第193話 騒めきの森
うるさいって地獄。
壁が薄いとか、耳が良すぎて声が聞こえるとか、そんな人に共感してほしいです。
グリム達は騒めきの森にやって来た。
鬱蒼とした緑一面の世界が広がっている。
広大な森な上に、道も整備されていないのか、雑草が脇道を覆っていた。
「ここが騒めきの森」
「結構遠かったね」
「はい。あっ、グリムさんフェスタさん、ポータルがありますよ!」
「転移装置が近くにあるのは良いことだね」
森の入口には世界観を壊すような円形機械が置いてあった。
たくさんのパイプが伸びていて、丸い台座の部分は青い。
最近名称が少し変更されたが、転移装置なのは変わらない。
転移装置を見かければ、まずは登録しておく。
これでここまでの二時間弱の時間を費やさなくて済む。
グリム達は一歩進むと、騒めきの森を見つめた。
「この先に音楽堂があるんだね」
「うん。でも、全然見えないよー」
フェスタは目を細め、瞼の上に手を当てた。
残念ながら、そう簡単に音楽堂に辿り着けるわけじゃない。
グリム達は装備を確認すると、森の中に入った。
「みんな、警戒しながら行こうか」
「はい!」
「そんなの当たり前だよー。それより、この森も危ないのかな?」
「どうだろうね。見た所安全そうに見えるけど、なにか潜んでいるのは明白かな?」
音楽堂を目指すはいいとして、騒めきの森がただの森とも思えない。
恐らくはモンスターによる邪魔が入るだろう。
グリムはスキル【観察眼】を使うと、草木が怪しく映った。
「二人共、私から離れないように」
「はい!」
「抱きつかなくてもいいけど?」
グリムがフェスタとDを傍に寄せた。するとDはグリムにピタッと抱きつく。
ギュッと体をくっつけると、邪魔では無いが動きづらい。
グリムの表情が歪むが、Dは一切遠慮しない。むしろ擦り寄っていて、頬を付けた。
「グリム、墓穴掘ったねー」
「墓穴?」
「はいはい。朴念仁さんは置いておくとしてー、気を付けて進むのは性に合わないなー」
フェスタは背中に背負った大剣の柄を握り締める。
グリムを先導にするつもりが、フェスタの方が先に出る。
グリムは襟を掴んで先を行かせないようにするも、その瞬間ガサガサと音が軋む。
「フェスタ、油断は大敵だよ」
「でもさー……ん?」
「この音……ぐっ!」
ガサガサガサガサ……ガサガサガサガサガサ!——
けたたましい葉切り音がグリム達を襲う。
耳を塞ぎたくなるが、もう間に合わない。
失神してしまいそうな爆音に表情も精神も歪みそうになるフェスタとDを庇うように、唯一耐えられたグリムが大鎌を取り出す。
「このっ!」
グリムはわざとの様に大鎌を放り投げる。
グルングルンと刃が回転すると、原因の木の葉を散らす。
刃が鳴り響く葉っぱに当たると、ガサリと鎌が落ち、音が一瞬にして止む。
「二人共大丈夫?」
「ううっ、はいぃ」
「なーに、今の爆音。鼓膜破れるかと思った」
「そうだね。でもこれが洗礼かもしれないね」
グリム達は騒めきの森が危険だと理解する。
とは言え先に行かないといけない理由ができた。
今のはモンスターの仕業か、ダンジョンの仕様か、謎が膨らんでしまうが、グリム達は前に出た。この先に行かないと、後にも先にも進展しない。
「そうだ。全員耳栓付けるって言うのは?」
「ベタだけどいい作戦だね」
「それじゃあインベントリから、はいこれでよし」
フェスタのアイデアは無難だが冴えていた。
インベントリから耳栓を取り出し、両耳に付ける。
一応外れないように布で覆うと、ある程度の音を遮断できた。
「これでよしだね!」
「な、なんですか?」
「大丈夫、私は聞こえているから。それじゃあ行こうか」
ほとんどの音を掻き消された中、グリムはやはり先導を切る。
獣道と化した道を進むと、再び草木がガサガサ揺れる。まるで侵入者を追い払うような危険信号相手に、グリム達は止まらない。
耳栓に絶対の信頼を寄せる? のは間違いかも知れないが、滲んだ一歩を踏み寄ると、葉切り音が奏でられた。
「おっ、なんか鳴ってるかも?」
「そうだね。でも、なにも聴こえないね」
「は、はい! これならきっと……うっ」
グリム達は葉切り音に苦しめられずに済んだ、筈だった。
けれど実際は違った。漏れた葉切り音が不況ワンを奏でると、脳をグチャグチャにしようとする。
頭が痛いのか、Dは崩れてしまった。
心配したグリムがDの背中を優しく撫でるも、胃の中のものを吐き出しそうな程、酷く嗚咽を漏らしている。
「ぐはっ、ぶはっ」
「D、大丈夫?」
「は、はい……なんとか」
「なんとかじゃないよ。フェスタ、一旦戻るよ」
「う、うん。それがいいっぽいかなー」
流石にここまで急変するのは想定外だ。
グリムは即座に判断を下すと、フェスタを連れ騒めきの森を退散しようとする。
けれどそんな軟な真似はさせてくれないらしく、騒めきの森の執拗な奏撃がグリム達を襲う。
ガサガサガサガサガサガサガサ♫
「う、うるさい!」
「音が重圧になってるね。これじゃあ……」
あまりにもけたたましい爆音にグリム達の動きが止まる。
足が動かなくなってしまい、頭を地面に押し付けるような感覚に陥ると、立っていることさえできなくなりそう。グリムは何とか耐える中、Dは相当苦しんでおり、もはや限界が近かった。
「マズいな、なんとかしないと……」
「ふん」
グリムが唇を噛むと、この状況の打開策を考える。
しかしそんな当たり前が生まれる訳もない。
苦悩する中、突如聞こえて来た声でもない声に意識した。
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