第101話 ゴールドラットの群れ
カーン! カーン!
ツルハシを幾度となく降り下ろし、グリムとフェスタは金鉱脈を掘り続けた。
一体どれだけ眠っているのだろうか。
想定では信じられない量の金が眠っているようで、ツルハシで叩けば叩く程、ゴロゴロと金が落ちて来る。
「凄いね。これだけの金が手には入るなんて」
「本当本当―」
「おまけに今回のイベントは一度ポイントを稼いでしまえば、街に戻って売ってもいい優しいしよう。しかも不正は絶対に許さない謎のファイアウォールも組み込まれている。うん、これ以上に無いよ」
グリム達は満足していた。まさかこんなに順調とは思わなかった。
けれど不安も込み上げてきた。
ここまで何も起きないとなれば、色々と不気味に感じる。
怪しいと言えばいいのだろうか。
目を血眼のしているDもキョロキョロ視線を動かし続ける。
けれど襲って来るモンスターもプレイヤーの影もない。
如何やら安全は確保されているようで、微妙に警戒心が無くなっていた。
「なにも来ませんね」
「それに越したことはないよ。それよりどれだけ採掘できるのかな? 正直怖くなって来たよ」
「それじゃあそろそろ止めとくー?」
「うーん、検討次第だね。もう少し採掘をしてもいいんだけど、私の直感が止めとけとも言っているんだよね」
グリムがそう呟くと、フェスタは瞼を押し上げた。
眉根を寄せると幾つもの皺を作る。
何か嫌な予感でも働いたのか、突然周囲への警戒心を強めた。
「グリム、そろそろ戻ろーよ?」
「戻るの? 珍しいね、フェスタがそういうなんて。でもいいよ」
グリムはフェスタの態度に呼応して急いでこの場を離れることにした。
ホッと胸を撫で下ろし安堵しているようだが、その瞬間Dは嫌な感覚を感じ取る。
【気配察知】が発動したようで、洞窟の奥に視線を飛ばして固まる。
「グリムさんフェスタさん、なにか来ますよ?」
「なにか来るって?」
「もしかして遅かったかなー?」
グリム達は目では見えないので耳を澄ます。
するとダッダッダッダッ! と軽快に何かが駆けて来る。
とても嫌な予感がしてならない。そこでグリムは暗闇でも効果が有ると信じ、【看破】を使って姿を追った。すると気色悪いそれは姿を現す。
全身灰色。小さな体に、細長い尻尾。
剥き出しにした前歯は出っ歯で金色に輝いている。
体重が軽いおかげか、とても素早く迫っている。
その姿形から、その生き物は容易に想像できた。
「ね、ネズミだ!」
「「ね、ネズミ!?」」
グリムの言葉にフェスタとDは目を見開く。
暗闇の中から無数に駆けて来るのはネズミの群れ。しかもただのネズミではなかった。
名前はゴールドラット。その名の通り、この金鉱山を根城とする厄介なモンスターだった。
「数はどのくらいいるのー?」
「分からない。分からないけど、とにかくたくさんかな」
一匹や二匹の騒ぎではない。
十ずつの列が群れを成して襲ってくる。
それにしても何故襲って来るのか。グリム達は考えたくもなかった。
「ど、ど、ど、どうするんですか! それにどうして襲って来たんですか!」
「どうするかは決まってないよ。でも襲ってきた理由は想像できるかな」
「想像ができるんですか、流石グリムさんです!」
「無理に褒めなくてもいいよ。恐らく私達が壁を破壊したせいで振動が広がったんだと思うよ。それでネズミの群れに気付かれて、襲って来た……あるいわ」
「そんなこと良いからさー、なんとかしようよー!」
グリムの想像や妄想をフェスタは全部ぶち壊した。
ましてや今見ている現実に引き戻し、大量のネズミの群れを相手取ることになった。
しかしこんな狭いところじゃ満足に大鎌も大剣も戦輪も使えない。攻撃策を絞られ、いきなり厳しい幕開けだった。
「とりあえず、せめてもの救いはネズミ達が入口から来なかったことかな」
「ってことはここは?」
「逃げるだけだよ。インベントリにありったけの金を詰めて走るよ!」
金はインベントリを圧迫する。
一つ一つ詰め込んでいくと、全部を回収することは間に合わない。
その間に刻一刻とゴールドラットは迫りよる。
全部の回収を早々に諦め、グリム達は背を向けて走り出した。
「D、バリアを張りながら移動はできる?」
「で、できません! 移動速度に弱低下が付与されちゃいます」
「なるほどね。それじゃあこのまま走って逃げる……のも厳しいかな」
少し振り返ってみると、ゴールドラットの群れが追って来ていた。
しかも先程よりも素早かった。
これは追い付かれるのは必死だ。グリムは大鎌を振り上げようとするが、よく見ると数は減っていた。
(なんで数が減ってるんだろう)
スキル【看破】と【観察眼】を同時に使った。
目が寄ってしまいかなり熱いしおまけに痛い。
けれどおかげで見えて来た。一瞬しか捉える隙は無かったが、グリム達が破壊した壁に群がっている。何をしているのか、かと思えば金の欠片を食べていた。
「金を食べてる? なるほど、そっちだったんだ」
グリムの想像が外れてしまった。
如何やら壁を破壊した振動で寄って来たのではなく、金の匂いを追って来たらしい。
ゴールドラットは金を食べる。だから前歯が金色に輝いている。
想像は容易く、グリム達は追われる理由にも予想が付いた。
「二人ともよく聞いて、もしかしたら金を捨てれば助かるかもしれないよ」
「えっ、ここまで頑張ったのに?」
「そこまで頑張ったかは分からないけれど、おそらくあのネズミ達は私達にこびりついた金の匂いを追っているんだよ。だからインベントリの中の金を全部手放せば追って来なくなるかもね」
苦渋の決断だった。けれどこのままでは確実に追い付かれるのは明白。
如何したものだろう。グリムは二人に選択の余地を与える。
するとフェスタは早々に拒否した。
「私は嫌だよー。こんなの頑張って、殺気もちょっと手放したんだからさー」
「なるほどね。それじゃあDは?」
「わ、私は……嫌です。お二人が頑張ってくれたものを手放すなんて絶対に嫌です!」
二人の意思は固かった。
となればグリムはギルドマスターとしてリーダーとしての選択を取られる。
けれどもう決まってもいた。グリムはにこやかな表情を浮かべると、目を見開いた。
「それじゃあこのまま帰って売ろうか。一つも捨てないで、全部持って逃げるよ」
そんな夢みたいな選択肢を取った。
けれどそれができると確信に近い直感がグリムにはあった。
だからきっと大丈夫だと言い聞かせ、全員で洞窟を爆走した。
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