第119話 上流の池は森の中
ゼーレン川をひたすら上流に向かって歩く。
グリム達は下流から中流に掛けて釣りをしている人達を尻目に、ドンドン急勾配になって行く道を突き進んだ。
ゼーレン川を隔て、両端には鬱蒼とした木々が立ち並ぶ。
如何やら森のようで、マイナスイオンが充満していた。
きっと精神的にリラックス効果が出るよう、運営が散らしてくれている。
そのおかげか、急勾配の山道も決して苦にはならない。
「みんな大丈夫?」
グリムは十五分近く歩いて、フェスタとDの様子を確認する。
クルリ首だけ回して振り返ると、そこには元気一杯のフェスタと少し疲れ目なDの姿。
流石に勾配のせいでリアル体力を擦り減らしているようで、少し歩幅を小さくした。
「フェスタ、先行って。私はDとゆっくり行くから」
「OK。先陣は任せてよー」
グリムとフェスタは歩幅を入れ替えた。
フェスタには道無き道でも先陣を切って突き進んで貰う。
対してグリムはDに肩を貸し、ゆったりと一緒に向かった。
「D、大丈夫?」
「は、はい。グリムさん、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。それより、晴天に恵まれた良い天気だよね。これなら目当ての魚も……と言いたいけど、影が邪魔になって釣れないかもね」
「そ、そうなんですか?」
グリムは晴天過ぎることを危惧する。
魚は勘が鋭い。眠っているわけでもない昼間なので、もしかすると見つけても逃げられるかもしれない。
とは言え鼻っから諦めている訳もない。不安そうな表情を浮かべるDに言葉を掛けた。
「なんてね。とりあえずやってみるしかないよ」
「グリムさん……私も頑張りますね、行きましょう!」
急にDは元気を取り戻した。
一体何が特効薬だったのか、足早になってグリムの服の袖を引っ張る。
まるで子供の様で、グリムはにこやかに口角を吊り上げた。
「走るのは良いけど、転ばないようにね」
「は、はい……うわぁ!?」
「おっと」
注意した手前でDは足を躓いた。
転びそうになる瞬間、グリムは駆け出してDを助けた。
腕を体の方に引き寄せると、Dは顔を真っ赤にする。
「あ、ありがとうございます、グリムさん……」
「D、ちゃんと前を見よっか」
「は、はい」
「でも元気が良いのは良いことだよ。それじゃあ行こうか」
グリムはDと手を繋いだ。もう転んで貰いたくない。そのつもりで手を繋いだ。
けれどDは発熱でもあるのか、やけに手が指先まで熱い。
グリムはDの顔がまだ赤いことに(病気かな?)と疑いを抱くが、野暮な話しなので口には出さなかった。
そうしてグリムとDはフェスタを追いかける形で山道を突き進む。
すると上流に向かっていたはずが、目の前の道が消えた。
「グリムさん、道が途絶えてますよ!」
「そうだね。……ゼーレン川が二つに分かれている。もしかしたら、なにかトラブルが起きてこの先の道が通行止め状態なのかな?」
グリム達の視界の先。そこには巨大な丸太が転がっていた。
如何やら倒木のようで、焦げ跡は無く、風で折れた訳でもない。中が腐ってしまったらしく、経年劣化的な何かで腐敗し、そのまま薙ぎ倒され道を途絶えさせていた。
とは言え無理に通ろうとすることは可能。けれど怪我を誘発しかけない。
だがしかし、ゼーレン川はこの先も続いている。先に行けないのは、流石に難儀だった。
グリムは考えた末、目の前の道を進むのは諦めた。代わりに取ったのは……
「それじゃあこっちの道を行こう」
グリムが指を指したのは、山の中だった。
誰かによって意図的に切り開かれたようで、ぽっかりと穴が開いている。
おまけに最近刈ったと思しき芝刈りの跡。これは間違いなく、道が続いている。
「グリムさん、この先に行くんですか?」
「行くしかないよ。ここまででフェスタと合流できなかった。と言うことは、この先にいる。そういうことになるよね?」
幸いにもゼーレン川もほんの少しだけ川道が続いていた。
つまりこの先に進めば、結果的にフェスタと合流できる。
このまま何の成果もなく、フェスタを置いていくのは気が引ける。
グリムはDを連れて山道を進んだ。
「一本道なんですね」
「そうだね。でも、その方が分かりやすいよ。おまけに歩きやすい」
山道の中を進むことにしたグリムとD。
その道中はマイナスイオンで一杯の木々に囲まれた、狭い獣道だった。
周囲には鋭い棘が幾つも伸びている。おまけに枝が反撃の狼煙をいつでも上げられるよう、グリム達を睨んでいた。
その合間にポッカリと切り開かれた道のせいか、グリム達は誘導させるように進んで行く。けれど動物やモンスターが度々足を運ぶせいか、平らに近い。天然の整備された道で、グリム達がグングン進んで行くと、視線の先に人影が見えた。
「おーい、グリムー、Dー、こっちこっちー!」
如何やらグリム達を呼んでいた。となれば一人しか居ない。
視界に捉えたのはフェスタ。腕を左右にブンブン振り回している。
まるで誘導員で、グリム達を誘導してくれていた。
ここまでで大体二十五分。結構な運動になった。
「待っていてくれたんだね。ここまでご苦労様」
「ううん。結構開かれてたから楽だったよ」
「そうなんだ。それで先陣を切った成果はあった?」
「ふふふーん。あるに決まっているよねー。そう、これだ!」
グリムはフェスタに成果を訊ねる。
あったのか無かったのか、そんなものは如何だって良いのだが、フェスタがその場を避けると、確かに成果が見えた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
グリムとDは声を上げた。
フェスタが避けた先、そこに広がるのは大きな池。
しかしただの池ではない。エメラルドグリーンに張った水面で、周囲の木々が幻想的に彩る。薄っすらと射し込む陽射しが余計に引き立たせると。とても綺麗な景色を浮かび上がらせた。
「凄い。まさかこんな景色が広がっていたなんて……」
「幻想的です」
「そうでしょそうでしょ。それじゃあ早速釣りをしよう!」
この景色を見ても、フェスタは一切ブレない。
インベントリの中から釣竿を取り出すと、迷いなく池の中に針を放り込むのだった。
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