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第185話 風の中に包まれて

かなーり頑張って書いたので、皆さん高評価お願いします。

後、タイトルが“アレ”をイメージしたとか思ってもらえれば、嬉しいです。

 屋敷の敷地内。屋外に出たグリムは、屋敷の間取り図を見ながら、歩き回っていた。

 その肩には麻袋が二つ。中には遺骨が入っている。

 フェスタとDも、グリムと一緒に歩いて回ると、屋外の奥、離れの方にやって来た。


「こっちかな?」


 間取り図を見ながらやって来たのは、離れだった。

 石畳で道が作られていて、奥の方にやって来ると、墓石が立っている。

 手入れは残念ながら行き届いていない。

 草がたくさん生えていて、後で掃除は必須だった。


「うわぁ、本当にあったね」

「これが、ドーンライト夫妻のお墓」

「そうだね。二人共、手伝ってくれるかな?」

「「うん」はい!」


 グリム達はこれを探していた。

 ドーンライト夫妻の墓。確実にあるとは思っていたが、まさかこれだけ忘れ去られているなんて。


 というのも仕方が無い。ドーンライト夫妻が侯爵としてこのフォンスを治めていたのは、随分と昔。それほど百年は昔の話だ。

 つまり、今では覚えているNPCも決して多くは無い。


 ましてやその幕引きを誰も知らないとなると、認知度はグッと下がる。

 それでもこうして墓が建てられているのは、ドーンライト夫妻が侯爵家として充分な成果を上げ、街の人達からも慕われていたから。

 それ以外には他なく、一方のボッターKリンは、墓すら建てられていない。

 街の人達に対して、悪行の限りを尽くしてきたからだろう。報いが大きく、今では汚名でしかなくなり、家柄も消滅していた。


「でも、お墓が残ってるのって、なんだか奇跡だよね」

「そうだね。普通なら、忘れられてもおかしく無いよ」

「そうですね。この雑草の生え方、多分ですけど、半年に一回は手を加えられているみたいですね」

「もしかしたらシルキーがやってくれてたのかな?」


 シルキーはとんでもない力を持っている。

 それこそポルターガイストが起こせるくらいには自由度が効く。

 だから、草むしりも全部一人でやっていたのではないだろうか?

 グリム達は凄いなと感心すると、草むしりをある程度終え、遺骨をお墓の墓石の下に移動させる。


「それじゃあ墓石を移動させようか。多分この墓石は、ドーンライト侯爵夫妻のものだろうから、シルキーも一緒に埋葬してあげよう」

「なんだか、西洋っぽくないね」

「遺骨が燃えてしまったからね。ボッターKリンの方は新しく用意したものを使おう」

「これですね!」


 Dはデンショバトで買って来た平たい石をインベントリから取り出す。

 Dでも持ち上げられるくらい軽い石で、少し離れた場所に置くことにした。


「この中に遺骨を入れればいいんだよね?」

「うん。埋葬してあげて」

「はいはーい。もう出て来るなよー」


 フェスタは墓石をDから受け取り、底面を見た。

 スライド式の蓋が付いていて、剥がすと中に遺骨を入れられる仕様になっている。

 サラサラと粉粒になった遺骨を入れると、それなりの重量感になり、蓋を再び閉め、防虫効果のあるパットを押し当てた。これで滑り止めもバッチリで、フェスタは地面に突き刺した。


「はい、おしまーい。グリム、シルキーの方は?」

「こっちも終わるよ。ありがとね、シルキー」


 ドーンライト夫妻の墓は古かった。

 地面の中に穴が掘ってあり、中には箱が埋まっている。

 この中に遺骨を入れる仕様らしく、グリムは小さな筒の中にシルキーの遺骨を入れると、箱の中に納めて上げた。


「おお、これは」

「完全に朽ちていますね」


 箱の中には二人分の遺骨が収まっている。

 火葬する文化は無いらしいが、ドーンライト夫妻の遺体は、如何やら燃やされたらしい。

 そのせいか、全てではないにしても、粉粒として残っていた。


「あまり風にさらさない方がいいね」

「そうですね。風化が進んでしまいますもんね」


 グリムはテキパキと蓋を閉めた。

 墓石の下に埋め直すと、上から墓石を置く。

 とりあえずこれでグリム達ができることはした。したつもりだ。


「これでよかったかな?」

「グリムさん……」

「私はよかったと思うよ。シルキーはようやくあっちに行けたんだ。これで両親と一緒にいられる。素晴らしいことじゃないかな?」

「私もグリムさんと同じです。ですが、もう少し、一緒にいて仲良くしたかったです」


 グリムとDは黄昏ていた。

 自分達はシルキーに対して、何かしてあげられたのだろうか?

