第189話 モールス信号以外の会話
これが肝です。
グリム達は屋敷に居た。
それもその筈、無事にいざこざも解決させ、正式にギルドホームとして使えるようになったのだ。
グリム達はリビングでくつろぐ。
背中をソファーに預け、全員が思い思いにくつろいでいた。
『み・な・さ・ん、こ・う・ち・や・を・の・ま・れ・ま・せ・ん・か?』
そこに運ばれてきたのはトレイの上に乗ったティーセット。
宙に浮いていて、誰も手にしていない。
にもかかわらず、まるで誰かが運んで来たみたいで、扉まで開いていた。
「シルキー。うん、貰うよ」
「お願いします」
「お願―い」
もちろん誰一人として驚くはしない。
ティーセットを運んできてくれたのは、この屋敷の本当の主人であり、現世に戻って来た少女、シルキー(本当はシRキー)。
『は・い。そ・れ・て・は・い・れ・さ・せ・て・い・た・た・き・ま・す・ね』
テーブルの上に置かれた、ひらがな五十音が描かれた紙を、コインが高速で動く。
まるで生き物の様に這うと、嬉しそうに見える。
グリム達は当然慣れているが、これはシルキー自身が動かしたものだった。
コトンとトレイがテーブルに置かれる。
ティーポットが宙に浮き、清流のように注がれた。
「おっ、今日の紅茶は青いね」
「本当だ。なーんで?」
「アルカリ性でしょうか? もしかして、バタフライピー?」
「可能性はあるね。それならレモンを加えれば赤くなる筈……既に入っている?」
今日の紅茶は何故か青かった。
Dの予想通り、バタフライピーかもと思う。
しかしアレはアントシアニンの影響だ。三世のレモンを加えれば、色は変化する筈と思えば一変、既にレモンが入っていた。
「おかしいな。バタフライピーなら、レモンを入れれば赤になる筈」
「ねぇねぇ、なんの話してるの?」
「紅茶の話と化学反応の話」
「へぇー。難しいねー。ん! 美味しい」
フェスタだけは一向に話に乗れない。
そのため誰よりも先に紅茶を啜ると、目を見開いた。好みの味だったらしく、ニコリと笑った。
「シルキー、この紅茶美味しい!」
『あ・り・か・と・う・こ・さ・い・ま・す。こ・の・こ・う・ち・や・は、ふ・る・う・め・ん・と・と・い・う・つ・ね・に・さ・ん・せ・い・の・さ・よ・う・の・つ・よ・い・ひ・ん・し・ゆ・な・ん・て・す・よ』
シルキーはコインを動かして説明してくれた。
ふるうめんと……ブルーメントだ。
確かにレモンの酸性よりもより強いアルカリ性ならば、あり得ない話ではない。というよりも、レモンを加え、多少酸性を加えなければ、飲むことができないのだろう。
「なるほど。ゲームオリジナルの品種か」
「確かに美味しいですね」
「うん。この紅茶、絶妙に薄いのがいいね」
「はい、あっさりしていて飲みやすいです!」
グリムもDも絶賛した。
舌触りもよく、味わいが薄い以外に、不味い部分は無い。
満足の表情に、シルキーも喜んでくれた。
コインがカタカタ動き回り、もはや文字を追えない。
「ふふっ、シルキー……あっ」
紅茶をソーサーの上に置くと、グリムは腕を組む。
シルキーのことを思うと、少し気になることがあった。
「それにしても、私しかモールス信号が使えないのは、不便だね」
グリムはポツリと呟く。
それもその筈、現状モールス信号を使えるのは、グリムだけだ。
ましてやこっくりさん用の紙が無ければ、フェスタとDはまともな意思疎通もできなかった。
「まあ、確かにー?」
「それはそうですね。でも、どうすれば?」
「うーん、シルキーはなにかいい方法を知らない?」
グリムはシルキー本人に訊ねた。
もちろん答えが出る訳ではない。
シルキーも悩んだ様子でコインをユラユラ動かすと、ゆっくりひらがなをなぞった。
『す・み・ま・せ・ん。わ・た・し・に・も・さ・つ・は・り・て・す』
「だよね。さてと、なにか方法を考えないと」
グリムの中では次に何をするべきか、最初から考えていた。
何を如何すればいいのかは分からないが、とりあえず調べてみるしかない。
「書斎で探してみようかな?」
「えー、あの広大な本を?」
「全部調べるんですか!?」
「まあ、現実的ではないかな」
あれだけの本棚に納められた本を、全て探している時間はない。
もし一冊一冊探すのであれば、相当時間が掛かる。そんなことをしていると、いつか日が暮れる筈だ。
グリムはムッと表情を強張らせ、ソファーから立ち上がった。
「こういう時は、一人で考えるよりも、文殊の知恵に頼るべきだね」
「「頼る?」」
「そうだよ。多分、知らないとは思うけど、ピジョンの所に行ってみようと思うんだ」
『ひ・し・よ・ん・さ・ん?』
「私達の頼りになる友達だよ。もしかしたら、なにか突破口になるかもしれないね」
グリム自身、ピジョンを頼りにした。
実際、誰かの言葉や行動が、取っ掛かりになる可能性は重々に存在する。
グリムの考えは伝わり、フェスタとDも立ち上がる。
「じゃあ、私も行ってみよーっと」
「はい、行きましょう、グリムさん」
「ありがとう。それじゃあシルキー、少し出て来るけど、いいかな?」
『は・い。お・き・を・つ・け・て』
グリム達はシルキーに見送って貰った。
とりあえず、何か一つでも繋がれば御の字。
グリムはそんな気持ちで街へと向かう。
もちろんフェスタとDも同じくで、久々にピジョンの店へと向かった。
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