11 空腹
シャーラたちはもう1週間も、夜はテントの中で寝ています。
マファの街には入れなかったのです。
おじさんたちにも会えませんでした。
ジドードという人にも会えませんでした。
テントは青い服を着た人たちが作ってくれたんだそうです。
シャーラたちの家族にも1つ割り当てられました。
水とパンが、少しだけ配られました。
お母さんとシジ兄ちゃんで、それをもらいに行きました。
家族5人が食べたら、すぐなくなってしまいます。
でも、食べるものや水はこの1週間で2回しか配ってもらえませんでした。
シャーラのおなかが、ぐうう、と鳴ります。
マハド兄ちゃんのおなかも、ぐうう、と鳴ります。
でも、シャーラは「おなか減った」とは言いません。
誰もちゃんと食べられない、ということがわかっているからです。
わがまま言っても、お母さんが困るだけだからです。
シャーラは、大好きなお母さんを困らせたくないのです。
ラザは壁に囲まれています。
食べるものは外から持ってくるしかないんだそうです。
でも、今はその門は閉じられていて、あの蛇みたいな模様の服を着た怖い人たちが通してくれないんだそうです。
もちろん、シャーラたちも通してもらえません。
誰も、ラザから外に出られないのです。
青い服を着た人たちは通れるそうですが、その人たちが持ってくる分だけではみんなの食べ物は全然足りないみたいなのです。
シャーラはそのうち頭がぼんやりして、しょっちゅう眠くなるようになりました。
そんなある日のことでした。
今、シャーラの家族の中ではいちばん年上の男の子であるシジ兄ちゃんが、テントに帰ってくると、ちょっとあたりを見回してからテントの中に入りました。
何か大きな袋を持っています。
「誰にも言うんじゃないぞ。」
そう言ってシジ兄ちゃんが袋を開けると・・・。
中にはどっさりと食べ物が入っていました。
「兄ちゃん、これ・・・」
マハド兄ちゃんが言いかけると、シジ兄ちゃんは指を口に当てて怖い顔をしました。
「言うな、って言っただろ?」
マハド兄ちゃんは、口を閉じて下を向きました。
「シジ、おまえ・・・」
とお母さんが言いました。
「どこから、これを・・・?」
「盗んだんじゃない。たくさん有るところからもらってきたんだ。」
それからシジ兄ちゃんは、みんなにパンを1つずつと缶詰を配りました。
「俺は家族の中で一番年長の男だからな。」
それから袋を毛布の下に隠しました。
「家族以外の誰にも見られるな。次は1週間後だ。」
シャーラはシジ兄ちゃんの言っていることが半分くらいわかりませんでしたが、それでもパンもバターも缶詰もあるなんて、本当に久しぶりでした。
きっとシジ兄ちゃんは、家族のためにどこかで働いてきてくれたんじゃないかしら。
いなくなってしまったお父さんの代わりに・・・。
「シジ兄ひゃん、あいがとう。」
シャーラが口の中にパンを入れたままで言うと、シジ兄ちゃんは少し笑顔を見せました。
翌日から、シジ兄ちゃんはテントに帰って来なくなりました。




