第192話 騒めきの森の噂
人から聞いた話を聞いた人が話す話を聞く人。
「私の聞いた噂は、こんな話だった」
・・・これはある森に関する噂だ。
あるところに毎日無音の音楽堂があった。
そこはかつて、賑わいを見せていた音楽堂だった。
・・・しかし長い年月が経ってしまった。
かつて賑わいを見せていた音楽堂は無音になってしまった。
誰も居なくなり、古くなって使い物にならなくなった楽器達だけが取り残されていた。
・・・楽器達は誰にも弾かれなくなってしまった。
見向きもされなくなってしまい、その場に取り残されてしまった。
・・・そんなある日のことだった。
古びた音楽堂に男女がやって来た。
古びた音楽堂を肝試しのつもりでやって来たのだ。
・・・男性は音楽堂の中に入った。
中は少し埃っぽく、雨水で腐敗した木の香りがした。
・・・女性も男性に続いた。
古びた音楽堂の中はかなり良い造りをしていた。
丈夫な木を使っているのか、腐敗した木の香り以外、特になんともない。
・・・男女は音楽堂の廊下を進んだ。
すると先に大きな扉があった。
その扉の鉄製のノブは錆が無く、男性は引いて開けてみた。
・・・中は巨大な音楽ホールだった。
周囲の壁には穴が幾つも開いている。
音を吸音してくれるらしく、流石は音楽堂だった。
・・・目の前には巨大なパイプオルガンが壁についていた。
男女は目を奪われ、喉を鳴らした。
一歩足を踏み出し、ステージを目指して階段を下りる。
・・・ヴーン♪
響く様な音が聞こえ、男女は足を止める。
誰も居ない筈なのに、突然響く様な音が聴こえ、男女は目を見開く。
・・・ヴーン♪ ヴーン♫
動けなくなっていた男女を前に、再び音が聴こえた。
如何やらパイプオルガンが一人でに音を出している。
・・・男女は怖くなってしまった。
茫然としてしまい、体が動かなくなる。
そんな男女の前に、続けて見知らぬ音が聴こえた。
・・・ギィーン♪
背後から崩れたバイオリンの絃の音が聴こえた。
・・・バーン♫
シンバルを叩く音が鼓膜を潰す。
・・・ボーン♬
木琴用のバチが一人でに踊り出し、男女をけたたましく襲う。
・・・男女には分からなかった。
一体何が起きているのか理解できなかった。
しかし複数の楽器達が突然暴れ出し、男女は急いで逃げだした。
・・・それからと言うもの、無音の音楽堂には息を吹き返した楽器達が今日も踊りあかしているらしい。
音楽堂を取り囲む森は、無音ではなくなり、誰も立ち入れなくなってしまった。
今日も森は騒めいている。騒めきの森は、音を拒むものを許さないのだから。
「って話だ」
「「「はぁー?」」」
流石にグリム達は鋼一郎の話を聞き、茫然としてしまう。
あまりにも内容が意味不明過ぎる。
しかも、それが変換装置と何が因果か、関係が全く分からなかった。
「鋼ちゃん、それでお終い?」
「いや、まだ続く。この森の噂は知らないが、更に噂がある」
「また噂? ちなみにどんなのなの?」
ピジョンが上手く鋼一郎に合わせてくれていた。
話の合間を潰すと、内容を繋いでくれる。
「この音楽堂には、面白いものがあるらしい」
「面白いもの?」
「アバウトね。もっとはっきりしたものは無いの?」
「さぁ? 確か、音に命を吹き込むアイテムがあるとか無いとか」
「……本当に噂ね」
あまりにも噂の域を出なかった。
ピジョンが一番微妙な表情を浮かべてしまうが、鋼一郎は開き直る。
「噂だと言った筈だ」
「まあそうだけど、あまりにも……ねっ? あれ」
ピジョンはグリム達も同じことを思っていると思った。
助けを求めて顔を見ると、案の定、フェスタとDは同じく珍紛漢紛。
しかしグリムだけは違う。
今の意味不明な噂の中で、信じたいものを見出す。
「グリムさん?」
「音に命を吹き込む。確かに、古びた楽器達が命を持ったのも、その性だとすれば……かなり興味深いね」
「「ええっ!?」」
まさかのグリムはほくそ笑んでいた。
あまりにも根拠がない、噂の域を出ない言葉に乗っかる。
そのせいか、フェスタとDは正気か疑う。
けれどグリム自身は大真面目で、全く否定する気が無い。
例え噂だとしても、それが真実の可能性はある。それを信じられるか否かは、聞き手次第なのだ。
「グリム、今の話信じる気?」
「まあね」
「嘘ですよね? 流石に今回は本当に噂ですよ!」
「そうかもね。でも、行ってみる価値はあると私の直感が言ってるよ」
「はぁ……まあ、じゃあ行ってみるか」
フェスタはグリムの直感を信じる。
だからだろうか、急に手の平を返す。
頭の上で腕を組むと、天井を見ながら「なんだかなー」と愚痴る。
「本当に信じるのか?」
「うん、鋼は嘘を付いてないだよね?」
「嘘を付く必要無いだろ」
「それなら尚更信じるよ。鋼の目がそう言ってるからね」
グリムは鋼一郎の目を見て話していた。
その瞳に嘘は一切無いので、グリムは信じる価値を見い出す。
「変わった奴だな」
「そうかな?」
「人の目を見て話せる奴は少ないぞ。私にはできない」
「もう、鋼ちゃん。素直に褒めたらいいのに」
「むっ。褒めてるぞ」
「気が付いているから大丈夫だよ、ピジョン、鋼、ありがとう」
持つべきものは繋がりだ。
グリムはデンショバトに来てよかったと、心から思った。
同時にこれからの目標が決まった。まずは真実を明らかにしようと、騒めきの森に行ってみることにした。
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