06 ゴブリン
木陰や木の上からぞろぞろと集まって来る身長1mほどの小鬼たち。体にジャラジャラと思い思いの不気味な装飾品を身に着けた彼らのその手には、どこから拾ってきたのかその身体には不釣り合いに大きい剣や斧、ハンマーなどをぶら下げている
その数は20,30と次第に増えていき、ついには出てきた岩を背にしたケイとフィーを幾重にも取り囲んだ。
「もしもしフィーさんや、こいつらは一体?」
まだ体がだるいのかうつぶせに寝転がったまま、崩れた岩の壁の縁に顎だけを乗せてあたりを見ていたケイは横に座っているフィーに目だけを向けて話しかける。
「あぁあいつらはゴブリンじゃ、大した知能はないが魔獣の中では珍しく道具を使う、見てみろ剣や斧を持っておるじゃろ。まぁ自分たちで作る知恵はないから人間から奪ってくるか木の棍棒を使うかじゃがな、だからあんな体に合わない大きなものを持っておる」
フィーはつらつらと語る
その間にもじりじりとゴブリンたちが近づいてきていた。近くで見るとそのゴブリンの異様さがよくわかる
生物のものとは思えない濃い緑色の肌、醜く折れ曲がった背中に大きく膨らんだ腹、骨にそのまま皮が張り付いたようなた細長い四肢、にもかかわらず自分の身長もある武器を軽々と振り回している。大きく鋭く飛び出た耳や鼻、広く裂けた口から覗く鋭い牙に長い舌、ぎょろっと飛び出た目は血走り今にも襲い掛かってきそうな様子である
「へーこいつらが、普通に怖いな、なんか見たことない生き物を見ると一気に異世界に来たって感じするな、てか数多すぎない?軽く100匹はいるぞ、まだまだ集まってきてるし」
「ふむ確かに多いな、普通こいつらの群れは多くてもせいぜい20匹ほどじゃ、それがこんなに集まってるとなると、、、ふむ、、こいつら人間狩りでもしてきたか」
「あん、人間狩り?物騒だな、なんでわかるんだ?」
ケイが首だけをフィーの方に向け尋ねる
「あいつらの持っている武器を見てみろ。ほとんどが人間の作った武器を持っておるじゃろ。奴らは人間の武器を奪うといっても全員が持てるわけじゃない、ふつうは群れの中で半分も持っていれば多い方じゃ、それがどうじゃほぼ全員が人間の武器を持っておる。どこかの村を襲ってきたか、人間の部隊とやりあったか、詳しいことはわからんが。ま、そんなとこじゃろ」
「ふーん、なるほどな。それはよくわかったんだがいい加減逃げるかなんかした方がよさそうだぞ、」
そう言ってケイはやっと重い腰を上げて立ち上る
目の前にはもう5mほど前までゴブリンたちの群れが近づいてきていた、引きずっていた剣も振り上げて今にも襲い掛かってきそうな様子だ
「それもそうじゃな、とりあえず逃げるとするかの。 よし、目の前開けるから一気に駆け抜けろ」
そう言うとフィーは伸びをしていたケイの肩に飛び乗る、そうしてこちらが動き出したことで一瞬動きの留まったゴブリンたちの頭上に巨大な魔方陣を編み始めた
「開けるって魔法かよ。てかお前神じゃなかったの?なんか神の威光でこいつらを退かせるとかそんなんじゃないのかよ」
「うるさいわい、そんなもんこいつらには通用せんわ、それよりも目と耳ふさいどけよ、やられるぞ」 「え」
《ステロテス》
フィーが言い終わるや否や、魔方陣から強烈な光が放たれる、と同時に地面を揺らすような轟音が響き渡った
「うおあぁぁあぁあ、目がぁ、目がぁああぁ」
ケイは両手で目を抑えるとどこかの大佐のように体をのけぞらせる
「はぁ、なにしとるんじゃお前は、早よいかんか、」
フィーは尻尾でぺシぺシとケイの頭をたたきながらあきれたように言う
「えー、一応約束かなって思ったんだけど、てか全然間に合わなかったんだが、普通にまぶしかったわ」
そう言ってケイはケロっと姿勢を戻すと周りを見渡す、目に映るのは音や光にやられたのかぴくぴくと痙攣したように仰向けにひっくり返っているゴブリンたちだった。目の前には絨毯のように倒れたゴブリンたちの体が広がっている。
「おーおー壮観だなこりゃ、さすがフィー、俺もできるんかこれ?」
「ん、そうじゃな、それよりも速く走れ、もう後ろから来てるぞ」
そう言われて振り向くと、岩の上や横からもう回復したのかゴブリンたちがわらわらと飛び出してくる、さっきの攻撃で確実にこちらを敵と認識したのか目はさらに血走り、手に持っているナイフや木の枝なんかが飛んできていた
「あぶね、やばいな行くか」
ケイは飛んできたナイフを首を傾けて避けると、目の前のちらほら意識が戻り始めているゴブリンの隙間を縫うように全速力で走りだした
フィーは当然のようにケイの肩に座っている
後ろからはゴブリンたちが親の仇を取るかのように追いかけてきていた
走り始めて早数分、ケイとフィーはいまだにゴブリンたちに追いかけられていた。
「おい、ハァハァ
奴らしつこすぎないか、もうだいぶ走ってるぞ、ハァハァ」
ケイはフィーを肩に乗せながらもずっと森の中を走り続けていた、ケイの身体はもう限界に近いのか楽々飛び越えていた木の根っこもつまずいて姿勢を崩すことが増えてきていた
一方のフィーはというと走るケイの肩の上でどのようにバランスをとっているのかわからないが、キチっと座りながら後ろからゴブリンが投げてくる石や木の枝の方向を右だの左だのケイにのんきに教えていた
