第135話 黄金のメダルは砂に埋もれて
メダル、取れるかな?
「あれは……」
「ねっ、埋まってるよねー?」
「埋まってる……メダルが」
グリムがフェスタに言われてやって来ると、その指先を見つめる。
砂の中、そこに落ちていたのは一枚のメダル。
特殊なコーティングが施されたわけでもない、単に黄金のメダル。
丁寧な彫はされているものの、たった一枚が取り残される形で砂に埋もれており、上部の湾曲した一部が露出している形だった。如何にも怪しく、近付き難い。
「フェスタ、あのメダルが欲しいの?」
「欲しいって、私、そんなに子供じゃないよー?」
「子供じゃない……確かにそうだろうけど、あのメダルが気になるのは変らないと」
「う、うん」
フェスタはコクリと首を縦に振った。
如何やら砂に埋もれたメダルが気になってしまい、集中力が削がれてしまう。
けれども、明らかに罠の臭いがする。
グリムも警戒しつつ、腕を組んだまま黙り込んだ。
「正直近付きたくはないかな」
「だよねー。でさ!」
「その目、なにか企んでいるね」
「もっちろん!」
フェスタは一切隠す気が無かった。
呆れるほど素直で、グリムは眉根を額に寄せる。
するとフェスタがニヤリと笑みを浮かべると、グリムにジェスチャーをする。
「そのジェスチャー、もしかしなくても死神?」
「正解! うわぁ、グリム怖い怖い。それに表情が痛いよ!」
「目で睨んでいるだけだよ?」
「目で睨むなら睨んでいるだけでしょ! そうじゃなくてさー」
グリムはフェスタに煽られたので、少し脅して見せた。
すると如何にもこうにも効き過ぎてしまったらしい。
強張った表情で仰け反ると、今にも倒れてしまいそうになりながら、フェスタは必至に謝って、本当の意味を伝える。
「私がして欲しいのは、〈死神の大鎌〉だよー」
「〈死神の大鎌〉? まさか、リーチの長さと湾曲した刃を使って取り出せと?」
「そこまで分かっているならやってよー」
完全に鍬と同じ扱いをされてしまった。
怪訝な表情を浮かべてしまい、グリムは呆れてしまう。
ものも言えない。そう思ったのも束の間、フェスタはグリムの腕を引く。
「お願いだよー」
「ああ、もう。分かったから、とりあえず引き寄せてみるから」
こうなったフェスタは止まらない。
腕を力強く引かれ、今にも脱臼しそうになる。
流石に溜まったものじゃない。そう思って武器を取り出すと、大鎌をできる限り伸ばして、砂に埋もれたメダルを探る。
「見えている辺りからしてこの角度……」
「行け行け、グリムー!」
「ちょっと黙ってて。後はこうして……それっ!」
グリムは下手くそな気持ちのこもっていない応援をされて怒る。
フェスタを黙らせると、真剣な様子でメダルを睨む。
彎曲した鎌の刃を当て、そのまま一気に砂ごと引き寄せた。
「とりあえず引き寄せてみたけど」
「メダルだね」
「メダルだ。しかも特に動くわけでも、硬い訳でも、そんなことも無いと……」
メダルを叩いてみるも、特に変なことは無かった。
グリムは爪をあてがって、軽く引っ掻いてみるものの、メダルに結果は出ない。
生物と言うわけでもなく、ましてや何かのスイッチでもない。
となればただ落ちていただけの金色のメダル。その認識が強いものの、やけに違和感を感じる。
「フェスタ、なにか気になる点は無い?」
「気になる点?」
「例えば動いているとか、色が違うとか、欠けた面が……あっ!」
じっくり観察をしていたグリムは金色のメダルに違和感を感じる。
むしろこれは目に見えた違和感で、金色のメダルの下部に視線が奪われる。
如何にもこうにも、このメダルは……
「グリムー、なにかあったの?」
「あったもなにも、ここが欠けてる」
「欠けてる? 何処が?」
「この辺が。ほんの少しだけ黒ずんでいるよ。変だね、金なのに錆びるなんて」
グリムの違和感はそれだけには止まらない。
とは言え、一番の違和感は金なのに錆びる点。
一応もう一つ挙げるのなら、ポイントして加算されないことだった。
「このメダルは使えないね。元に戻しておこう」
「ええっ!? な、なんで!」
「なんでもじゃないよ。このメダルを動かすのは凶だ」
「その心は?」
「私の直感」
「あっ! じゃあ返しておこうよ。うん、そうしよそうしよ」
フェスタは急に目の色を変える。
グリムは手にしていた金色のメダルを砂の上に戻す。
すると砂が集まって行き、メダルを飲み込んでしまった。
如何やら斜面になっているようで、メダルが重みで吸われてしまった。
「とりあえず成果は〇。とは言わないかな」
「そう?」
「そうだよ。ここに来た瞬間から、私達は成果を得ている。そう思えるのが、行動による対価だよ」
グリムはそう語った。
しかしフェスタにはなかなか伝わらない。
首を捻ったまま呆れてしまうと、頭の上で腕を組む。
「さてと、それじゃあDと合流しようか」
「そうだねー。それじゃあ……」
一歩目を出そうとした。
その瞬間、ゾクリとした違和感がグリムとフェスタを襲う。
この感触は何か。鈍い泥のような……否、砂のようなザラついた感触はと脳裏を過った。
「グリム」
「分かってるよ。でもなにも起きていない。それだけは確かだよ」
「そ、そうだけどさー。はぁー、気のせいかな?」
「どうかな。とりあえずまずはDとの合流を優先しようか」
グリムとフェスタはそう言うと、メダルから離れるように立ち去る。
この場所に居ても結果は変らない。
今のところ得られる結果はその程度で、だけど同時に大きな違和感と期待が渦巻いているのだった。
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