表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/253

第117話 少年の敗北

 少年はグリムの話をマジマジと聞いて絶句した。

 如何足搔いても負けていた。そんな未来しか見えない。

 項垂れてしまう少年はその流れでグリムに答える。


「さっ、僕の気になることは全部教えて貰えたから、もうやっていいよ。心残りは無いから」


 少年は開き直っていた。

 完全に殺され待ちをする構えを取り、武器を手放して反抗の意思を示さない。


 少年は完敗だった。もう勝ち目はない。だったらいっそのこと。

 そう思って両手を伸ばして隙を見せるが、グリムは一向に倒そうとはしない。


 むしろ大鎌を仕舞う様子で、その時点で戦うことを止めていた。

 何故倒さないのか。少年には理解ができず、目を丸くした。


「お姉さん、どうして僕を殺さないの? 殺したら、相手のポイントを奪えるんだよ?」

「そうだね。でもその必要はないよ」

「その必要はない? もしかして僕のこと舐めてる?」

「そうじゃないよ。単純に私が倒すことを前提にしていないだけ。実際、私は相手を殺して勝利とは一言も言っていないからね」


 ここまでグリムは一言も倒せば終わりとは言っていない。

 「倒さなくても倒されたと判定できたらそれで終わってもいいよね」、グリムはそう答えた。

 実際、グリムは少年の戦意をへし折った。自分か敗北の二文字を飲ませると、そのまま崩れてしまっている。もはや反撃の余地は無く、

 これは倒された判定で、グリムの求めた結果だけが付いて来た。


「だからこの結果で良いんだよ。私の仲間もそれを了承してくれているから」


 グリムは振り返ると、フェスタとDの顔がある。

 首を縦に振っていて、如何やら話が聞こえていたらしい。

 にこりと笑みを浮かべて相槌を打つと、再び少年の顔を覗き込んだ。


「と言うわけで私達の勝ちだから。できればもう襲わないでくれるかな?」


 グリムの要求は実にシンプルだった。

 完全に安全を獲得するための保身でしかない。

 けれど少年は敗北者。勝者の言葉を受け取るしかない。


「そうだね。それじゃあ僕の負けだから、お姉さん達を襲わないことにするよ。今はね」

「今は? それじゃあまあ襲撃して来るってことかな?」

「さぁ? でも今回のイベントでは手を出さないよ。それとイベント以外では攻撃はしない。そう約束する」


 少年はほくそ笑んでいた。

 今回は負けたが次は負けない。その時はもっと上手くやれる。その自身しかなく、自分よりも強い強者の登場に胸の高鳴りが止まらない。これがワクワク。そこそこ生きて来た自分に足りていなかった欲求だ。


 ならばこんな時、普段の時にやるのはもったいない。

 もっと同じ舞台で、同じ立場で戦いたい。

 だからこそ少年は無茶にも思える約束を勝手に取り付けた。


「そう? それなら構わないけど」

「本当? それじゃあ精々僕にやられるまでは負けないでね、お姉さん達。それと、はい!」


 少年はグリムに何かを渡した。

 それはプレイヤーIDとイベント獲得ポイントの一部のようだ。


「えっ?」


 突然のことに驚くグリム。もしかすると負い目を感じているのだろうか?

 そんな必要は無いのにと思いつつ、少年のIDとプレイヤーネームを見てグリムは首を捻った。この名前、何処かで見覚えがある。

 いや、グリムはこの名前をはっきりと覚えていた。それと同時に抱いていた謎も解けた。


「59潰し238? この名前って、確か中間ランキング一位の?」

「238じゃなくて、238(ふみや)ね。お姉さん、間違えないでよ」


 少年=238はそう答える。

 普通に語呂合わせだったようで、グリムは瞬きをしたが、「なるほどね」と返す。

 名前が分かったグリムだったが、その返答はあまりに淡白で、それもそのはず238が如何してこれだけの大量ポイントを獲得していたのか。その謎が解けたことが大きい。


 238はズルいことはしていなかった。

 単純にポイントの多いプレイヤーを襲撃して回っていた。

 そのおかげであれよあれよとポイントが集まっていた。

 けれどこれができたのは238がよっぽどの強者だからで、相手に反撃の余地を与えない戦闘スタイルがものを言っていた。


「238、貴方強いね」

「お姉さんが言わないでよ。でも僕も次は負けないよ。それじゃあ、お姉さん」

「うん。それじゃあ……」


 グサリ!


 グリムは見逃そうとした。振り返ってはいたものの、いつでも反射できるようにしていた。

 けれどそんな真似は必要なかった。

 突然背後から斬撃の音、何かが突き刺さる音が聞こえ、グリムではないことが分かっていたので急いで振り返り返した。


 するとそこに居たのは鎖鎌を自らの腹部に刺して苦しむ238の姿。

 目からは涙とも言えない何かが垂れ、嗚咽混じりにグリムを睨む。


「な、なにやってるの!?」


 すぐさま駆け寄ろうとしたグリムだったが、238はにやり笑う。

 すると口元が微かに動き、唇が音もない声を伝えた。

 口パクで読唇術が無いと分からない。けれどグリムは現実でのそれを使い、上手く読み取ると



 “つ・ぎ・は・ま・け・な・い・よ” ——



 その言葉を言い残すと、238の姿は粒子になる。

 強制ログアウトしてしまったようで、空しいまでの静寂が包み込む。


 グリムはそんな草原に立たされてしまい、気分が悪い。

 幸いにもフェスタやDに見られていなかったことに安堵するが、それでも気分は最悪だ。


「なんだか後味が悪いな」


 グリムは蟀谷を抑えてしまった。

 まさか目の前で自害されてしまうと、グリムには如何することもできない。

 自分の意思で死んだことで、238はデス・ペナルティを抱えているだろう。

けれどそこまでして敗北を直に受け入れられてしまうと、グリムの心には一種の罪悪感に似た何かを貰う羽目になった。


「次は負けないよ、か」


 グリムは溜息ではない吐息を吐いた。それほどまでに印象を強く受けてしまった。

四日目にして得られたのは強者の名前と【読唇術】のスキルだけだった

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


下の方に☆☆☆☆☆があるので、気軽に☆マークをくれると嬉しいです。(面白かったら5つ、面白くなかったら1つと気軽で大丈夫です。☆が多ければ多いほど、個人的には創作意欲が燃えます!)


ブックマークやいいねに感想など、気軽にしていただけると励みになります。


また次のお話も、読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