 正直、怪しい所ではある。けれど今更後悔はしたくないので、グリムは達観視する。


「シルキー、安らかに」


 手を合わせて祈りを捧げる。

 せめてもの行為だと思い、目を伏せた。

 優しい風が頬を撫でる。まるでグリムの想いを伝えるようで、シルキーが答えてくれたように感じた。


「私達は、これでよかったんだよ。きっとシルキーにも」


 -・・・ ・- -・ ・・・- -・-・- ・-・-・ ・――・ -・ -・- ――・ -・・- ――・-・ -・ ――


「えっ?」


 グリムは風に混じって音が聞こえた。

 ノックするような音と、流していく音。

 まるで会話で、グリムは知っている。これはモールス信号だ。


「モールス信号がどうして? もしかして……シルキー?」


 -・・・ ・・-・


「やっぱり。どうしてシルキーが?」

「えっ、シルキーさんがいるんですか!?」

「嘘ん」


 グリムは自分の耳がおかしくなったのかと思った。

 けれど嘘とは信じたくない。思えて来ない。

 確実に聞こえたモールス信号に、グリムは目を見開く。


「どうしてシルキーがここにいるの?」


 ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ ・・-・・ -・・-・ ・・- ―――・- ―――― ――・-・ ・― ――・-・ -・-・- ・- -・ ・- ・・―― ・-・―― ・・ -・・-・ ・・-・・ ・・ ・-・―― -・-・・ -・・- ――・-・ -・


 質問を投げかけると、モールス信号で返る。

 これは偶然じゃない。間違いなく本物で、グリムは表情を訝しめた。


「どうして戻って来たのかな?」


 いきなり辛辣な言葉を浴びせた。

 それもその筈、シルキーは自分自身が選んだからこそ、あの世に行ったんだ。

 それを今更戻って来るなんて真似、普通なら許されないだろう。


「グリムさん……」

「シルキーは家族と一緒にいたかった筈だよね? それならどうして」


 ―・- -・ ――・-・ ――・-・ ・・ ――・-・ ・-・-・ ・・―― ・- ――・-・ ・-・―― ・・ ―――・-


「自分の意思? ……本当にかな」


 グリムは更に眉根を寄せた。

 シルキーは自分の意思で現世に戻って来た。

 それならあの時の言葉は嘘なのか? 声なき言葉。それでも、グリムには伝わる。


「そこに自分の意思があるのなら、ここにはいない筈だよ? それがシルキーの言葉なら……うっ」


 グリムの試すような口ぶるまいが炸裂した。

 その瞬間、突風が吹き荒れる。

 グリム達を包み込むような風で、痛くはない。暴れてもいない。むしろ豊かで心地が良い、


「これはなに?」


 -・- -・ ――・-・ -・-・ ・・-・・ ・-・―― ・- -・・- ・- ・・-・ -・・・ ・・ ・-・-・ -・-・ ・- -・――・ ・ ・・ -・-・・ -・・・ ・・ ――・-・ -・・・・ ・・-・ ・-・ -・-・- ・-・-・ ・・―― ―――・ -・・・ ・・ ・-・―― ・・ ―――・- ・-・・ ・・・


「シルキーが? どうしてこんな真似を……いや、野暮かな」


 グリムはこれ以上訊くことを辞める。

 どんな選択をしようが、グリムが口を出すことじゃない。

 それを選ぶのは常に自分自身。今回はシルキーが選んだ道だ。


 今更突き返すなんて真似はしない。

 他者を尊重する多様性を持ち合わせると、グリムは逆に迎えた。


「お帰り、シルキー」

「「お帰り―」お帰りなさいです」


 グリム達は互いに目配せをし合うと、シルキーのことを優しく迎える。

 すると吹き荒れた風は消え、代わりにモールス信号が合図を出す。


 ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ -・ -・ ・・ ・- -・・- ・-・―― ・・ ―――・-


 シルキー自身もここに戻って来れてよかったらしい。

 なんとなくだが、グリム達にはそんな気がしてしまう。

 安らかなムードが流れる中、モールス信号でシルキーは風を叩く。


―――・ ――― ―― ――・ ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ ―――― ・・- ・・-・ -・・・ ・・―― -・・- ――― -・・- ・―――・ ・-・―― ・-・・?


「こ、紅茶?」

「このタイミングでですか!?」


 -・・・ ・-、―――― ・・―― -・ ・- ・・-・- ・-・-・ ・・・- ・・ ・-・―― ・・ ―――・-


 シルキーは紅茶の誘いをしてくれた。

 流石にこのタイミングは無い。そう思いたかったけれど、せっかくの誘いを断るのも悪い。

 グリムはクスッと笑うと、シルキーの誘いに乗る。


「ありがとう。それじゃあいただくよ」


 ・・-・・ ・・・- ・ ・・ ・――・ ・-・ ―――― ・・- ・・-・ ・――― ―― ・・- ・- ・- -・ ――・-・ -・・- ―――・― ――・-


 シルキーは喜んで風が走った。

 包み込むように迎えると、グリム達の体を触る。

 暖かくて冷たくない。当たり前のことだが、それをこうも概念的に触れるとなると、生きている者の実感を感じ取るのだった。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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