第198話 不思議なレコードショップ
皆さんはレコードショップに行ったことはありますか?
グリム達は路地に入り、この先にあるらしいレコードショップを目指した。
とは言え、レコードショップに行って、何か目当てのレコードがある訳ではない。
全く知らない曲のレコードばかりだと最初から分かっている。
版権と言うものがあるので、それも仕方が無いが、逆に楽しくて仕方が無い。
「どんなレコードがあるのか楽しみだよ」
「グリムさんは、音楽が好きなんですか?」
「嫌いじゃないよ。とは言え、知らない曲ばかりで面白いから」
グリムも内心ではレコードショップに興味があった。
何よりもグリムの直感が囁いている。
きっと何かある筈。そんな期待をしてしまうと、グリム達は路地を抜けた。
「この辺りかな?」
「うーん、えっと、アレかな?」
「なにか建物がありますよ。グリムさん、あの建物ですか?」
路地を抜けると、ひっそりと佇む建物があった。
造りとして何かの店のようで、レコードの形をした看板が吊るされている。
まず間違いなくレコードショップだろう。グリム達は早速店の中に入る。
カラカラーン!
軽やかな音色が心地よく耳に馴染む。
入店音が脳内に癒し効果をもたらす。
そんな印象で店内を見回すと、静かな外観に加え店内も静音だった。
「うおっ! いいムードだねー」
「シッ。フェスタ、静かに。他にもお客さんがいるんだよ」
「あっ、そっか。ごめーん」
レコードショップの中はシンとしていた。
まるで奥ゆかしさのムーディーなバーのようで、所々から年季を感じる。
もちろん嫌味などではない。木目調の壁や少し粉っぽいものが削れた床。
どれを取っても年代物で、お宝レコードがたくさん眠っていそうだ。
「とりあえず、見せて貰おうか」
「えっ、勝手に見ていいんですか?」
「なに言ってるのー、ここお店だよー?」
店内にはチラホラ客の姿がある。
けれど店主の姿は無く、受付台には誰も居なかった。
完全に虚空が広がっていて、自分で探すしかない。とりあえず手前の棚を漁ることにした。
「とは言え、私も詳しくは無いからね……うーん」
棚の中には大量のレコードが収まっている。
取り出して一つ一つ見てみるが、流石に分からない。
知識不足なのもあるだろうが、ここに置かれているレコードはこのゲーム内の世界において、NPCやプレイヤーが研鑽した上で生み出されたものだ。
まだMDも無ければ当然CDも存在しない。デジタルなんて存在しない世界観なので、こうしてレコードとして置かれている。とても貴重な、同時に想いが詰まった宝物。それを手にしても、グリムには何かピンと来ない。
「うわぁ、このジャケットカッコいい」
フェスタは一枚のレコードを取り出す。
ジャケットには真っ赤な炎と踊り狂う龍の姿が描かれている。
もちろん何の曲かは分からないが、少なくともロック系だろうと推察する。
「このジャケットは可愛いですよ」
Dが手にしたのはピンクを基調としたジャケット。
白枠でウサギが描かれており、両手でハートを抱き締めている。
アイドル系? いや、ファンシー系? 少なくとも明るめな曲なのは間違いない。
「この棚だけでもこれだけかけ離れたジャンルがあるなんて。不思議だよ」
「うーん、普通揃えるもんね」
「それもあるけど、一枚一枚丁寧にカバーもされてる。多分この中には、個人で制作したものもあるだろうけど、それら全てにカバーを掛けた上で湿度なんかにも気を配っているのは、相当目の良い店主だよ」
グリムが見ているのはレコードでは無かった。
一体何しに来たのかと思うだろうが、大事なことである。
棚を一つ一つ見て回らなくても、入店と同時に目に留まる一番近い棚。
そこに全てが詰まっており、レコードを大切にする店主だと分かる。
答えは簡単だ。これだけ古い建物であれば、老朽化や湿気など、様々な問題を抱える。それらを懸念しつつも、レコードに配慮する形で除湿剤などを満遍なく置いてある。
店内の温度や湿度も更に細かく管理されている。
空気に触れた瞬間、気が付くことはできない。
それでもグリムは肌を通じる形で、店内の細かな空気の動きに気が付いた。
「本当に凄いな、この店は」
「どういうこと?」
「不思議だよ。町の人達にはこれだけ知られているのに、客足が少ないのがね」
店内の客数が少ないことが、微妙に歪だった。
これだけ豊富なレコードがあれば、マニアがこぞってやって来る。
そうではなくとも人は来る。そう思うのが普通なのだが、立地が悪いのかなにかは知らない。とにかく静か、BGMも無い、店主も居ない。静音の空間だった。
「本当に不思議だよ」
「うんうん、不思議だよねー」
「はい。それにしても、店主の方は何処に……」
十五分くらい経ったものの、店主の姿は無い。
キョロキョロ視線を動かすDだったが、店の外でドン! と音が鳴る。
「今の音は……」
「突然だね。静寂を掻き切って来て……えっ?」
店の外が何やら騒がしくなる。
外に一番近くにいたグリム達が視線を向けた。
すると男性が白髪の老爺に詰め寄る姿があり、ガラスに背中を押し付けていた。
「や、止めてくれぇ」
「おい、爺さん。とっとと出しやがれ」
「それはできん。それはできんのだ」
なんだろう、相当ヤバいニオイがする。
このまま放置しているのはよくない。
グリムは手にしていたレコードを棚に仕舞うと、一度店外に出ることにした。
「グリム?」
「ちょっと止めて来るよ」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫かは分からないけど、放置するのは気分が悪いからね」
グリムはフェスタとDに一言言ってから止めに入ることにした。
もちろんただの自己満足だ。
それでもいいと、内心では気に入っているレコードショップ前で暴れないで欲しかった。
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