4 南への道
途中でエミリの家の前を通りました。
「シャーラ!」
「エミリ!」
「あ、わたしがあげた髪飾り。」
「うん。」
エミリのお父さんが、シャーラのお父さんに声をかけました。
「南へ行くんですか?」
「ええ、マファに兄がいますんでね。」
「そうですか。うちは南には親戚がいないんで、しばらくはここで様子見をするしかないです。」
「もし南に来るんでしたら、兄のホゼールの家を訪ねてください。私たちはそこにいます。私の立場じゃ一緒に住みましょうとまで言うことはできませんが、何かの助けくらいはできると思いますから。」
「ああ、ありがとうございます。」
「シャーラはいつ帰ってくるの?」
「わからない。でも帰ったらまた遊ぼうね!」
「うん!」
2人は約束をして別れました。
広い通りに出ると、いつもより大勢の人が歩いていました。
たいていの人は南に向かって歩いています。
もちろん反対方向に歩く人もいますが、南に向かって歩く人の方が多いのです。
「ねえ、ホゼールおじさんとこに行くの?」
シャーラはシジにいちゃんに尋ねてみました。
だって、お父さんは荷車を引いていますから、邪魔しちゃいけないと思ったんです。
「うん。そうだよ。」
「じゃあ、じゃあ、カナ姉ちゃんにも会える?」
「うん、会えると思うよ。」
シジ兄ちゃんはちょっと笑って見せましたが、なんだかその笑顔は少し悲しんでいるようにも見えました。
その時また、ごおおおおおおお! という音が空から聞こえました。
シャーラが見上げると、またたくさんの火が白い煙の尾を引いて空を飛んでいきます。
下からいくつもの火が昇って行って、そのうち3つが空を横切って飛んできた火と衝突して光って弾けました。
すぐに、どおおん! どおおん! どおおん! と3つの大きな音が聞こえました。
道路にいたみんなが、空を見上げたまま、さっと身をかがめて不安そうな顔をしました。
お父さんやお母さんやマルラ姉ちゃんやおばあちゃんも、同じように身をかがめたので、シャーラもマハド兄ちゃんもそれを真似しました。
どこかでまた、どおおおおん! どおおおん! という大きな音がいくつも鳴っています。
せっかくちょっと楽しい気分になってきていたシャーラは、また少し怖くなってきてしまいました。
黒い煙がいくつも上がるのが見えました。
どうなってしまうのでしょう? この街は・・・。
その時、今までとは違った音がすぐ近くで聞こえて、それから少し先の建物から強い光が見えました。
ぐわあああああああ!!
という音が聞こえて、ものすごい風が吹きました。
シャーラは思わず目をつむりました。
風と一緒に砂つぶや小石がシャーラの頬や腕に、ばちばちと当たりました。
あまりに強い風だったのでシャーラは立っていることができず、転んでしまいました。