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36.神託節

 アントニアがゾフィー経由でラルフに返事を送ってから数ヶ月後、神託節があと1ヶ月に迫った。


 普段は厳しい男子禁制を課している聖グィネヴィア修道院も、この時ばかりは男女を問わず、自力で神託節を祝えない人々や大口寄付をしてくれた人々を迎え入れる。ただし、訪問者は礼拝堂とその横の建物にある食堂以外、立ち入ることはできない。礼拝堂の建物の中には図書室と聖器室もあるが、これらの部屋は狭く、貴重品が収容されているので、修道院は寄付をしてくれた人々だけを案内する。


 アントニアは他の修道女見習い達や保護された女性達と共に、ここ数週間ひたすら人々に渡す衣類やリネン類を縫っていた。裁縫初心者のアントニアにはシャツやズボンは複雑すぎるので、リネン類やスカート、エプロンを主に縫っている。


 元々、アントニアは刺繍しかできなかったが、裁縫が得意なアリツィアに習って頑張って習得した。教会で衣類を受け取る人々、特に女性や子供は美しい刺繍のある服を喜ぶものの、数が足りないと喧嘩が勃発するし、彼らは装飾のある1着をもらうよりは質素でも2着もらえるほうが生活に役立ってありがたいのだ。


 粛々と準備が進み、いよいよ神託節がやって来た。アントニアは受付の手伝いをすることになっている。


 訪問者は正門にある受付で名乗った上でバッジを胸に付ける。施しを受ける人は赤色、大口寄付をした人は青色のバッジを受け取る。寄付者用の受付に来た訪問者が名乗ると、アントニアは名簿と照合し、青色バッジを渡す。それ以外の訪問者は隣の受付で赤色バッジを受け取る。


 アントニアは受付で紳士に青色バッジを渡し、彼のすぐ後ろに立って順番を待っていた夫婦に名前を聞いた。


「ラルフ・フォン・コーブルクとゾフィー・フォン・コーブルクです」

「はい、コーブルクご夫妻ですね……あ?!……え、申し訳ありません!」


 名簿を見るために俯いていたアントニアは、名前を聞いた途端に驚愕して顔を上げた。最後に会った時まだやんちゃな少年だったラルフは、見違える程立派な高位貴族の紳士になり、美しい妻を伴っていた。


「アントニア、いやシスターアントニアか。久しぶりだね。彼女は手紙を送ってくれた妻ゾフィーだよ」

「コーブルク卿、お久しぶりです。コーブルク夫人、初めまして。アントニアです。まだ見習いですので、アントニアと呼んでくださって結構です」

「昔のようにラルフって呼んで。妻のことも是非ゾフィーと」

「いえ、そんな訳には……」

「幼馴染じゃないか。それに義きょうだいになるかもしれないし」

「義きょっ……! な、何おっしゃってるんですか?!」


 アントニアは断った筈の縁談を思い出して赤面した。


「兄上も来るはずなんだけどな。兄上の名前でも寄付しておいたんだ」

「え、ゴットフリート様もいらっしゃるのですか?!」

「フフフ……兄上のことは言わなくても名前呼びなんだね」

「あっ、えっ、も、申し訳ありません!」

「冗談だよ。兄上が来たらゴットフリートって昔みたいに呼んであげて」


 次の訪問者が受付に来たので、ラルフとゾフィーは後ろ髪を引かれながらも受付から離れ、別の修道女の案内で礼拝堂へ向かった。2人の姿が礼拝堂の中へ消えた途端、隣の受付の修道女見習いがワクワクした様子でアントニアに話しかけてきた。彼女の質問はしつこく、野次馬根性丸出しでアントニアは辟易した。


「ねえ、あの方達、コーブルク公爵家の方なの? どんな知り合いなの?」

「ただの幼馴染よ」

「本当に? あの方のお兄様と貴女、結婚する予定なんでしょう?! いいなぁ。私、先週からここにいるけど、もう沢山! 私も素敵な紳士に見初められてこんな所から早く出たいわ!」

「け、結婚なんてしないわよ」

「そうなの? 義きょうだいになるっておっしゃってたじゃない?」

「き、聞き間違いよ。ほら、訪問者が来たわ。バッジ渡さなきゃ」


 ちょうどいい所で訪問者の一団がやってきたので、アントニアはそれ以上の追求を逃れることができた。だが、本当にゴットフリートが来たら、この修道女は根掘り葉掘り色々な事を聞くだろう。そう思うだけでアントニアは頭が痛くなった。

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