7 検問
南へ行く道は混んでいました。
みんな逃げる人たちのようです。
シャーラは足が痛くなってきましたが、がまんします。
だってマルラ姉ちゃんの方がもっと痛いはずです。
お母さんもシジ兄ちゃんもおばあちゃんも荷車を押しています。
マハド兄ちゃんも黙って歩いています。
少し怖い顔をしています。
マハド兄ちゃんも足が痛いのかもしれません。
シジ兄ちゃんが荷車に乗っていた服を丸めたさっかーボールをつかんで、黙って荷車の外へ捨てました。
「あ・・・それ・・・」
とマハド兄ちゃんが言いました。
「この方が少し軽くなる!」
シジ兄ちゃんが前を向いたままで言いました。
どんな顔をしているのかは、よくわかりません。
おばあちゃんが車を押しながら、片手でシジ兄ちゃんの頭をそっとなでました。
マハド兄ちゃんは、黙ったまま、じっと手を握りしめて少しうつむき加減になって歩いてゆきます。
時々、ちらっと荷車を見ます。
シャーラにはわかりました。
あの木の銃と人形を捨てた方がいいかもしれない・・・と考えているんでしょう。
でも、やっぱり大事だからそんなことできないって思ってるんでしょう。
シャーラみたいに手で持ったらいいのに。とシャーラは思いましたが、そういえばお父さんが
「それは見えないように底の方に隠しておきなさい。」
と言っていたのを思い出しました。
お父さんは、どうしてマルラ兄ちゃんにだけそんなことを言ったのかな?
シャーラはサラムとメイルを手に持っていても、なんにも言われないのに。
もう歩くのいや。
って思った頃、行く先に人がいっぱいいてシャーラたちも前に進めなくなってしまいました。
前の方を見ると、四角くてゴツゴツした土の色をした車がたくさん停まっています。
その近くに何人もの人たちがいて、南へ行こうとする人たちを止めて何かしていました。
銃を持っています。
たぶん、本物の銃です。
銃を持った人たちの格好は、とても変な格好でした。
頭にかぶった丸い帽子も、着ている服も、ヘビみたいなまだらの模様がついているのです。
なんだか怖そうだなぁ・・・とシャーラは思いました。
銃を持った蛇みたいな模様の人たちは、シャーラにはわからない言葉で話しています。
時々ちょっと変な発音でシャーラにもわかる言葉を言います。
「トマレ!」
「ヒザマヅケ!」
銃を向けられた人は言われたようにしています。
「いいか、余計なことを言ったりやったりするんじゃないぞ。」
お父さんはみんなに言いました。
シャーラは何が起こっているのかよくわかりませんでしたが、お父さんの声の感じで何か大変なことが起きているのはわかりました。
きっと、お父さんの言いつけに従っていないと危ないのだと思います。
「兵隊だ。」
とシジ兄ちゃんが言いました。
「しっ!」とお父さんがシジ兄ちゃんに言いました。
蛇みたいな模様のへいたいの人たちは、向こう側へ行く人の持ち物を調べているようでした。
やがて、シャーラたちの番がやってきました。
「ドコ、イク?」
「南の親戚の家へ。ビラを見たんで・・・。」
お父さんが答えましたが、へいたいの人は返事もせずに荷車の荷物の中に手を突っ込みました。
「生活道具や毛布ばかりですよ。」
お父さんが言いますが、へいたいの人は荷物の中をまさぐるのをやめません。
「コレハ、ナンダ?」
へいたいの人が持ち上げて見せたのは、マハド兄ちゃんの木の銃でした。