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第199話 別に戦わなくても……

明らかにフラグを立ててしまった?

 カラカラーン!


 退店音が軽やかに聴こえた。

 何処か寂しい音色だったが、店の前は喧騒。

 老爺が男性に問い詰められ、暴力を振るわれそうになっている。


「本当に止めてくれぇ」

「爺さん、俺はなレコードが欲しいんだ。爺さんが持ってるのは知ってんだぞ」

「お前さんのような暴力的な奴に、あのレコードは渡せん」

「おいおい、俺は別に転売する気は無いんだぜ。ただ、爺さんの持ってるレコードがどうしても欲しいんだよ」

「ダメだ。お前さんの様な奴に、あのレコードは」

「はぁ。暴力的なことは性に合わねぇが。仕方ねぇ。やっと見つけたチャンスだ、問答無用で奪ってやるぜ!」


 男性プレイヤーは血の気が多かった。

 暴力的で、NPCの老爺に拳を振りかざす。

 老爺は目を瞑る。絶体絶命、暴行を加えられる寸前、振り下ろされた拳は……


「ふぅ、なにやってるのかな?」


 老爺には当たることは無かった。

 代わりに別の手のひらに受け止められ、男性は目を見開く。

 突然の部外者に阻まれ、イラっとして顔を覗き込む。


「誰だてめぇ」

「誰でもいいよ。でも、暴力に訴えかけるのは覚悟が足りないな」

「覚悟だと? お前もプレイヤーだな。そこを退け」

「退けはしないかな。代わりに、貴方が離れてよ」


 グリムはそう言うと、男性を軽く突き放す。

 本当に一切の力もかけず、男性の体重だけを移動させる。

 すると否応なく後ろに遠ざけられると、男性は体がよろけてしまった。

 突然の乱入者に決しての覚悟と行動が阻まれ、目の色が大いに変わる。


「お、お前さんは?」

「大丈夫、怪我はしていませんか?」


 グリムはNPC相手にも優しく手を差し伸べた。

 もちろん毎回毎回こんな偽善者みたいなことはしない。

 今回は直感が囁き、ましてや目の前で起きていた。しかも一方的な暴力だったので、気分も悪いから、仕方なく止めに入ったのだ。


「ああ、助かった。お前さんもレコードが欲しいのか?」

「レコード? 普通に買いに来ただけだよ」

「買いに……そうか、真っ当なんだな」

「真っ当もなにも、それが普通で」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇぞ」


 男性はそんなグリムと老爺の会話を阻んだ。

 苛立った怒号を剥き出しにし、グリムへと襲い掛かろうとする。


「はぁ。どうしてレコードを買おうとしないのかな?」

「買うだって。俺が欲しいのは、超激レアなレコードだ。そんじょそこらで売ってるものとは訳が違う」

「なるほど、レア物って訳だ」


 どんなものにも希少なものは存在する。

 生産数が少ないとか、現存していないとか、本来存在していないものだとか。

 様々な憶測は飛び交うが、今回の場合、男性の欲しがっているレコードはレア物。

 市販化されていないので、NPCから強引に買い取ろうとした。まさのそんなとこだろう。


「それなら交渉すればいいと思うよ?」

「その爺さんが売らないって一辺倒なんだよ!」

「そうなの?」

「お前さんの様な穢れた奴に、あのレコードは応えてくれんよ!」

「なんだと。言わせておけば、爺さんがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 男性の怒りの沸点が急上昇し、完全に弾けてしまった。

 血走った眼を剥き出しにすると、老爺に向かって牙を研ぐ。

 ブンブンと回転させる腕。なにかのスキルの予兆だろうか?


「俺の【旋腕】で死ねぇ」

「そんな真似、させないよ」


 グリムは武器を取り出さない。

 町中での戦闘はあまり心地よくないので、ここは最小限で戦う。

 明らかに男性が強そうで、老爺はグリムを心配した。


「お前さん、大丈夫かい?」

「うん、問題は無いよ。来る」


 グリムの吐息に合わせ、男性は拳を振り上げる。

 【旋腕】のスキルとは、字の如くだ。腕を回転させることで、パンチ力を強化する。

 ちょっとした壁くらいなら簡単に壊してしまいそうな威力を手にすると、グリム目掛けて一発。急転直下の一撃がグリムを襲った。


「まずはお前からだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「よっと」


 グリムは逃げも隠れもしない。まるで全て、グリムの手のひらで踊っているよう。

 それこそ【緊急回避】も【ジャストガード】も使わない。

 避けもしなければ受けもせず、代わりに前に躍り出る。


「それっ」


 グリムは全て見切っていた。

 もちろん動きを見切っていたわけではなく、単に重心のズレを見破っていた。

 二つのスキル、【観察眼】で男性の微妙な動きを捉え、【看破】で重心のズレを見破る。

 そう、男性の重心が回した腕の方に傾いていた。


「はっ?」


 となればやることは簡単だ。

 グリムは足を伸ばして男性を引っ掛ける。

 重心がズレているおかげで簡単に崩すと、男性は変な声を出して訳も分からず宙を見る。


「はぁ?」


 ドスン!


 男性は地面に倒れてしまった。

 一体何が起きたのか、何をされたのか、上手く理解できない。

 茫然と意識が遠のく中、グリムの顔が浮かぶ。陽の光に煽られ、ボヤけた顔が目に留まる。


「一体、なにをして……」

「私は転ばせただけ。別に戦わなくても、争いは止められるからね」

「はぁ、意味が分からねぇよ」

「私が勝ったんだ。早く、何処かに行け」


 グリムの言葉は鋭くナイフのように尖っていた。

 男性はグリムの言葉を全身に受け、恐怖心が膨らむ。

 真っ赤な瞳が男性の心臓を絞ると、よろけた体で立ち上がる。


「んな訳にはいかねぇ。その老爺からレコードを奪って、お前やお前の仲間も……」

「そんなことできる訳が無いだろ?」

「はっ、俺は本気だぞ……ひいっ!?」

「悪いけど、そんな真似をしても私は負けない。脅しなんて無意味だよ、バカな真似をして自分を殺すだけだからね」


 グリムの言葉は痛々しかった。

 男性は吐き気を催し、精神が粉々に破壊される。

 死を招く眼光に全てを奪われ、鼓動も脈も慌てて沸騰し始める。

 つまりは、グリムを怒らせれば現実でもゲームの中でも生きてはいけないと、はっきり心臓を掴む。今にも握り潰してしまいそうで、逃げ道は無かった。


「はぁはぁはぁはぁ……お、覚えていろよ!」

「覚える気は無いかな」


 男性はレコード店から退散した。

 グリムに睨まれ、反撃する気も無くなる。

 無事に老爺を助けることに成功したグリムは、男性から反撃されることも無く、ただ一体何だったのかと考えるだけだった。

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