第160話 姿が見えないのは何故?
あっという間の一年。
今年も残り二ヶ月ですか……
リビングに通されたグリム達。
そのままソファーに座り込むと、放置していたこっくりさんの紙が優しく揺れる。
置いてあるコインがひらがなをなぞると、早速シルキーは話し始めた。
『み・な・さ・ま・は・な・に・か・お・の・み・に・な・ら・れ・ま・す・か?』
シルキーがそう呼びかけると、カタカタとティーポットとカップが動いていた。
その横には乾燥された茶葉の入った筒が置かれている。
如何やら給仕がしたいらしく、シルキーはこの屋敷の主人にもかかわらず、律義にグリム達をもてなそうとしていた。
「貰おうかな」
「私もー。あっ、でも私さ、上品な飲み方とか知らないよー?」
「わ、私もです。音を立てちゃったりとか……」
『か・ま・い・ま・せ・ん・よ。そ・れ・て・は・い・れ・さ・せ・て・い・た・た・き・ま・す・ね』
そう言うと、突然ティーポットが宙に浮く。
ティーカップの中に紅茶が注がれると、グリム達の下に置かれる。
初めから用意されていたみたいで、グリム達は丁度良い温もりと、湯気を立たせる紅茶に唇を付けた。
「うん、美味しい」
グリムはゆっくり味わうと、紅茶独特の苦みが喉を潤す。
それでいて奥深さがあり、風味の豊かさを感じる。
どちらかと言えばダージリンよりもアールグレイの方が近いかもしれない。
けれどこの独特の味と香りの層は一体……
真剣に紅茶を剥き合うと、グリムはふとフェスタとDを見た。二人の意見が聞きたかったのだ。
「二人はどう感じた?」
「「うーん」」
何故だろう。二人は悩んでいた。
グリムは首を微かに傾げ、シルキーは不安だからか、コインで言葉を交わす。
『お・き・に・め・し・ま・せ・ん・て・し・た・か?』
シルキーの感情は他にも伝わった。
点いている灯りが点滅し始め、リビング内に置いてある家具や小物が微かに揺れる。
不安が電磁波を介して物体に直接影響を与えていた。
「いや、さー?」
「はい、私には紅茶の味の違いが判らなくて……」
「そうなんだよねー。苦いけどコーヒーみたいに苦くもないしさ、香りも豊かってなに? って感じで……うーん、難しいよー」
「あはは、別に紅茶の味が判らないからと言って落ち込む必要は無いよ。その人が感じる“味”には変化があるからね。美味しいものを不味いと感じる人もいれば、その逆もある。それだけの話だよ。うん、私は嫌いじゃないかな」
そう言うと、グリムは紅茶を軽く飲む。
苦みと渋みはあるものの、奥深い何十もの層を舌で感じる。
それを分解して意識していけば、徐々に甘みを感知できる。
これは良い紅茶の茶葉を使っている。グリムだけはその事実に気が付くと、シルキーは嬉しそうに飲んで貰えたことを喜ぶ。
『み・な・さ・ま・あ・り・か・と・う・こ・さ・い・ま・す』
シルキーのコインの動きに高揚感を感じる。
正直、それはこちらがするべき反応だ。
グリムはそう思うものの、ここはシルキーを立てることにした。
代わりにグリムはコインの動きを見守ると、ふと気になってしまう。
“如何して死んだのか”じゃない、別の疑問だ。
「シルキー、訊いてもいいかな?」
『は・い・な・ん・て・し・よ・う・か?』
「シルキーはどうして姿を見せてくれないの?」
「「確かに!?」」
ここまで来てあれだが、姿を見せてくれないのは何か理由があるとしか思えない。
もしかすると、いや、もしかしなくても、姿を見せられない理由があるのだろう。
どっちだろうか? 一つは単純に姿を見せたくない。もしくは見せられない。
グリムの中である程度の推測を立てるも、シルキーは無言になる。
「訊いちゃダメだったかな?」
シルキーは無言だった。コインが震えていて、怯えているようにさえ感じる。
一体何に? 一体誰に? グリムはコインの動きから読み解こうとした。
「そうだよねー。こーなに楽しそうなのにさー」
「は、はい。もしかして、恥ずかしんですか?」
「それはありそうだね。シルキー、ごめんね」
「ご、ごめんなさいです。私も、私も、恥ずかしいがりなので」
シルキーのことを考えると、訊いてはいけない領域の話でもある。
だからこそ無言を貫いている。
黙秘権を発動され、グリム達は黙るしかない。
「そっか。それじゃあ仕方ないね……」
「ごめんねー、シルキー」
『わ・た・し・も……』
「「「ん!?」」」
コインが動き出した。
もしかすると、グリム達のことを思って、建前だけでもと判断したのかもしれない。
そう感じたのだが、コインが震えながら動いている。
「な、なに?」
「ちょっと黙って。えーっと……私も、姿を見せたいです?」
「み、見せてくれるんですか? えっ、“見せたい”? もしかしてなにか持病でもあるんですか?」
「幽霊に持病? ああ、ゲームの中だからね。可能性は無くはないけど……」
『ち・か・い・ま・す。わ・た・し・に・は・す・か・た・が・な・い・ん・て・す』
「「「ん??」」」
グリム達ははてなが二つも浮かんでしまった。
と言うのも、シルキーの言っている意味が分からない。
“姿が無い”? の謎発言に頭を悩まされると、シルキーの動かすコインが更に震えていた。
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