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幼馴染が元婚約者の出戻り修道女を迎えに来ました  作者: 田鶴


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50.内気な白馬の王子様

 次の神託節が来る直前にゴットフリートはアントニアを聖グィネヴィア修道院まで迎えに行った。


 修道院の門前で待つアントニアを見つけた途端、ゴットフリートの胸は狂おしい程バクバクし始めた。馬車を下りて彼女を目の前にすると、胸の鼓動はもう制御できなくなり、頭に血が上って訳が分からなくなってしまった。


「ア、アントニアさん! む、迎えに、参りましたぁっ!」


 ゴットフリートは、緊張してお互いに呼び捨てにしようと約束した事を忘れてしまった。それに声が上ずってしまって思ったよりも馬鹿でかい声を出してしまい、見送りに来たアリツィアが懸命に笑いをこらえるのが目の端に入った。見送りの孤児院の子供達が残酷にも遠慮なくギャハハと笑う声も聞こえ、愛する女性に恰好の悪い姿を見せてしまって気の利いた言葉をかけられなかったとゴットフリートは落ち込んだ。


 アントニアに挨拶されてようやく我に返り、ゴットフリートはからくり人形のようにギクシャクとした動きでアントニアの手を取ってなんとか馬車に乗り込んだ。以前ならまだ婚約中の2人が密室に2人きりにならないようにしただろうが、これからすぐに結婚する以上、馬車に2人きりで乗ってももう問題はない。


 馬車の中でゴットフリートとアントニアは、しばらく赤面して俯くまま何も話せなかったが、ゴットフリートは勇気を振り絞ってアントニアに話しかけた。


「ア、アントニアさん……君と、け、け、結婚できることに、なって……嬉しい……」

「わ、私もです……」

「あの、と、隣に座っても?」

「もちろん、です……」


 アントニアの返事を聞いて、ゴットフリートは走る馬車の中で慌てて立ち上がってぐらつき、頭を天井に打ちつけた。


「痛っ!」

「ゴットフリート様! 大丈夫ですか?!」

「だ、大丈夫です」


 また恰好の悪い所を見せてしまい、ゴットフリートは落ち込んだ。


「恰好悪いですよね……」

「いえ、ゴットフリート様は、その、あの……素敵ですわ」

「えっ?!」


 ゴットフリートは隣のアントニアの方に向き直り、驚きのあまり――いや、どさくさに紛れてかもしれない――ガバッと彼女の手を握った。


「「あっ!」」

「あのっ、こ、これは、その、わざとでは……」

「いえ、う、嬉しいですわ……」

「ほ、本当にっ?!」


 ゴットフリートの声は上ずり、ずいっとアントニアに迫った。その途端、馬車が大きく揺れ、ゴットフリートの身体が傾き、唇がアントニアの口にガツンと当たった。


「あああっ、す、すみません!」

「い、いえ……大丈夫です……」

「ほ、ほ、本当に?! は、歯、折れてない?!」

「このぐらい、大したことありませんから」


 走る馬車の中で2人の視線が合い、赤面したゴットフリートの顔が次第に近づいてきたような気がしてアントニアは目を閉じた。でもいつまで経っても唇に何も触れないので、アントニアは仕方なく目を開けた。ところが目の前にゴットフリートの顔があって驚いてまた目を閉じると、唇に柔らかな感触をほんの一瞬感じた。


 あまりに早くゴットフリートの唇が離れていってしまったので、アントニアは残念な気持ちが込み上げてきて思わず声を上げてしまったが、ゴットフリートはそれを抗議の意味に捉えた。


「あっ……」

「ああああ……す、すみません! つ、つい……い、嫌でしたよね?!」

「いいえ……そんな訳ありませんわ」

「ほ、本当に?!」


 その後、2人は赤面したまま、その日の宿に着くまでずっと手を握り合い、翌日も王都郊外のノスティツ家に到着するまで手を繋いだまま馬車に乗っていた。

やっとタイトルの話となりました。ただ、正確に言えばアントニアはゴットフリートが迎えに来た時点で「出戻り元修道女見習い」なんですよね。でも、それだと語呂が悪いので、タイトルでは「出戻り修道女」としました。

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