「次は右じゃ、おい、もっとちゃっちゃか走らんか追いつかれるぞ」
「てめぇ自分は走ってないからって文句ばっかり言いやがってちょっとは自分で走れ、
てかあいつらどうにかしてくれよさすがに俺ももう限界だぞ」
ケイは後ろから飛んできた石を右に飛んで避ける、お互い文句を言いあいながらもこの数十分のうちに二人の呼吸はあってきていた
「なんだお前はもうへばったのか、そんなすぐにわしに頼るんじゃないわ、お前もちょっとは頭を使え頭を、さっきみたいに脚でも身体強化すればよいじゃろがちょっとは楽になるじゃろ」
「それはやってるんだよ、ただ走りながらだと難しすぎるんだってさっきから何回も転びかけてるし」
そういいながらケイはもう一度魔法を使おうと足に意識を向ける、走りながらの素早く動かしている足に向かって適切な力を入れるのが難しいのか足をかけた木の根が粉砕し、またバランスを崩していた
「ほらすぐバランスが崩れるんだよ、難しすぎないか、これ」
「あほか魔法を使って走るときは飛ぶように走るんじゃ、普通に走るときのペースで交互の足の魔力操作なんてそう簡単にできるわけないじゃろうが、一歩ずつジャンプするように歩幅を広げて走るんじゃよ」
「、、なるほど!?そういう大事なことは先に言いやがれ」
ケイはそういうと今度はだんだん歩幅を広げて飛ぶように走りだす、途中から魔力を籠め始めそのストロークが3m、5mとどんどん広がっていく。それに応じてスピードもぐんぐん上がっていった。それに従って追ってきていたゴブリンの群れも遠ざかっていく
「全然楽だ、なんだこれ、おいもっと早くいってくれよ」
「いやこんなすぐにできるようになるとは思ってなかったんじゃが、まあいいわい今のうちに一気に撒くんじゃ目の前に高い木が見えるじゃろ、あの上に登ってやり過ごすぞ」
そういわれたケイが前を見ると木々の間から一本異様に高い巨大な大木が見えた、都会にそびえたつビルのように太く高くそびえたっている
「りょーかい、頑張るのは俺だけだけどな!」
そう言うとケイはさらにスピードを上げた、ぐんぐんとゴブリンとの距離が離れていく。そのまま目当ての大木のそばまで行くと今度は枝から枝へサルのように飛び移りながら登っていく、そうしてするすると木の中腹まで登ってしまった。
「よしこんなもんだろ」
ケイは登るのをやめるとそのまま木の幹へ背中を預ける、さすがに疲れたのか片膝を立て肩で息をしていた。ケイが腰を下ろした木の枝は太く人が余裕で寝転がれそうなほどだった
フィーはそのケイの肩からピョンと飛び降りると地面を見下ろす、下の方では2,3匹のゴブリンがきょろきょろとあたりを見渡していた。木の上に登ったところは見えていなかったのか上を見上げるそぶりは見せない。
「よし、やっと撒けたな。ホレさすがに疲れたじゃろこれでも食って元気出せ」
そういうとフィーはどこから取り出したのかその長い尻尾でつかんでいた青い果実をケイの方に放り投げた
「お、サンキュー、リンゴかこれ?いつの間にとってたんだよ」
ケイはそれを右手で受け取るといつの間にか左手に握っていた鞘のない抜き身の短剣を木の幹に突き刺し固定した
「ん、お前が走ってる途中になってたじゃろうが気づかなかったのか、それよりお前もその剣はどうしたんじゃ、いつの間に拾ってたんじゃ」
フィーは答えながらまたどこからか取り出した自分の分のリンゴをかじり始めた。
短剣はケイが走っている間もずっと左腕に握られていたがフィーはずっと後ろを気にしていたのかそれには気づいていなかった。
「ん、これか?最初にゴブリンたちの横をすり抜けるときにちょっとパクっといた、さすがに無手は不安だったから拾っといたんだ。まぁ俺こういう剣の使い方なんて知らないからあれだけど、まぁないよりはいいだろ」
ケイは暢気にそう答えながら受け取ったリンゴを着ている服でさっと磨くと皮ごとかじる「お、意外と甘い」
「はぁお前も大概じゃな、ん?その剣ちょっと見してみろ」
そういわれてケイは刺していた剣を引き抜くと刃の方をつかんで柄の方をフィーに向ける
フィーはその剣の鍔の部分をじろじろと眺めた
「この紋章は確かアクレスの、、ふむ近くに人間の部隊がまだいるかもしれんぞ」
「お、まじ、でもゴブリンに全員やられたんじゃないの?だからあんなにいっぱい武器持ってたんじゃなかったっけ?」
そう言いながらケイはリンゴを種ギリギリまできれいに食べ進める
「あいつらが襲ったのは村かなんかじゃろうよ、わしの記憶が正しければこの紋章はアクレス王国正規軍のものじゃ、一国の正規軍がゴブリンごときにやられるわけがなかろう、これは斥候か何かが持っていたものじゃろ、近くに本軍がいるはずじゃ」
「いいねぇ、で、それはどっちにいるんだ?」
ケイは食べ終わったのかきれいに種と芯だけになったリンゴを指先でくるくるといじりながら答える
「まあ正確な方向はわからんが方角的に言うと北の方じゃろうな」
「フーンそれってどっちだ?」
そういわれてフィーは今二人が走ってきた方を尻尾で指し示した
「あっちじゃな」
「おいおい逆じゃねえか」
今まで走ってきたのが無駄だとわかったのかケイはガクッと首を落とした。
そして、その拍子に手から離れたリンゴの芯がまだ真下をうろついていたゴブリンの頭にぽこんと当たった