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18.親心

 ペーターの両親は、息子がアントニアの住む別荘を都度都度訪れるのをよく思わなかった。ペーターが初夜の儀でアルブレヒトの命令を受けてアントニアの身体を慣らしたことも、本邸の使用人達がペーターとアントニアのことを噂しているのも耳に入っていて気を揉んでいた。


 その日、ペーターが別荘にやって来たのが見え、両親は慌てて家の外に出た。そしてペーターが馬車を降りるのを待ちかまえてすぐに話しかけた。


「ペーター、また来たのか」

「父さん、母さん、こんな所までわざわざ出迎えてどうしたの? 息子が親に会いに来たのが嬉しい?」

「嘘言え。私達が王都にいた時は、休暇の時だって来なかったじゃないか。奥様に会いに来てるんだろう? そうしょっちゅう来ると、旦那様に不義密通を疑われるぞ」

「そんなことで旦那様が疑われるなら、俺がアントニア様の慰問旅行に2人きりでお供することをお許しにならなかったはずだよ」

「何…?! お前が奥様に接近するのを旦那様は承知されているって言うのか?!」

「ああ、そうだよ。()()()()()()()()()、褒美に愛撫してもいいとまで言われた」


 息子の赤裸々な告白に両親は目を白黒させて言葉に詰まった。


「あ、あい……ぶ?! は、は……破廉恥な! なななな……何言ってるんだ?! 奥様はお前の妻じゃない、旦那様の奥方なんだぞ!」

「ま、まさか、初夜の儀の後も……奥様にまた()()()()()()をしたの?」

「親に自分のしも事情まで話したくないよ。それじゃ、夕方には旦那様の所に戻っていないといけないから、アントニア様の所へ行くね」

「お、おい、話はまだ終わってないぞ!」


 両親が呼び止めるのを無視してペーターはアントニアの私室へ向かった。


 息子の頑なな態度にペーターの両親は心を決めた。ペーターが本邸に帰るのを今か今かと手ぐすねを引いて待ち、彼の馬車が別荘を出たのを確認してすぐにアントニアの部屋へ向かった。


「奥様……こんな事をお願いするのは、大変失礼かと思うのですが……」


 言いにくそうにしているペーターの両親を見て、アントニアは彼の予想通りだと驚いた。


「ペーターと距離を取っていただけませんか。息子はあの歳まで女性とお付き合いしたことがありません。このままでは奥様への想いがどんどん募ってしまいます」


 ペーターはアルブレヒトの2歳下の30歳だが、女性使用人達にもてる割に奥手で経験は娼館でしかない。ただ、もちろんそんなことはアントニアは知らない。


「大袈裟よ。でも確かにペーターに色々依存していたことは認めるわ。本邸では使用人達が私に辛く当たって……優しくしてくれるペーターをつい頼ってしまったの」


 アントニアは、独りきりになるのが怖くてペーターの親切を断ち切れずにきた。でもこのままでは、辺境伯家で勤めている彼の両親の立場が悪くなる。彼らの気持ちも理解できた。


「……分かったわ。もう頼るのは止める。だから協力してくれる?」

「協力とは?」

「あなた達の力で使用人達の私への態度を改めさせて欲しいの。閣下は改善させる気がないし、私の言う事を使用人達が聞く訳もないから」

「旦那様がしない事を私達にできるはずがありません。それに私達はタウンハウスの勤務ですので、カントリーハウスの使用人達には権限が及びません」

「でもあなた達は長年我が家に仕えてくれているわよね。カントリーハウスにもペーター以外に伝手はあるでしょう?」

「そ、そうですね……でも旦那様のお怒りを買うのでは……?」

「使用人達が私を冷遇するのは、閣下が命令したからなの? 私は王命で嫁いで来たのに? 違うでしょう? 単に閣下とジルケさんに忖度しているか、ジルケさんの指図よね?」

「あ、いえ……」

「私だって1年以上意地悪してきた使用人達と今更仲良くしようなんて思わないわ。ただ閣下の怒りを買わない程度に普通の態度で仕えてくれればいいのよ」

「申し訳ありません。ペーターなら旦那様の怒りを買わない範囲で使用人達を諫められたでしょうに」

「仕方ないわよ。使用人の管理は彼の管轄じゃないから」


 ペーターはアントニアに優しくしてくれても使用人達の態度を何とか改善させようとはしなかった。孤独になれば、唯一優しくしてくれる人間に頼りたくなるのが人情だ。アントニアは今更ながらその事に気付き、愕然とした。

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