈で、それがされていない時点で不可能は確実。つまり、聴くことが勿体ない。何かの間違いで傷でも付けば価値が落ちる。そんな恐怖をコレクターは抱いているのだ。
「なんだか可哀そうですね」
「そうだね。聴いてあげないと、レコードが勿体ないよ」
「それができる人にこそ、あのレコードは手にされるべきなんだ。だからの……」
老爺は言葉を詰まらせる。
バックヤードの一番奥へと辿り着いたからだ。
立ち止まった老爺は直接棚になった壁に手を伸ばすと、分厚い箱を取り出す。
用心深く厳重に鍵が掛けられていて、グリム達に見せた。
「コレがその幻にレコードじゃ」
「これが?」
「「幻にレコード……」」
グリム達はまるで分らなかった。ピンとも来ないので興奮もない。
しかも箱に納められていて中身が見えない。
何をどう捉えればいいのか分からないが、せっかくなのでとりあえず合いの手は入れた。
「いいね」
「うんうん、いいよね」
「はい、いいですよね」
「やはり価値の分からない物には伝わらんか。だが、それでいいんだ。それでこそ、本当の声を聴くことができる」
何故だろう。ディスられてしまった。
グリム達はまるで傷付かなかったけれど、老爺の言葉が気になる。
意味深なワードだけがクルクル回り、グリムは直感が下った。
きっとこのレコードがなにかしてくれるのだろう。
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