第120話 黄金のフィッシュ
あれから早三時間。
グリム達は池を目の前にし、釣針を垂らしていた。
けれど一向に餌に掛からない。本当にこの池に魚が居るのだろうかと怪しむ。
「釣れないなー」
「そうだね。釣れないねっ!」
何度か餌を付け替えてみた。
ルアーを上下左右に動かして、できる限り魚が食い付きたくなるよう操作する。
けれど流石に三時間何も釣れないのは精神に効く。
表情を顰めるフェスタの隣で、グリムはポツリと呟いた。
「もしかしていないのかな?」
「えっ!?」
フェスタは素早く食い付いた。
危惧していたことをグリムが呟いたせいで、諦めの糸が見え掛ける。
けれどすぐに首をブンブン振り回し、グリムの言葉を全力で否定した。
「ダメダメダメだって! そんなこと言ったら釣れなくなるよー」
「そうだね。だから言わない」
「はっ?」
「私は魚がいないかもとは言っても、釣れないなんて一言も言っていないよ。だから釣れるよ。釣れる可能性が極めて高いんだ。釣ろうと言う意識があれば、魚は釣れる……と言うのは、あまりにも希望的観測かもしれないけどね」
グリムはそう答えた。するとDも「そうですよね!」と真似るみたいに繰り返す。
釣れないなんて一言も言わないし、言ってもいない。
だったらできるだけ頑張るしかないので、グリム達はまだ粘る。
「そうだよねー。釣れると信じて針を投げ続けるしかないよねっ!」
フェスタも再び針を投げる。池の中にポチャンと波紋が生まれ、針が深く浸透する。
この作業の繰り返し。グリム達は彼これ三時間、この作業を延々と繰り返し続けていた。
「ん?」
しかしようやく好機が巡って来たかもしれない。
グリムが顔を上げると、陽射しが池に射し込む。
先程までは全体に広がって水面で乱反射していたが、今は一点だけに集約されている。
そのおかげか、池の中心部だけが乱反射していた。その色はまるで金色。光のカーテンが展開していた。
「綺麗……」
「そうだね。にしても三時間の経過で、こんな珍しい変化が起こるなんて」
常に太陽は自転している。そのおかげか、池の中心に陽射しが射し込む位置にまで到達。
光の集約が限定的になり、グリムはあの場所にこそ、何かあって欲しいと期待する。
「試してみようかな。それっ!」
私は光が集約している中心部に針を投げ込む。
ポチャンと波紋を呼ぶが、特に変化は起きない。
ただ光が集まっているだけで、もしかしると魚は生息していない。
その可能性が大いに高まる結果に、グリムも蟀谷を掻いた。
「流石にそう甘くないかな」
「うーん……ん?」
「どうしたの、フェスタ? なにか気掛かりがあるの?」
フェスタの様子がおかしい。
目を凝らして瞳孔を一点に集中させている。
目ぼしい物を見つけたのか。それに近い物を見つけたのか。
どちらかは分からないが、とにかく何か気掛かりがあるらしい。
「ねえグリム。あれ、なに?」
「あれって?」
「ほら、水面からちょっとだけ出てるあれだよ。トゲトゲしているけど、岩かな?」
グリムはフェスタの言葉に違和感を覚える。
それはおかしい。水面から岩なんて覗いていない。
それなら根掛かりを起こして、釣糸が終わってしまう。そんな真似、グリムは決してしない性格なので、岩を見つけたらすぐに避ける筈だった。
「と言うことは、最初から岩なんて……【観察眼】と【看破】!」
グリムは寄り目になった。スキルを使うことで正体を暴こうとする。
すると確かに水面からちょこんと岩が覗かせている。
けれどそれは岩ではない。【看破】によって微弱な棘の動きを読み切り、グリムはそれが生き物であると知った。
「あれは魚だ。にしても……動かない?」
「本当ですね。【気配察知】を使ってみましたけど、敵意のようなものは一切……」
「そうだよね。もしかして死んで……うわぁ!」
グリムは一瞬の油断を見せた瞬間、急に釣竿に衝撃が加わる。
腕を引き千切られる勢いで水の中に放り込まれそうになった。
けれどグリムも負けてはおらず、踵を使ってギリギリ岸で耐える。
「くっ……うわぁ!」
今度は右に左にと暴れ回る」。
それもそのはず、魚も大人しく釣られる気はない。
けれどグリムとしてみえば止めて欲しい。
「うわぁ、くっ、このっ!」
何とか息を合わせて隙を掻い潜ろうと試みる。
けれど魚は強い力でうねりを上げ、グリムのことをおもちゃのように遊ぶ。
このままジリジリと体力を擦り減らされてたまるか。グリムも負けじと応戦する。
「私も負けられないんだよ。むしろ負ける気はしない……でも、これは流石に」
けれどグリム一人の足掻きでは限界があった。
あいては水を得た魚。そう易々とは釣られてくれない。
となればグリムの方が俄然ピンチ。圧倒的な地形条件の差で押されてしまう。
「このままじゃマズいよ。みんな手伝って!」
「わ、分かりました!」
「OK。んじゃ、Dもグリムの後ろに付いて!」
「は、はい」
フェスタとDはグリムの背後に付く。
このまま格闘する気はごめんだ。グリムはフェスタとDに背中を預け、体重を乗せる。
全員の力を合わせ、一気に勝負を決めるのだ。
「それじゃあ行くよ。せーのっ!」
「「せーのっ!」」
グリム達は力を合わせた。一気に釣り上げてしまおうと腰を落とし、全身を使って釣竿を引く。
すると魚の動きと奇跡的に噛み合った。
力が緩んだ瞬間で、一気に水面付近まで叩き上げられた魚は、水圧の変化に成す術がなく、そのまま姿を現す。
「つ、釣れた!」
「良かったぁー。って、なにあれ!」
フェスタが叫ぶ。グリムも釣り上げた魚に視線を戻す。
するとその大きさと色合いに驚いてしまった。
体長は一メートルもない。けれどその色は間違えない金色。
綺麗な体は細くしなやかで、水を掻き分けることに特化している。
その姿はまるでこの池の主。ゴールド系の魚に相応しい出で立ちをしていた。
「まさかこんな魚がいたなんて」
「す、凄いです」
グリム達は声を失う。目の前に現れた魚はピクピク跳ね回っている。
水飛沫を上げながら最後の足掻きを見せていたが、やがて乾いて動きが止まる。
如何やら完全に釣り上げたらしい。終わってみればあっさりで、三時間の労力に見合ったのかは分からないが、グリム達は満足だった。
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