第188話 桜浜大学の妖精
いよいよ5章が始まりました。
本章では、苦手なジャンルに挑戦しています。
笑って許してくれると嬉しいです。
「あーむっ! うっまっ!」
「そっか、それはよかったよ」
童輪と祭理は、桜浜総合大学(通称:桜浜大)に居た。
お昼休みになったので、外に出てみる。
丁度今日は晴れているので、外のベンチでご飯を食べることにした。
「なに、このレタスとトマト。美味過ぎなんだけど!」
「無農薬だからね」
「それにこの肉。憎々しいハンバーグ。もうパティじゃない。これ、ハンバーグ丸ごとでしょ!」
「中に牛脂が埋まっているからね。その関係上、仕方なくハンバーグにしたんだ」
「最高じゃん!」
祭理は童輪が作って来てくれたハンバーガーをお昼に食べていた。
しかもあまりの美味さに感極まる。
もはや感想が“美味い”しか出ず、祭理は吹き飛んでしまいそうだった。
「なによりこのソース。ソース美味過ぎない?」
「私が作ったものだけど、口に合ってよかったよ」
「合いまくりなんだけど。ってか、なに? どうしてこんな美味しい料理がバンバン作れるの? 天才?」
「天才って、料理は経験と数だよ。ある程度知っていれば。それなりに美味しいものは作れる。ましてや今回は食材もいいからね。不味くなったら、食材や生産者さんが可哀そうだ。まあ、私個人の意見だけどね」
何処かの誰かを敵に回しそうな発言した。
けれど童輪的には、ある程度料理をしていれば、分かる筈だ。
だから自分の考えだと伝え、祭理を納得させ、誰からの反論も受け付けない鉄壁の構えを見せる。何故ならば、あくまでも個人の意見だからだ。
「それはそうと、童輪は知ってる?」
「なに、急に」
話が百八十度に舵を切られた。
一瞬でハンバーガーの話題が転換。祭理は新しい話題を口に出す。
「えっとね、童輪は知ってる? 桜浜大の妖精の話」
「妖精? ファンタジーだね」
「早々、ファンタジーっていうか、オカルトかな?」
祭理はある噂を口にする。
もちろん、童輪も耳を傾けた。
噂を聞く前に切り捨てることはせず、黙って話を委ねた。
「えっとね、桜浜大って、ピアノがたくさん置いてあるでしょ?」
「ピアノだけじゃなくて、自由室もね」
桜浜大学はとにかく大きい。
広大な敷地面積に、五万人越えの生徒数。
それだけに留まらず、生徒が自由に利用できる施設が多くあった。
「そうそう、ストリートピアノ的な感じでね」
「ユニバーシティピアノかな?」
「カレッジじゃないの?」
「カレッジは単科大学。ここは総合大学だから、ユニバーシティで合ってるよ」
くだらない説明をすると、祭理は「へぇー」と口ずさむ。
それ以上にこの話をする気は無い。
すぐさま自分の話に戻ると、噂の続きを口走る。
「それでね、この大学自由に弾けるピアノが幾つもあるでしょ?」
「まあ、幾つあるかは知らないけどね」
「そうそう。そのうちの一つでね、たまに妖精が現れるらしいよ」
「妖精って……誰かが弾いてるってことかな?」
童輪は真面目に考えた。
オカルト的に幽霊だと妄信するのはあまり良くない。
ましてや機械の誤作動……という訳もない。恐らくピアノとは、電子ピアノじゃない筈だ。
ともなれば、きっと誰かが弾いているに違いない。
しかし“妖精”と呼ばれるからには、相当上手い筈だ。
「もしかすると、芸術学部の音楽学科を履修中の生徒かも知れないね」
「えー」
「あるいは、教師か講師か、それとも教授か……どのパターンにしろ、人間の可能性は高いね」
「えー、童輪は、そんなのつまんなーい」
「つまんないじゃないよ。あくまでも可能性の話をしているんだけ」
童輪は祭理の不満そうな顔をしていたが、ほとんどスルーする。
というのも童輪にとっては関係ない。
弾きたくて弾く。誰にも知られたくないから秘匿する。それが噂に繋がっただけだと、童輪は結論付けた。
「でもさー、どんなピアノか聴きたいでしょ?」
「聴きたいって……別に、無理して聴く必要は無いでしょ?」
「だとしても、私達も文化祭でやったでしょ?」
「まあね。でも私達はピアノ抜きのスリーピースバンドだったよね?」
「そうそう。懐かしいなー、アレって一昨年? 私がドラムで、童輪がベース、今はアメリカに行っちゃったけど、灰脳がギター&ボーカルでねー。覚えてる?」
「もちろん、覚えているよ。懐かしいね……もしかして、それで思いだしちゃった?」
童輪は祭理が懐かしさに浸っていることを理解した。
記憶の浅い部分に眠っていて、文化祭での思い出が蘇る。
ザッと一ヶ月練習して、オリジナル曲を作り、文化祭で披露。
平日だったにもかかわらず、生徒以外にもたくさん見に来てくれていた。
そのおかげか、緊張は多少したものの、成果は上々だったのを覚えている。
「あーあ、あの時もーっと本気でやって、メジャーデビューしてたらー、今頃変ったのかな?」
「さぁね。変わったかもしれないし、変わらなかったかもしれない。未来は無数に枝分かれているからね」
「むぅ。哲学だなー」
「そういうものだよ。さてと、次の講義に行こうかな」
童輪はハンバーガーの包みを片付け、折り畳んだ。
祭理の話は面白かったけれど、そこまで入れ込む気は無い。
その意思を見せると、祭理も納得し、次の講義へと向かった。
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