第184話 常世離れて現世還りて3
彼女の正体は一体?
シルキーは訳が分からなかった。
突然両親から意味の分からないことを言われてしまった。
「お父さん、お母さん、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。シルキーに、私達はなにもできなかった」
「そんなことないよ」
「いいえ、そんなことあるのよ。シルキーは、私達のせいで、本当なら未来ある筈の時間を失ってしまったの。だから、ずっとなんとかしてあげたくて、私達はここでシルキーが来るのを待っていたのよ」
「どう言うこと?」
最初から言っている言葉の意味が分かっていない。
シルキーは茫然としていると、待機していた女性が近寄る。
「ん」
「あの、これは?」
フードを被った女性は、ポケットから何か取り出す。
紙で包んであり、シルキーに手渡す。
「開けて」
「あ、開けるんですか? えっと、石?」
中には石が入っていた。
とても温かい石で、オレンジ色に輝いている。
「本当にいいの?」
「「うん」」
フードを被った女性は、シルキーの両親に訊ねる。
コクリと頷き返すと、シルキーに説明をする。
「その石は、賢者の石」
「賢者の石?」
「の粗悪品。中途半端な効果しかない」
賢者の石は少し訊いたことがある。
確か魔力の結晶であり、生命エネルギーの源。
作るには錬金術を極める必要があるらしいが、今ではもう作れない。
失われた技術の一つで、そんなものを持っているなんて、一体何者なのかと、シルキーは怪しむ。
「お父さん、お母さん、どうしてこれを?」
「生き返らせてあげることはできないけれど、せめて現世には帰れるように、お願いしていたんだよ」
「えっ?」
帰る? 現世に? シルキーは瞬きをする。
シルキーの両親の目は本気だ。
鋭い眼光で、熱いものを感じる。
「どうして、そんなこと言うの?」
「私達にできることがこれくらいしかないからよ」
「シルキーは戻れる。私達の代わりにね」
戻れる? 私達の代わりに? シルキーは理解しようとしない。
両親の圧が凄く、気圧されてしまいそう。
胸が苦しくなると、シルキーは反論する。
「私は戻りたくない。戻る気は無いよ!」
「シルキーがそうしたいなら、その石を壊すといいよ」
「ええ、賢者の石を壊せば、もう選択できないわ」
シルキーの両親はシルキー自身に選択を委ねる。
握り込んだ賢者の石。粗悪品と言えど、とても温かい。
本当に壊していいのかと悩まされると、ギュッと握っても力が入らない。
「あの……」
「壊すのは自由。でも、よく考えてから壊して」
「そんなこと言われたら……うっ!」
シルキーはギュッと賢者の石を握った。
目を瞑り、腕を振り上げる。
地面に叩き付ければ壊せる。両親と一緒に居れる。
それなのに、シルキーの手の中から、賢者の石は外れない。
「どうして……どうして、外れないの?」
「……シルキーは、まだあの人達と、グリムさん達と一緒にいたいんじゃないの?」
「そんな……私が一緒にいたいのは、お父さんとお母さんの筈なのに……」
「いいんだよ、シルキーの自由で」
シルキーは涙を流した。
本当は両親と一緒に居たい。にもかかわらず、心が迷っている。
一体如何したらいいの? シルキーが自問自答すると、ソッと肩に手が伸びる。
「えっ?」
「……選ぶのは自由。選択はいつでも変えられる」
「それはそうですけど、私は……」
「大丈夫。でいいの?」
フードを被った女性は、シルキーの両親に問う。
すると二人は首を縦に振る。
覚悟が決まっている証拠で、体が少しずつ透けていく。
「シルキー、私達はいつでも傍にいる。だから、少しの時間でも、グリムさん達と一緒に居て、私達があげられなかったものを貰って来るんだ」
「どういうこと?」
「賢者の石を使えば、現世に戻れるわ。行って勉強して来るといいわよ」
「……そんなことして、いいのかな?」
シルキーは迷ってしまう。
さよならを言ったはずの自分が、現世に未練を抱いて戻って良いのかと不安になる。
そんなシルキーに、両手を預ける。肩をソッと触れたのは、両親のものだった。
「「私達は、常にシルキーの味方だよ。だから、自由に選ぶんだよ」」
シルキーは両親に後押しをされる。
もちろん、選ぶのは自分だ。ここで現世に戻るも常世に行くのも自由。
それでもシルキーは迷う。一体如何すればいいのかと。
「迷うなら、迷えばいい。迷った先に、道はできる」
「貴女は……ありがとうございます」
フードを被った女性の言葉は、何故かとても響いた。
シルキーの迷いを迷いのまま受け入れてくれる。
それどころか、迷った先の道を赴くままに探す。それなら、迷ってみるのがいい。
「お父さん、お母さん、私決めました。もう少しだけ、グリムさん達と一緒にいます。グリムさん達が、もうあの屋敷に来なくなるまで」
「それがシルキーの選択なら、それでもいいよ」
「私達は、ずっと待っているわ」
「ありがとう、お父さん、お母さん。それじゃあ、私……行ってきます!」
シルキーは賢者の石を強く握る。
光の門から踵を返すと、現世へ向かって歩いて行く。
もちろん、フードを被った女性も付いて行くつもりだ。道先案内人は必要になる。
「本当に良かった?」
「ええ、あの子はあの子の道があるもの」
「私達ができなかったことを、あの子にはあの子のまま、シルキーがしたいようにして欲しいんだよ。勝手なことかな?」
「それはそう。でも、それは悪くない」
「「ありがとう」」
そう言うと、シルキーの両親が消えてしまった。
フードを被った女性はチラッと薄れていく両親の影を追う。
もうここには居ない。否、常にシルキーと共にいる。
誰にも見えないものを、平然と見届けるその目は、シルキーのことを追う。
役目を全うするため、シルキーを現世に送り届けることを決めた。
「これでよかったのかな?」
水先案内人としての役目。
それを全うしようと、フードを被った女性は口走ると、シルキーを連れて現世に戻る。
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