第143話 PCO公式配信7
少し長いですがよろしくです。
最近、「PCO公式配信」のタイトル回、書いてないなー。
今晩の配信担当もアイとナミダ。
いつもの二人がカメラの前にスタンバイすると、カメラの後ろに座るフシギがカウントを始める。
「それじゃあ始めるぞ」
「うん。ナミダ、いつも通りに」
「分かってる」
アイとナミダは目配せをし合い、アイコンタクトをすると、カウントが一つずつ指を折って合図を送るフシギを前にした。
三、二、一……の順でカウントを取ると、早速配信が始まった。
「皆さんこんにちは。ナビゲーターのアイです」
「同じくナビゲーターのナミダ」
「それから目の前にはフシギもいるよ」
「おい、私に振るな。……ああ、フシギだ」
アイとナミダはいつも通りの入りをみせた。
しかし配信に映っていないフシギも巻き込むと、台本に無いことをやってみた。
フシギは突然のことに嫌悪感を露わにするが、心を落ち着かせて配信のテンションに乗った。
するとそれが好評だったのか、コメントがたくさん投下される。
:待ってました!
:こんばんは、アイさん、ナミダさん、フシギさん!
:フシギさんもいるんですね。これが聞けて嬉しいです
:こんばんは~
:こんにちは
:お疲れさまです。いつもこの時間に配信してくれてありがとうございます
:今会社終わりました
:塾帰りです。電車で聞いてます
:フシギさん、配信には映らないんですか?
:フシギさん、怒らないでくださいよwww
etc……
コメントの量が尋常ではない。
滝のように流れて行き、目で追うことさえ困難。
しかしアイ達は素早く処理すると、ほぼ全てのコメントを一瞬のうちに叩き込んだ。
「皆さんありがとうございます。今日も頑張っていきますよ」
「頑張るの意味が分からない」
「それもそうだね。それじゃあ早速今日のメインに移ろっか」
「そうする。第一回ゴールドラッシュ・イベント、結果発表!」
ナミダはナビゲーターとしてMCとして的確に場を回した。
早速本日のメインコーナー、第一回ゴールドラッシュ・イベントの結果発表だ。
その声掛けを聞いた瞬間、配信を観ているプレイヤー達のコメントが溢れる。
カジュアルなものを波の勢いで押し返すと、フォーマルなものが掻き消した。
:待ってたぜ!
:俺が勝つ。俺が勝つ
:絶対配信の載るぞ
:プレイヤーの討伐数20人だぞ。負ける訳ねぇ
:ユニークは倒せなかったけど、強めのモンスターは倒したんだけどな……
:七色スネーク、ラムネボム、ゴールドインコの羽根、レアモンは倒してるから負ける訳がねぇ!
etc……
特徴的なコメントがたくさん溢れた。
カジュアルなライトユーザー目線のコメントが一瞬でなくなってしまう。
フォーマルなヘビーユーザーの声を聞く中、アイとナミダは頬を掻きながら困り顔を浮かべた。
「皆さん、思ってた以上に本気になってくれていたんだね。嬉しい!」
「実際そう。最初はあれだけ前評判低かったのに」
「そうだな。だがこれだけ本気になっている層がいるなら、需要はあったってことだ」
アイとナミダ、フシギの三人は運営としてこの瞬間を噛み締める。
内部的な話をついついし始めてしまうくらいには嬉しいのだ。
けれどすぐに自分達のキャラ設定と、配信と言う都合を思い出すと、アイはコホンと咳き込んだ。
「それじゃあ第一回ゴールドラッシュ・イベントの結果発表の前に、今回のイベントの概要を軽く振り返ってみようね」
「今回のイベント、単純に言えば金塊探し。つまり、金をたくさん手に入れた分だけポイントが貯まる。終了時点までにポイントをたくさん集めた人が勝ち。分かりやすいルール」
「実際はもう少し複雑だが、簡単な概要はそんな感じだな。それで中間発表はこうだ」
1位:59潰し238 ポイント:324,000
2位:ヘンジンホッグ ポイント:213,000
3位:@五角 ポイント:200,100
4位:ファイア ポイント:196,000
5位:ペインハンター ポイント:185,000
etc……
フシギは中間発表の際に公開したデータを配信でも使用した。
そこに映り込んだのは、あまり聞き馴染みの無いプレイヤー達。
けれど誰一人不正を行った訳ではなく、純粋に得意分野を見出したのだろう。
「この時点で見たら、238さん強いよね」
「そう。でもファイアも入ってる。安定の強さ」
「ブリザードはいないな。シロガネも今回は参加していないみたいだ。おまけに各地の強豪プレイヤーの姿もあまりない。戦闘系のプレイヤーは少ないらしいな」
中間発表の時点では有力なプレイヤーの印象は少ない。
けれどここまでポイントを稼いできたのは本物。
そんな中、いよいよ結果発表だ。たくさんコメントが送られ待ち侘びる中、フシギは別の映像を映し出した。
「それじゃあ第一回ゴールドラッシュ・イベント結果発表、優勝はこのプレイヤーです」
1位:霧ガクレ ポイント:1,449,728
2位:鬼修羅 ポイント:612,090
3位:ヘンジンホッグ ポイント:540,029
4位:@五角 ポイント:540,001
5位:ファイア ポイント:550,329
:???
