第142話 砂の手を倒した一部始終
今回は運営の話。
グリム達、〈《アルカナ》〉が砂の手を倒した後。
その一部始終を見届けていた人達が居た。
こことは違う、別の空間。いつもの白い部屋の中で、ソファーに腰を据えてガッツポーズを取るアイが居た。
「よっし! ギリギリ倒してくれたよ」
アイは心底ホッとしていた。
せっかく用意した今回が初登場のモンスターを、誰も倒せずに終わるなんて寂しかったのだ。
「喜びすぎ」
「そうだよー。むしろ運営としては悔しいよー」
一方のナミダとユカイは対照的だった。
アイが喜ぶのとは裏腹に、せっかく用意したモンスターが負けてしまったので悲しい。
けれどその姿を流し目するイサマシとフシギはアイ側に付いた。
「そうですね、皆様方。ですが拙者はここまでの間、多くの方々の注意を惹いてくれていた砂の手に感謝しております」
「そうだな。倒されたものの、良いものが観られた」
フシギはキーボードを打ち、今回得られた情報をまとめる。
欲しい物を見届けられたこともあり、より良い製品へと変換できるので満足気味だ。
「でもさー、今回のモンスター、イサマシが用意したんだよ?」
「そうですね。確かに今回は拙者が考案したものですな」
「それじゃあ生みの親としては悔しくない?」
ユカイは過去に自分が味わった経験をイサマシにも共感して欲しかった。
けれどイサマシは少しだけ考える素振りを見せると、答えを既に用意していた。
「確かに生みの親の気持ちとしては悔しいの一言に尽きます。ですがこれもそういう運命。むしろ倒していただけて本望です」
イサマシは大人な対応を見せた。
むしろ今回用意した砂の手が敗れたことで、俄然やる気に満ちる。
この程度で止まるプレイヤーではない。それが分かっただけで、もう少しの無茶はできそうでワクワクしていた。
「でもさ、〈《アルカナ》〉強すぎないかなー?」
「そう。強すぎる」
「嗅覚が鋭いんでしょうか?」
「そんなのは知らないが、少なくともプレイヤーとしての動きは、最適解ではあるな」
フシギはグリム達のことを客観的に分析していた。
ここまでの戦闘、呪いのアイテムの強さをちゃんと理解している。
もちろんそれを巧みに扱える技術もさることながら、ギルドとしての絆の築き方が上手かった。
「シロガネさんやファイアさん、ブリザードさん、ペギルドッペさん、エトセトラ……たくさんのプレイヤーがいるけど、今の所ユニークモンスターを倒したプレイヤーはいないっと」
「なにが言いたいんだ、アイ?」
徐にアイは呟いた。
するとフシギは気になって視線を配ると、全員の視線を一人で浴びる。
「えっと、私の勘違いだと思うんだけど、ユニークモンスターと戦闘をして、勝ったプレイヤーって今の所居ないよね?」
「そうだな。引き分けから敗北、勝利を掴んだ記録は無い」
「もしかしてだけど、強すぎるのかな?」
「そうだろうな。百を超えるユニークモンスターとの戦闘は、並みのAIの比じゃない。正直、プレイヤーのレベルで倒せる可能性は……あるがな」
フシギは様々な思考をグルグル回し、計算の結果を伝えた。
今回の砂の手でさえ、弱点を暴ければ簡単に倒せる。
それと同じで、ユニークモンスターも同じだと考えていた。
だからだろうか。フシギはアイの心配をよそに、ゴールドラッシュ・イベントの結果をまとめていた。
「……とりあえずポイントの自動集計はできたぞ」
「本当!? 見せて見せてー」
ユカイは楽しそうにフシギに寄った。
覆い被さるように背中に体を預けると、苦しそうにフシギは眉間に皺を寄せる。
「重い。ユカイ、とっとと退けろ!」
「うわぁ、ごめんごめん」
「ったく、高校の時から変わらないスキンシップだな……ん?」
「うわぁ……そっか」
ポイントの集計はAIで管理していた。
ディスプレイには参加プレイヤー全体が表示される。
名前が左、:を皮切りに、右にポイントが英数字で出ていた。
「どうしたの、ユカイ、フシギ?」
「ナミダ。これ見てよ、今回のポイント競い」
「ん? そういうこと」
ナミダはユカイとフシギが言いたいことを理解する。
今回のポイント合戦、熾烈を極めていると思っていた。
けれど答えを見れば圧倒的……でも無いのだが、上位と下位で開きが凄かった。
「もしかして難しかったのかな?」
「その可能性はあるな」
「これ以上簡単にしたらつまらない」
「実際、簡単ではありませんでしたが、目的は分かりやすかったと思いますよ。ですので、今回のイベントは上々の結果ではないでしょうか?」
「そうだな。全体的には黒字。これだけ見れば、誰も批難は無いだろ」
ゴールドラッシュ・イベント。
長かった一週間がようやく終わりを告げる。
運営として頑張っていたアイ達はその結果に満足していた。
最もプレイヤー達が如何思うのかは知る由は無い。
「お問い合わせフォームにもなにも無いね」
「要望無しってことだろうな。実際、ポイントについては後日改めてだ」
「それじゃあとりあえずお疲れ……」
「様にはまだ早いですよ、ナミダ様」
アイ達はここからの作業を始める。
プレイヤー達が楽しむ裏で、大金が動く事態が働く。
そんな責任をそれぞれの肩に預けると、呼吸を一つ付くのだった。
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