10 おばあさんの家
シャーラたちに声をかけたのは、年をとったおばあさんでした。
「うちにおいでよ。半分壊れてるけどね。ベッドも毛布もあるよ。お母さんと子ども4人だけかい?」
お母さんが小さく頭を下げると、おばあさんは手招きしました。
「小さい子たち、おなかは減ってないかい? たくさんはないけど、食べるものはあるよ。年寄り1人だと寂しくてねぇ。」
おばあさんが案内してくれたのは、さっきみんなで身を寄せ合っていた場所の反対側にある家でした。
窓ガラスが全部割れていましたが、ビニールなんかでだいたい塞いであったので、外ほど寒くはありませんでした。
電気は来ていないので、ロウソクが1つ灯されていました。
「さあ、子どもたちはこのベッドをお使い。お母さんはソファでいいわね? 毛布はあるよ。」
「おばあさんはどうするの?」
とマルラ姉ちゃんが聞きます。
「わたしゃ安楽椅子があるから大丈夫だよ。あんたたちは、明日もまた南へ歩くんだろ? 息子たち家族も南へ向かったよ。」
「おばあさんは行かないんですか?」
お母さんが聞くと、おばあさんはにっこり笑って言いました。
「わたしゃ年だからね。遠くまで歩きたくないし、この場所で死にたいんだよ。」
ぐううぅっ、とシャーラのおなかが鳴りました。
「ああ、そうだね。おなか減ってるんだね? パンとチーズもあるからお食べ。たくさんはないんだけどね。」
「おばあさんの分は大丈夫なんですか?」
お母さんが心配して聞きます。
「明日また配給分を持ってきてくれる人がいるから。さあ、みんな、ゆっくりおやすみ。」
子どもたちみんなでおばあさんのベッドに入って、1枚の毛布に包まりました。
また怖い夢を見たらどうしよう・・・。
シャーラは少し眠るのが怖くて、しばらく目を開けて窓の外の星を眺めていました。
星は夜空の穴なのかな?
穴から昼間の光が漏れてるんだろうか・・・。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったようです。
今度は夢を見ませんでした。
気がついたら、窓の外も部屋の中も明るくなっていました。
いい匂いがします。
お母さんのいつもの料理の匂いです。
あ・・・・
全部、怖い夢だったのかな?
そう思って起き上がってみると、そこはやっぱりおばあさんの家で、シジ兄ちゃんとマハド兄ちゃんと一緒のベッドの上にシャーラはいました。
マルラ姉ちゃんはお母さんを手伝っています。
「わるいねぇ。全部やってもらっちゃって。」
おばあさんが食卓の椅子に座って、お母さんに言いました。
「いいんですよ。わたしたちこそ、泊めてもらってご飯までいただいちゃって。これくらいしなきゃ、申し訳ないですわ。」
「なんだか、新しい家族ができたみたいで嬉しいねぇ。」
みんなで食卓を囲んで、食事前のお祈りをしました。
もうあの怖い火は飛んできませんように。
お父さんやおばあちゃんにまた会えますように。
シャーラは心を込めて一生懸命お祈りしました。
「本当にいろいろお世話になりました。」
お母さんはおばあさんに何度も頭を下げました。
「これも持っておいき。」
おばあさんは袋に入ったパンをマルラ姉ちゃんに渡しました。
「そんな。・・・そこまで・・・」
お母さんは遠慮しましたが、おばあさんはまた笑顔になります。
「いやいや、私も1晩楽しかったからね。困った時はお互い様だよ。子どもの足じゃ、マファまで行くにはまる1日では無理かもしれんよ。食べ物も・・・そうだ、そうだ、水もいるよね。」
おばあさんは思い出したように、部屋の隅の箱からペットボトルを2本出して、シジ兄ちゃんに渡しました。
「途中に給水所があったら、水を足すんだよ。」
「向こうに着いたら、ジドードという人を探しなさい。嬢ちゃんくらいの子どもを連れてる4人家族だよ。わたしの息子さね。何か力になってくれるはずだから。」
そう言って、おばあさんは手首にはめていたビーズの腕輪の1つを外してシャーラにはめてくれました。
「これを見せるんだよ。メイヤ婆さんに聞いたって言ってね。」
お母さんは何度も頭を下げてメイヤおばあさんにお礼を言って、シャーラたちはまた南に向かって歩き出しました。
なんだかみんな、昨日より少し元気になっていました。
マルラ姉ちゃんはまだ足を引きずっていますが、昨日よりは少し早く歩けるようでした。
でも・・・・
今日もやっぱり、空には怖い火が飛んでいます。
あっちこっちから
どおおおおおんん!
どおおおおおんん!!
という音が聞こえてきます。
こっちに来ないといいけど・・・
そう思いながら、シャーラは一生懸命歩きました。