:誰?
:知らねえ奴いるんだけどwww
:き、霧ガクレ?
:鬼修羅さんって、《首狩り》鬼修羅さん?
:238さんが消えた? どんなバグだよwww
etc……
無数にコメント欄に鎮座する。
如何やら誰もが想定外のことが起きてしまっているらしい。
その中でも大きく分けて二つ。
一つは暫定一位だった238の姿が無いこと。もう一つは最終結果の一位と二位がここまで一切登場していない名前だからだろう。
そのせいもあってか、コメント欄ではバグを疑う声もある。
けれどフシギは既に検証済みで、証拠になる映像も用意していた。
だからだろうか。疑いの目を向ける視聴者を一掃した。
「不具合を疑うのも無理は無いが、これは事実だ」
「そうみたいだよ。その中でも今回入手した映像に答えがあるみたい」
「早速観てみる。きっと驚く」
そう語り掛けると、フシギは画面を切り替えた。
そこに映し出されるのは森の中の映像。
複数人のプレイヤーが固まって行動する中、何処からともなく黒い影が襲い掛かる。
黒い影は木々を伝って移動する。
その動きはまるで影の中を滑るように移動しており、時折姿を見せると、木の葉の裏に隠れてジッと息を押し殺す。
すると次の瞬間、真下までやって来たプレイヤー達を目視で捉えると、手にしたクナイを武器に一人のプレイヤーを即死させた。
倒れたプレイヤー。仲間が奇襲を喰らったことを察知し他のプレイヤーが動き出す中、影の中から飛び出した、まるで忍者のような出で立ちのプレイヤーは、次から次へと背後を取ってクナイで即死させていく。
あまりにも華麗な捌き具合に目を見張るものがあると、アイ達はコメントを忘れ没頭し、視聴者も瞬きの連続でキーボードを打つ手が止まる。
「まるで忍者みたいだね」
「そう。これは忍者。それからあの装備は……」
「呪いの装備の一つ、〈影忍〉シリーズだな」
フシギは淡々と語った。
忍者の出で立ちをしたプレイヤー。
見た所女性のようだが、特徴的な呪いのアイテムの中でも装備を身に纏っている。
そのおかげだろうか。他プレイヤーとは一線を画す隠密性を武器にし、最終日で一気に稼ぎ上げていた。その結果がこれで、他の追随を許さない圧倒的な結果をものにしたのだろう。
「流石に強すぎる」
「そうだね。強すぎるよね。でもここまで圧倒的だとは思わなかったよね」
「想定外……とは言えないな。実際、既に〈影忍〉シリーズを手にしていたプレイヤーは居た。ここで出て来たということは、イベントに精力的と言うことであり、これからの舞台に駆り出される可能性が出て来るというわけだ。観ている側も実際に相対する側も用心を重ね、研鑽を積み、より激しい空気を体感できる。つまりこれは……」
「面白いってことだよね。ううん、これからも霧ガクレさんの活躍にも注目ですね。それでは今回のイベント、最終結果発表です!」
それからアイとナミダはMCとして取りまとめた。
流れてくるコメントも信じられないという言葉ばかりだったが、フシギの言葉に感化されたのか、炎上はせずむしろ精力的に意見を言い合っている。
それら全てをフシギ一人で管理すると、今回のイベントをして良いことの方が多いと悟った。
「一位霧ガクレさんには記念品と限定アイテムを送ります。二位以下の上位プレイヤーの皆さんにも記念品を贈呈いたしますので、後日受け取ってくださいね」
「参加賞もあるから、次のイベントもドシドシ参加」
「と言うわけだ。それじゃあまたな」
「せーのっ「「またね!」」
アイとナミダはMCとして配信を最後まで回し切った。
フシギもコメントを回収しながら情報を仕入れた。
今回のイベントは上々。配信の成果も上がった。
結果としては意外性ばかりだったが非常に面白く、これからのイベントにも精力的に取り組むことを密かに考えることにした。
少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。
下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)
ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。
また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。