第194話 指揮者が奏でる
どんな雑音でも正常化する力。
グリム達は耳栓をしても、耳を塞いでも、全く音を掻き消せない。
それどころか重低音が重圧になり、グリム達の足を止める。
体が丸まり、地に手を付けると、重力に支配されて動けない。
「う、うるさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「このままじゃ、意識が持たないね」
「グリムさん、フェスタさん……あれ?」
Dは耳を塞ぎ、小さくなっていた。けれど突然異音が聴こえなくなる。
ピタリと音が止み、キョロキョロと周囲を見回す。
グリム達も異音が無くなったことに驚くも、ガサガサガサガサと鳴り止まない音が、心地のよいメロディーに変化していた。
「音が滑らかになってる? さっきまでとは、明らかに違う?」
「うんうん。なんかいいメロディーだね」
「繊細なクラシックの様なメロディーラインだよ。でも一体何処から?」
突然音が変化したのは明らかの外部的な要因だ。
けれど誰の仕業か、何の仕業か、グリム達は間接的に助けられる。
ガサガサと鳴り止まなかった音も、これなら対処できる。
グリムは大鎌を取り出し、揺れていた葉っぱに近付く。
長い柄を突き上げ、葉っぱを叩いてみると、ボトンと何か落ちて来た。
「ん、なんだろうこれ?」
しゃがみ込んで葉っぱから転がったものを見てみる。
草の中に落ちていたのは一枚の葉っぱで、ガサガサと揺れていた。
グリムは警戒しつつ手を伸ばすと、引っ繰り返した途端、たくさんの足が生えていた。
「うわぁ」
「どうしたの、グリム!?」
「なにか見つけたんですか?」
「二人は来ちゃダメだよ。コレは見ない方がいいからね」
グリムは落ちていた葉っぱの正体を理解した。
所謂コノハムシと呼ばれる昆虫で、如何やらモンスターらしい。
証拠に特徴的な模様が背中に入っていて、形はまるでギター。
弦を弾く様な動きで翅を擦り合わせると、周囲の草木を振動させた。
「なるほど、この背中と翅が……それっ」
グリムはコノハムシ=ギターコノハを倒した。
するとピタリと音は止み、完全に重圧が無くなる。
如何やら騒めきの森はたくさんの小型モンスターが潜んでいるらしく、一筋縄では絶対に行かなかった。
「どうする、グリム?」
「一度戻りますか?」
「うーん、そうだね。とりあえず、今日の所は退いた方がいいかもしれないね」
グリムはフェスタとDの不安そうな顔に負ける。
ここは一度退いて、正しい対処法を会得した方がいいかもしれない。
身体的にも精神的にも、これ以上の負荷は危険だと察し、グリムはフェスタとDを連れて帰ろうとする。がしかし、まだ一つ懸念があった。
「だけど、少し覗いて来るのはいいかもしれないね」
「「えっ!?」」
「二人はどうする?」
「「それは……」」
突然踵を返したように、言い分を変えた。
フェスタとDはとんでもない顔になるが、グリムは本気だ。
ゴクリと喉を鳴らすと、何処からか再び声がした。
「身の程知らずもいい加減にしなさい」
「「えっ?」」
「だろうね。最初からそのつもりだよ」
グリムは最初からこのために罠を張った。もちろん、完全に素の状態で一切の隙も見せない。
だからだろうか、バカな真似をしようとするグリム達を制止させようとしたのだ。
けれどここまではグリムの手のひらの上。全員を巻き込み、隠していた姿を露わにさせた。
「姿を現してくれたね」
「ふん、最初からそのつもりだったのね」
「「そうだったの!?」ですか!?」
グリムは声のした方に視線を向けた。
フェスタとDも釣られる形で視線を移動する。
すると森の中から少女が現れた。グリム達と大差ない年齢と思わせる見た目だ。
「貴女は?」
「それはこっちの台詞よ。どうしてこんな所に、なんの対策もしていない子達が来ているの?」
確かにグリム達は対策を疎かにしていた。
もちろんこんなことになるとは想定していなかった、グリム達のミス。ぐうの音も出ずにいるも、グリムは少女にも同じ質問をする。
「それじゃあ貴女は対策しているのかな?」
「当然よ。この森はうるさいわ」
確かに騒めきの森はうるさい。
けれど如何対策しているのだろうか? 耳栓をしている様子も無く、グリムの目が凝視する。すると少女は嫌そうに睨み返し、まるで進展が無い膠着状態だった。
そんなグリムとは対照的で、フェスタは明るい。
何の気なしに、まずは助けられた事実を受け止める。
「ねぇねぇ、助けてくれたんだよね? ありがとう」
「助けたつもりは無いわ。私はうるさい音を指揮しただけよ」
感謝を伝えたフェスタだったが、少女は面倒そうにあしらう。
ツンツンしている態度がデフォルトなんだろうが、良い情報を本人から聞けた。
「なるほどね。それじゃあ貴女は、この不協和音を指揮したんだね」
「!?」
「そんなに驚かなくてもいいよ。つまり、貴女は指揮者ってことだね」
グリムの見立ては間違っていない筈だ。その証拠に、少女の表情が一変した。
旗色が悪くなったのか、それとも墓穴を自分から掘りに行ったのか。
もしかするとポンコツなニオイが立ち込めるが、グリムはその辺りには一切触れない。
(まあ、性格は本人次第だからね)
ジッと芯の目を向け続けた。
すると少女の方が折れてくれそうで、ソッと溜息を吐き出す。
本気で面相臭そうな空気の問答が起きるも、少女は腕を組んで答えた。
「そうよ、私がやったの。これで満足?」
「やっぱり」
グリムの予想は確実に当たっていた。
けれど本人の口から真の言葉に胸を撫でる。
騒めきの森で出会った少女に直感を感じ取ると、少し話しをした。
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