第196話 小さい音楽の町
レコードを買いに行こう!
「えーっと、確かこの辺りに」
グリムは屋敷に蔵書されている本を漁っていた。
ネットでも探してみたのだが、一応確認も兼ねてだ。
パラパラと目的の本を手に取ると、目を通して納得した。
「やっぱり。これなら間違いないかな」
グリムは欲しい情報の確認が取れた。
パタンと読んでいた本を閉じると本棚に戻す。
スッと隣同士を開けていた隙間を埋めると、書斎からグリムは立ち去った。
「フェスタ、D。少し行ってみたい所があるんだけど、いいかな?」
「「行ってみたい所?」ですか?」
リビングに戻ると、グリムは早速フェスタとDに相談する。
そこには見えないが、シルキーの姿もある。
紅茶をカップに注ぐと、ラップ音がモールス信号として聞こえた。
・-・・・ ・-・―― ・・ ・-・・ -・―― ・-・―― ・・ ―――・― ・-・・?
モールス信号の仕様が分かりやすくなっている。
ログを確認しつつ、グリムは改めて言葉を継ぎ足す。
「うん。タクト・ムジュウム場所に行ってみようと思っているんだ」
「「タクト・ムジュウム?」」
フェスタもDも初耳の場所だった。もちろんグリムだって言ったことは無い。
けれどこの一晩で少し考えた。
騒めき野森攻略のためには“音楽”が必要になる。そうでなければ何度行っても二の舞だ。
「タクト・ムジュウムはフォンスから片道三時間の距離にある、小さな町だよ」
「その町になんの用があるのー?」
「タクト・ムジュウムは小規模だけど、音楽の町として有名なんだよ。もしかすると、そこに行けば騒めきの森を突破する鍵が手に入るかもしれない」
あくまでも憶測の域を出てはいなかった。
実際、グリムとしても一種の手掛かりとしか思っていない。
それでもミュージュがしたことは間違いなく効果があった。
それを加味すれば、完全に克服はできなくても、多少なりとも抗うヒントがあるかもしれない。
「どう思う?」
「どう思うって言われても、ねぇー?」
「はい。私は音楽について詳しくないので」
「私もそこまで詳しくは無いよ。でも、あの森を攻略するには、絶対に必須な条件らしい。だから誰も近付こうとしないんだろうけど、私達の目的のためには……」
「避けては通れないって訳かー」
「実際、誰かに依頼すれば私達が避けることもできるけどね」
とは言えそれができれば苦労していない。
騒めき野森は評判が悪いので、近付こうと思うプレイヤーもNPCも多くはない。
これは仕方が無い事情なのだが、正直乗り気にはなり切れない。
-・ ・・・- ・・-・・ ― ――・―― ・・ ・・- - ・-・―― ・・ ―――・- ・-・・?
・- ・- -・・- ・・-・ ・-・―― ・・ ―――・- ―― ――・-
そんな中、シルキーは好意的だった。
如何やら現地人の話が聞けるらしい。
しかもここからは紅茶も注ぎ終えたので、紙を使って会話が弾む。
「シルキーは行ったことがあるの、タクト・ムジュウム?」
『い・い・え。い・つ・た・こ・と・は・あ・り・ま・せ・ん・か、き・い・た・こ・と・は・あ・り・ま・す』
ひらがなの書かれた紙の上を、コインが行ったり来たりした。
如何やら歴史が長いらしく、シルキーが知っている。
「へぇー、どんな町なの?」
『と・て・も・ち・い・さ・い・て・す・か、れ・き・し・か・あ・り、お・ん・か・く・を・こ・よ・な・く・あ・い・す・る・ひ・と・た・ち・の・ま・ち・た・と・き・い・て・い・ま・す・よ』
ざっくりとした説明だが、とても分かりやすかった。
グリムの予想通り、歴史のある町なのは伝わる。
もしかすると、本当に突破口が見えるかもしれない。
騒めき野森攻略の糸口を見つけようと、グリムは視線を上げた。
先に居たフェスタとDの顔を見る。もし不服なら遠慮するのだが、二人共興味はありそうだ。
「いいじゃんいいじゃん。なんか良さそうじゃん?」
「はい。音楽については分かりませんけど、グリムさんが行くなら私も行きます」
「二人共……」
あまりにも感想が単調だった。
グリムはフェスタとDをジッと見つめる。
もちろん何か言いだす気は無く、目をソッと閉じる。
「まあいいか。それじゃあ出掛けようか」
グリム達はタクト・ムジュウムに行ってみることにする。
もちろんただの観光じゃない。
これは騒めきの森を攻略するためだ。
『き・を・つ・け・て、い・つ・て・ら・つ・し。や・い・ま・せ』
「うん。気を付けて行って来るよ。……とその前に、シルキーはなにか欲しいものある?」
『ほ・し・い・も・の・て・す・か?』
「うん。せっかく行くからね」
フォンス以外の町に行くのは初めてだ。
シルキーは行ったことが無いらしいので、何かお土産にと思う。
すると少しポイものを口にしたので、グリムは目を開く。
『そ・れ・で・し・た・ら、れ・こ・お・ど・を・お・ね・か・い・し・ま・す』
「レコードって?」
「CD以前に使用されていた音声機器だよ。そう言えばこの部屋に蓄音器があったね。分かった。とりあえず、何枚か買って来るよ」
『あ・り・か・と・う・こ・さ・い・ま・す』
タクト・ムジュウムで果たす目的もできた。
グリム達はギルドホームを飛び出すと、いつも通り馬車・竜車乗り場に向かう。
今回は珍しい場所でもない。きっとすぐに乗れるだろうと、意気揚々としていた。
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