6 病院
マルラ姉ちゃんは足が痛くて速く歩けないので、お母さんがおんぶすることになりました。
「中央病院まで行って、マルラの足を診てもらおう。」
お父さんはそう言って、荷車を引っ張って歩きだしました。
後ろから押すのはおばあちゃんとシジ兄ちゃんです。
建物の破片があっちこっちに転がっているので、お父さんは時々荷車を止めて、それらを退けながらまた引っ張って歩きました。
マハド兄ちゃんもお父さんと一緒に破片を拾って、道の脇に除けています。
シャーラも手伝おうとしますが、小さなものしか持てません。
「シャーラはまだ無理だから。はぐれないようについてきなさい。それがシャーラの仕事だ。」
お父さんはそう言いました。
大変な時なのにお手伝いできないのが、シャーラはちょっと悔しいと思いました。
でも、ちゃんとお父さんの言うことを聞こう。
お父さんはいつも正しいことを教えてくれるのだから。
でも、今度ばかりはお父さんもちょっと間違えちゃったみたいです。
病院はひどい怪我をした人たちでいっぱいで
マルラ姉ちゃんはお医者さんに診てもらえませんでした。
お薬ももらえるかどうか分からない、ということでした。
「しかたがない。荷物を少し減らしてマルラを荷車に乗せよう。」
お父さんはそう言って、毛布と服をいくつか荷車から下ろすとどこかへ歩いて行きました。
しばらくすると、お父さんは水と食べ物を持って帰ってきました。
こくれんの人に怪我人用に毛布と服を渡す代わりに、水と食べ物に交換してもらってきたのだそうです。
マルラ姉ちゃんは、荷車の隅っこに腰掛けて、またシャーラの一家は南を目指して歩き始めました。
「ごめんなさい・・・。」
マルラ姉ちゃんが1人だけ車に乗っているのをすまなさそうに言いました。
「マルラはなんにも悪くない。」
お父さんは前を向いたままそう言いましたが、顔はなんだか怒っているみたいでした。
しばらく行くと、また空に火がいくつも飛んでいきました。
どおおおおおおおおんん!
どおおおおおおおおおんん!
どおおおおおおおおおんん!!
すぐ後ろの方でも大きな音が聞こえました。
みんな身をかがめてから、後ろをふり返りました。
「病院が・・・」
荷車に乗っていたマルラ姉ちゃんが、青い顔で指さします。
さっきまでシャーラたちがいた病院のあたりから、真っ黒な煙と灰色の煙が膨れ上がっていきます。
救急車がひっくり返っています。
「なんてことだ!」
「めちゃくちゃだ!」
大人の男の人たちが叫んでいます。
廊下にいっぱいいた怪我をした人たちやお医者さんたちはどうなったんだろう?
もし、もう少し出発が遅れていたら・・・
そう思ったら、シャーラは急に怖くなりました。
あの火を噴いて飛んでくるものは、どこにでも落ちてくる。
だって病院にまで落ちてくるんだもの。
「急いでマファまで逃げるぞ!」
お父さんがそう言って、荷車を引っ張りました。
シジ兄ちゃんとお母さんとおばあちゃんが、慌てて荷車の後ろを押します。
マハド兄ちゃんも歩き出しました。
シャーラも遅れないようについてゆきます。
壁の外の人は、どうしてこんなことをするんでしょう?