第104話 ゴールドスライムも
グリムはスキルを発動した。
【観察眼】と【看破】を発動し、眉根に皺を寄せる。
「グリムさん、私も手伝います」
Dも自然と【気配察知】を発動し、ゴールドスライムを探してみる。
とは言え、視界に広がるだけの景色では情報が圧倒的に足りない。
見たところ普通のスライムの姿はチラホラ確認できる。
けれどゴールドスライムを見つけることはできない。
「ダメだね。この辺りにはいないかもね」
「そんなー。つまんないよー」
「確かにね。でも通常種を狩っていれば、一定のポイントは獲得できるよ。獲得できるポイントは少ないけどね」
今回のイベントではゴールド系のモンスターくらいしかまともにポイントを稼げない。
つまり通常種のモンスターややけにレアなモンスターとは言え、ゴールドには到底及ばない。
正直辛い仕様ではあるのだが、グリムはゴールドスライムを探しつつ、他にも目ぼしいモンスターを探した。
(とは言ってもスライム種以外にはいないかな)
グリムの見立ては正しかった。あくまでも視界に取り込める情報でしかない。
けれどもスライム種しかいないのは確実で、グリムは目が疲れた。
眉間を指で押さえると、スキルも自動的に解除された。
正直、スキルによっては疲れる。それもそのはず、【観察眼】も【看破】も目に力を入れるからか、目がとてもじゃないが疲れてしまう。
一方【気配察知】を駆使するDにもおかしなことが起き始めた。
常に【気配察知】を展開しているせいか、モンスターでもないのに周囲の気配で挙動を狂わされる。キョロキョロと視線が右往左往し出すと、グリムはDの頭に手を置き、スキルを冷やすよう促す。
「D、少しスキルを解除しよう。クールタイムを取らないと、体に毒だよ」
「は、はい」
Dはスキルを解除した。
全身から力が抜けると、一瞬だけ意識がふわりとする。
スキルを使うとクールタイムを要する。まさにゲームらしく、スキルゲーでは終わらせない気が満々だった。
「フェスタ、流石にゴールドスライムを見つけるのは至難の技だよ。出現率が上がっているとは言っても、ゴールド系は」
「むぅ。仕方ないかー。じゃあさ、適当にモンスターを狩りまくるよ。だから二人は休んでてー」
「そうさせて貰うよ」
ここまで頑張ってくれたグリムとDをフェスタは労う。
二人が座って休んでいる間、フェスタは持ち前のパワーを活かしてモンスターを撃破して回る。
「そらぁそらぁそらぁそらぁ!」
大剣の重さに肘と膝が悲鳴を上げる。
けれど使い勝手に慣れてきたおかげか、前よりも【納剣】からの【抜剣】。【抜剣】からのい【納剣】が上手くなっていた。
これは成長だとフェスタ本人も傍から見ているグリム達でさえ感心すると、次から次へとスライムを撃破する。
「いや、スライムばっかり倒すとなんだか悪い気がするなぁー」
フェスタはとにかくスライムを倒しまくった。
しかし罪悪感がゲームだけど拭えない。
正直逃げ惑うだけで、攻撃して来ても淡々と処理してしまう。
フェスタは唇を噛み、表情を渋くすると、そんな気持ちを吐露した。
「なんだか可哀そうだね」
「そうですね。フェスタさんの動きもなんだかぎこちないですよ」
「確かにね。レベルもそう上がっていないだろうから」
「あれから一つしか上がっていませんもんね。フェスタさんも経験値稼ぎが捗ってないからでしょうか?」
「いや、多分罪悪感だと思うけど」
グリムとフェスタは遠目から暴れるフェスタのことを見つめてそんなことを評論する。
ここまでのイベントでほとんどモンスターとは戦っていない。
そのせいもあり、レベルは全然上がらないのが現状で、スライムじゃ経験値もイベントのポイントも稼げないので、流石に焦りが見えてしまった。
おまけにそんな会話を密かに聞いていたフェスタは表情を訝しめる。
陰口ではないにしろ大概だった。
ムッとした表情を浮かべると、頬をポリポリ掻いてしまう。
