第182話 常世離れて現世還りて1
シルキーの向かう先は?
この感覚はなに? と、シルキーは思った。
今まで縛られていた感覚が無くなり、フワリと宙に浮き立つ。
心の余裕ができたからか、ポッカリ穴が開いたみたいな気持ちになると、フワフワと風船のようにドンドン高く上って行く。
「私は、ようやく……」
シルキーは気が付いていた。
今までボッターKリンによって縛られていた体から解き放たれたのだ。
初めから未練なんてもの、存在していなかった。
にもかかわらず、現世に縛り付けられていたせいもあり、シルキーの心はここにあらずに在らずになっていた。
けれどようやくあらゆるしがらみから解放される。
胸を撫で、心地よい気持ちになると、何処へと続く天の世界に舞い上がる。
「あの、まだでしょうか?」
シルキーは自分の前を歩く、フードを被った人に声を掛ける。
手にはランタンを持っていて、足取りも軽やか。
慣れた動きかつ、無言のやり取りで、淡々と進んで行く中、シルキーは少しだけ怖くなる。
「あ、あの……」
「ん」
シルキーは臆してしまう前に、もう一度声を掛ける。
するとフードを被った人は、喉を鳴らした。
顎で合図を出すと、目の前が眩しい。
まるで太陽のような光を放つ大穴、いや、巨大な門が現れる。
「あの門を潜ればいいんですか?」
「ん」
やはり相槌で言葉を交わす。
シルキーはモールス信号で会話をしていたことを思いだす。
あの時は大変だったと、過去を思い起こした。
同時に、少しだけ寂しさのようなものも現れるが、気にせずに門に近付く。
「ん」
「あ、あの、なんでしょうか?」
シルキーは門に近付いた。
するとフードを被った人は、シルキーの腕を掴む。
ギュッと力強くて、決して離そうとしない。いや、選択を迫っていた。
「行くの?」
「お話ができるんですか?」
「……行ったら、戻れなくなる」
フードを被った人は、女性だった。
灰色の目をしているが、奥が無いわけではない。
シルキーの真意を確かめるような言い回しをするが、シルキー自身、答えは決まっている。
「案内人さん、私は決めています」
「後悔はない?」
「はい、ありませんよ」
迷わせるような言葉を発した。
シルキーは一瞬だけ、ピクンとしてしまうが、ここまで来たら気にはしない。
シルキー自身、行くべき場所は決まっている。いつまでもあの屋敷に囚われてはいけない。むしろ、行きたい場所は、存在している。
「一つ前に案内した人とは違う」
「一つ前?」
「未練たらたらだった。闇の門に誘ったけど、まだ叫んでる」
誰のことを言っているのか、シルキーには分からない。
けれど何となくの想像ができると、シルキーは少しだけ目を伏せる。
本当は、シルキーが気遣う必要は無い。グリムならそう言うのだろうが、シルキーはできなかった。
「その人は、未練があるんですね」
「ん」
「同情はしてはいけないのでしょうが、できますよ。ですが、私は違います。もう、決めたんです」
シルキーは強い眼光を向けた。
すると案内人の女性は、シルキーの顔をジッと見る。
全てを見透かすような灰色の瞳。今にも飲み込まれてしまいそうな圧を感じる。
シルキーは押し黙り、鳴らせない喉を鳴らすと、案内人の女性はニコッと笑った。
「……行く前に、会っておいた方がいい人達がいる」
「会っておいた方がいい人達ですか?」
案内人の女性はシルキーに最後に伝えたいことを伝える。
如何やら誰かに合わせてくれるらしい。
しかも一人じゃない、二人以上の複数形。一体誰? と頭にはてなを浮かべると、案内人の女性は指を指す。それは、シルキーの背後だった。
「一体誰でしょ……えっ」
シルキーは言葉を失った。
光の門の前、二つの人型がある。
どちらも誰とまでは判別できない。けれどシルキーは違った。
見た目ではない、もっと高次元的な繋がりを感じ取っていた。
「お父さん、お母さん?」
シルキーはゆっくり近づいた。
全身が熱くて仕方が無く、目から涙が零れる。
段々と人形の形もはっきりしてきた。人型の一つは男性、もう一つの人型は女性。
きちんと礼儀正しい格好になると、シルキーは確信を持つ。
「「シルキー、お帰りさない」」
「ううっ、ただいま!」
シルキーは父親と母親の下に向かった。
寄り添うように抱きつくと、ぐっしょり濡れてしまった顔を埋める。
まさか会えるなんて思わなかった。待っていてくれるなんて思わなかった。
シルキーは心が満たされる感覚に陥ると、両親に抱かれた。
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