5 瓦礫の中
上も下も分からない中で、シャーラは目を開けました。
荷車が横倒しになって、荷物が散らばっていました。
シジ兄ちゃんは、シャーラと同じように地面に転んで、頭を抱えてダンゴムシみたいになっています。
おばあちゃんは、マハド兄ちゃんを抱えるようにして体を丸めてうずくまっていました。
音が聞こえません。
いえ、聞こえないのではなく、
きいいいいいいいいいいいいいんんんん・・・・
という音だけが聞こえています。
お母さんとマルラ姉ちゃんは、崩れた荷物の下から這い出してきました。
お父さんは頭の左側にケガをして血が出ていましたが、立ち上がりました。
まわりで大勢の大人の人が走り回っているのが見えました。
お父さんが口を大きく開けて、何か言っています。
でも、シャーラには何も聞こえません。
きいいいいいいいいいいいいいんんん・・・・・
お母さんもシャーラの方に駆け寄ってきて何かを言っています。
きいいいいいいいいいいいいいいいいんん・・・・
少しずつ、世界に音が戻ってきました。
あたりで怒鳴っている大人の男の人の声が聞こえてきました。
女の人でしょうか。叫ぶように泣いている声も聞こえてきました。
お母さんがシャーラの肩を持って、叫んでいるのが聞こえてきました。
「シャーラ! どこも怪我ない? 痛いとこはない?」
しばらく音が聞こえなくなったこと以外、どこも痛いところはなさそうです。
シャーラは、お母さんに一つうなずいて見せました。
お母さんは涙を浮かべています。
そういえば、シャーラの目からも涙がこぼれています。
別に何も悲しくないのに?
「おばあちゃんは? マハドは、大丈夫なの?」
お母さんは、おばあちゃんの方を見ました。
おばあちゃんは、耳に片手を当てています。
なんにも聞こえないみたいです。
マハド兄ちゃんは、おばあちゃんの下から起き上がって、首を縦にこくこくと振りました。
救急車のサイレンの音が聞こえます。
瓦礫の中から助け出された血だらけの男の子が運ばれてゆくのが見えました。
大人の男の人たちが、何か喚きながら手で建物の残骸を掘り起こしています。
「マルラが足を怪我したようだ。」
お父さんが近づいてきて、そう言いました。
マルラ姉ちゃんは、横倒しになった荷車のそばで足首を押さえて座っています。
「とにかく、荷車を起こそう。怪我していない者は手伝ってくれ。ああ、シャーラ。おまえはいい。おまえにはまだ無理だ。」
お父さんとお母さんとおばあちゃんとシジ兄ちゃんとマハド兄ちゃんが、力を合わせて、よいやしょ! と荷車を起こしました。
荷物を積み直すのは、みんなでやりました。
マルラ姉ちゃんも、足を引きずりながら軽いものを荷車に積むのを手伝いました。
シャーラも手伝おうと思いましたが、手にサラムとメイルを持っています。
これでは荷物を持つことができません。
でも、サラムとメイルを地面に置いておくと、走り回っている大人たちに踏んづけられるかもしれません。
その時、散らかった荷物の中からシャーラのスカーフを見つけました。
シャーラはいいことを思いつきました。
そのスカーフでサラムとメイルを包んで、自分の服にしばりつけたのです。
これで両手が空きます。
シャーラも荷物の積み込みを手伝いました。
「えらいね、シャーラ。」
とおばあちゃんが言ってくれました。
この頃になって、シャーラはようやく「怖い」という気持ちが出てきて、体がガタガタと震えだしました。