「勝手なこと言ってくれるなー。でもまあ、罪悪感的なものはあるけどさー」
フェスタも罪悪感はあった。
けれど深く考えなくても、フェスタは唇を曲げた。
「でもさ、それも事実なんだよねー。あーあ、せめて面白いモンスターを倒せたらなー」
フェスタは空を見上げた。ボーッと頭を悩ませられた。
フラフラと大剣を握り構えると、適当に振り下ろした。
「えいっ!」
フェスタは〈戦車の大剣槍〉を勢いよく振り下ろした。
もはや何も見ていない。適当に振り下ろした感じだ。
「ふぅ。まあこんなものかなー。ん? えっ!?」
「「フェスタ(さん)」」
フェスタは一仕事した後みたいに、額の汗を拭き取った。
しかし今倒したモンスターは少し硬かった気がする。
何が起きたのかと思ったが、ふと視線を落としてみる。
するととんでもないことになっていて、フェスタは叫んでしまった。
その叫び声にグリムとDは呼応する。
何かあったのは明確だ。視線を飛ばすと、フェスタは唖然としていた。
「どうしたのフェスタ。やってしまった顔だけど」
「あっ、えっと……うん」
「やっちゃったんだ。それで一体なにをしたの?」
グリムはフェスタに訊ねる。すると目を右往左往して挙動不審な態度を取った。
この様子を見るに、かなり何かマズいことをした様子だ。
頬を軽く掻いてみると、観念したのかフェスタは諦める。
するとフェスタは人差し指を下に向ける。
何かあるのだろうか。グリムとDはフェスタの指が示す先を見つめた。
一瞬だが、確かにグリムとDは思考が停止する。
何故かと言われれば単純で、大剣の振り下ろした隙間から、何か漏れていた。
「これを見て」
「これってなんですか? って、スライム!?」
「広がってるね。それにしても体液の色が金色ってことは、もしかしてゴールドスライムってこと?」
「そうっぽい」
フェスタは呆気に取られていたが、多分そうらしいと解釈した。
草原の草の上に広がるのは金色の体液。
如何やらこれがゴールドスライムのようで、体液が広がる残酷な光景がその末路を教えてくれた。
「そうっぽいって、いつの間に倒したの?」
「それは私が知りたいんだよー」
グリムはフェスタにいつ倒したのか尋ねた。
そもそもさっきまでゴールドスライムは見当たらなかった。
にもかかわらず少し目を離した隙に、それこそ何の気なしの時に現れた挙句、フェスタが適当に大剣を振り下ろし倒してしまったのだ。
誰もいつ倒したのか全く分からず、静観することを忘れ、焦ってしまった。
「あーあ。もっとカッコよく倒してあげたかったなー」
「そうだね。でもフェスタの望みは叶ったじゃないか」
フェスタはボヤいた。ちゃんとゴールドスライムを倒したかったのだ。
けれど倒した事実は変らないと、グリムは割り切らせようとする。
けれど中々上手くはいかないで、心の中にしこりができる。
「ううっ、それはそうだけどさー。ものにはこう、味ってものがあるんでしょー」
「フェスタがそれを言い出すんだね。うん。確かにその気持ちはあるけど、倒してしまったんだ。噛み締めよう」
「噛み締めるんですね」
グリムは倒してしまったものは仕方ないと割り切る。
Dは軽いツッコミを入れるのだが、グリムの言葉が間違っているとは思えない。
フェスタも同感で、一度終わってしまったものは返って来ないので、ゴールドスライムに感謝をすることにした。おかげで経験値も微々たるものだが、ポイントが稼げたのだ。
「そうだねー。ありがとう、ゴールドスライムー」
「今度はちゃんと戦ってみたいけどね」
「それは言わないでよー」
グリムはフェスタが押し殺していた気持ちを代弁する。
すると痛いところを突かれたフェスタが悲鳴を上げた。
その攻防をDは視界に留め、「私は戦わなくても済むならその方が良いですけどね」と意見を発し、ここまでで倒したスライム達に感謝した。
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