第141話 VS砂の手:終幕
砂の手の終わり。
「ぷはっ!」
砂の中から何とか這い出ると、顔だけを砂の外に出した。
一瞬呼吸ができなかった。
体験したことは無いのだが、まるで雪崩のようで、グリム達は死ぬかと思った。
けれど幸いなことに、砂はとても柔らかかった。
おまけにフェスタとDの活躍もあり、ほとんど離れてもいた。
そのおかげか、グリム達は誰一人欠けることは無く、無事に勝利の余韻に浸れた。
「はぁはぁ、死ぬかと思ったねー」
「そうだね。危くだったよ」
「ううっ、ぺっぺっ! 口の中に砂が……気持ち悪いです」
グリム達はそれなりの不快感を抱えていた。
全身に砂が纏わり付き、なかなか自由が利かない。
けれどそれも一瞬で、グリムは手にしていた円盤をギュッと握った。
「あ、あれ? 砂が引いていく……」
「どういうことですか? なにが起きているんでしょうか?」
突然砂が引き出した。埋もれていた体が自由になるのが分かる。
けれど何の突拍子もなく、フェスタとDは困惑した。
ただ一人、グリムを除いては。
「やっぱりね。これが答えで間違いなさそうだよ」
グリムは手にしていた円盤を見た。
予想は大当たりで、ニヤリと笑みを浮かべる。
その様子をいち早くから見守っていたDは首を捻ると、グリム達はようやく砂の中から解放され、完全に自由を手に入れた。
「グリムさん、どうしたんですか? 答えって一体……」
「砂の手の正体だよ。私達が倒したね」
「「ええっ!?」」
フェスタもDもよく分かっていなかった。
砂の手が倒されたこと、宙を舞った円盤の正体、どちらも繋がりがあるのは理解できたが、何かまでは察しが付いていない模様だ。
けれどグリムが手にしていた小さな円盤を見せると、Dは首を捻り、フェスタは口をあんぐりと開ける。円盤の正体には、アキラもフェスタも見知っていたからだ。
「これって、さっき拾ったメダル?」
「うん、金色のメダル。とは言っても、本物じゃないけどね」
「本物じゃないんですか! それじゃあこれは一体……」
Dの疑問は当然だった。
今、グリムが手に持っているこのメダルの正体は何なのか。
誰も分からないのなら意味がない。そこでグリムは代わりに答えた。
「よく見てて。私の仮説が正しければ……」
グリムはしゃがみ込むと、金色のメダルを砂にかざす。
これで一体何が起きるのか。食い入るような目を向けるフェスタとDは、グリムの行動を凝視。
すると散らばっていた砂が金色のメダルに集まり始め、メダルの姿を覆い始めた。
「うわわぁ? メダルが砂に埋もれちゃったー。なんでー、なんでなんでー?」
「グリムさん、もしかして、私が感じた気配って」
「なにを隠そう、このメダルだよ。このメダルは単純な金じゃない。偽物だけど本物、モンスターだよ」
グリムはメダルの正体を明らかにした。
手のひらサイズの円盤、それはメダルに擬態したモンスター=コインコガネだ。
サイズは小さなコインから大きめのメダルと様々。コガネとあるがコガネムシとは何も関係が無く、コインコガネは虫でもない。単純に金色のコインなのだ。
「多分このメダルには、砂とか鉄とか、そう言った粒を集める習性があるんだよ。それで集めた砂や鉄の形を変化させて」
「自分の体みたいに動かせるってことー? なにそれー、凄いだけど厄介だねー」
「そうだね。確かに苦戦は強いられたよ。的も小さかったから、私も偶然攻撃が当たらないと分からなかったよ」
「私も砂の中を絶えず動き回って、動かす範囲を限定している気配に気が付かなかったら、あんな真似できませんでした。あっ、フェスタさん。先程は腕輪がぶつかりそうになってしまって、ごめんなさい」
コインコガネの厄介な習性を肌で感じたグリム達。
その厄介さが相まってか、Dは危うくフェスタに怪我を負わせる所だった。
思い出すとすぐさま謝るが、飄々とした態度でフェスタは許す。
「そんなのいいよー。それよりさ、このメダルって金じゃないんでしょ?」
「そうだね。この重さは金じゃない」
「本当? もう一回よく観察したら……」
「いや、それは無いよ。だってほら」
グリムはコインコガネの表面を爪でなぞる。
すると金の部分が少しずつ剥がれて行き、臆の部分が露出する。
その色合いは茶色。同時に芳醇な甘みを漂わせ、味覚を擽った。
「いい香りですね。これってチョコレートですか?」
「そうだね。コインコガネの正体は、よくあるチョコレートみたいだよ」
「チョコレート!? なーんだ、それじゃあ私達、お菓子に殺されかけたってこと?」
「糖質の摂り過ぎは体を殺すよ? それと物理で再現しているんじゃないかな?」
「どっちでもいいよー! あーあ、オチはあれだったけど、バトルは楽しかったなー」
「批判なのか分からないよ」
コインコガネの真の正体。それはお菓子売り場で売っているお金の形をしたチョコレートとほとんど同じ。
金の部分を剥がされるとモンスターとしての生涯を終え、甘味品に変わってしまった。
もはや敵意は完全に無く、砂に近付けてもくっ付きもしない。
その様子に呆れるフェスタだったが、戦闘は楽しかったようで、満足できていた。
「あの、グリムさん、フェスタさん、これってポイントは……」
「多分入ると思うよ? 正体は金じゃなかったけど、ここまで大々的にやっておいて、報酬がチョコレート一つだと、流石に批判殺到だろうから」
「ううっ、それを狙うのはちょっと嫌ですね」
「そうだね。でもイベントは今日までだから、これ以上できることは無いんだよ。後は信じてみよう。ねっ」
グリムは優しい笑みを浮かべ、頑張ったDの頭を撫でる。
嬉しいけれどくすぐったいのか、顔を赤らめて寝れてしまうD。
その姿が可愛らしく、グリムは笑みを浮かべるも、Dは髪で目を伏せ表情を隠した。
「は、はい……」
「Dって可愛いね」
「か、かわっ!?」
「あーあ、やっぱりタラシだー。百合展開、グリムは求めてるの?」
「百合? 百合の花ならもう少しだと思うけど?」
「そうじゃないんだよなー」
フェスタは何か肝心なことだけ分かっていないグリムを冷たい目で見ていた。
如何して冷たい目をされるのか、グリムには見当も付かない。
その間もグリムはDを撫で続け、嬉し恥ずかしさに悶えそうになるDを、フェスタは愉悦に満ちて見守るのだった。
とはいえこれにてゴールドラッシュ・イベントは終了。
オチは呆気なく、グリム達はできることを全うするのだった。
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