05 脱出
「はい??」
ケイは訳が分からないというようにそう返事をする
「そっちの壁はまだ薄いはずじゃ、それとしっかりマナを制御しないとケガするぞ、まぁその身体だとすぐ治るだろうが、、」
ケイの疑問を知ってか知らずかフィーは尻尾で自分のいる壁とは反対側の壁を尻尾で指示しながら答える
「えーー、いやだからドユコト?」
「あ、?だから壁を壊すのに魔法が使えないんだから殴るしかないじゃろ、そのためにお前に力の出し方を教えたんじゃからな」
フィーはやれやれと当たり前のようにそうケイに話す
「うそーん、もっとこう、なんか特別な魔法でドカーンとかそういうのはないの?」
「うるさいわい、さっさとやれい」
そう言うとフィーは再び毛づくろいを始めた
(全くさすがにマナを渡しすぎたわい、ちと疲れた、、)そうフィーは心の中で独り言ちる
その姿を尻目にケイはこれ以上何を言っても意味はないと思ったのかあきらめたようにため息をつくと壁のほうに歩きだした。壁の前まで来るとケイはふるふると頭を振りスイッチを入れなおすようにフゥっと息を吐く、そうして右足を引いて中腰に構えた
(えーっと確か体内のマナを腕に集めるだったか、うん?、さっきより動いてるマナが少ないな。ま、いいかとりあえず一発、、)
ケイは石をつぶした時と同じように腕に、右拳を握り込みながら右手にマナを集めるように意識する、そのまま左手を壁に伸ばし距離を測る
ケイはそのまま右手を脇腹あたりまで引いて、、
思いっきり突き出した
ドゴーンという大きな音とともに壁に1mほどのヒビが円状に広がる、一方のケイはというと壁を殴ったその反動でフィーのいる反対の壁まで吹き飛んでいた、頭から壁に当たったのか頭の後ろの壁にも小さいもののヒビが走っている
「はぁお前は何をしておるんじゃ まったく」
ケイが吹き飛んでくる直前悪い予感がしたのかしれっとその場所から離れていたフィーがさして心配もしていなそうにケイに尋ねる
「痛ってー何が起きたんだ」
砂煙の中ケイは頭を押さえながらむくりと体を起こす、壁にぶつかり血を流しているように見えた後頭部はもう傷一つついていなかった
「お前腕にしか魔力を込めていなかったじゃろ、何もしてない足の踏ん張りが足らないのは当然じゃろが」
フィーはさも当たり前のようにそう言う
「、、なるほどー確かにそうだな、そんぐらい先言えよお前」
ケイは少し考えると納得したように返事をした
「そのぐらい自分で考えんかお前は、そんなんじゃこの世界で生きていけんぞ」
「えーこの世界そんな殺伐としてんの?異世界って言ったらチート魔法でのんびり田舎暮らしじゃなかったのか」
そう言いながらケイは立ち上がりお尻の砂埃を払うともう一度壁の前に立った
「お前は異世界に何を期待しとるんじゃ、まぁチートというのはあながち間違いじゃないと思うが、、、」
そんなフィーの話は耳に入ってはいないのかケイはもう一度中腰に構えた
(えーっと魔力を体全体にいきわたるようにっと、ん?)
「おい、フィーお前にもらったマナがなくなったぞ、もっかいくれ」
「なんじゃお前さっきどんだけ込めたんじゃ、かなりの量を渡したはずじゃぞ」
「わからん、とりあえず右腕に出来るだけ魔力を集めたからな」
フィーはやれやれとため息をつくと答える
「全く、そしたら一度深呼吸して自分の体の中に意識を向けてみろ、さっきは感覚をつかめさせるために強制的にマナを流したがその身体にはそもそも大量の魔力が蓄えられておるはずじゃ。それを使え、やり方はさっきと同じじゃ間隔はつかんでいるはずじゃから感じ取れるはずじゃぞ」
「なんだよケチくさいな、てかマナとか魔力とか言ってるけどなんか違うのかそれは?」
「む、マナは生物の肉体に入ることでその身体特有の変化をするんじゃ、それを魔力と呼んでおる。マナはこの世界にとって絶対的な存在じゃが魔力は肉体固有のものじゃよ。まあいいからさっさと壊さんか、埃で空気が悪くなって来とるわ」
「なるほど、次から次に知らない知識が出てくるなこりゃ」
聞いておきながら理解するのはあきらめたのかケイはやれやれと首を振ると壁に向き直った
(全くそんなに言うなら自分がやればいいじゃねえか、えっと体内にマナがあるんだったか
ケイは自分の身体特にお腹の方に意識を向ける、するとさっきは気が付かなかったが腹の中を球面状に何かを包むようにうごめいている、魔力の塊があることに気付く、
大量の魔力ってこれか、しかし魔力って体内にこんな風にあるのか、変な感じだな。それにフィーからもらったのとは違う、手になじむような感じだ)
ケイはさっきの反省を生かすように今度は身体全身に魔力を流していく、さっきよりもスムーズに、意識するだけで全身を魔力で満たすことができた
(ふむ、あの体のおかげかそれともあやつに才能があるのかこんなにも早く魔力を制御できるとはな)
フィーは片目でケイの身体を流れる魔力を見ながら独り言ちる
(これはいい拾い物をしたかもしれんぞ、兄さまには感謝じゃな)
フィーのそんな考えをよそにケイはさらに力の入る右手と踏ん張る右足に重点的に魔力を籠める
そうして再び右手を突き出した
ドゴン、鈍い音がすると先ほどよりも深くひびが入っているのがわかる、今度はケイの身体は吹き飛んではいなかった、しっかりと両足が地面に食い込んでいる。
「なるほど、こんな感じか。もう少し右手に注いでも大丈夫だな」
ケイは独り言を何度もつぶやきながら、何度もこぶしを壁につきだす。だんだん魔力の制御に慣れてきたのか最初よりも洗練された動きとなり、壁のヒビは亀裂となりさらに細かく深く入っていく
「いいぞーがんばれ。もう少しじゃ」
そんなケイにフィーは寝転がりながらちゃちゃを入れる
「お前は寝てるだけで楽でいいな この野郎」
ケイもフィーのからかいにこたえる余裕が出てきたのか、今度は体の向きを変え左手も使いながら壁を殴り壊していく。
壁のヒビもさらに天井の方まで広がり割れた壁がゴロゴロと足元に落ちてきていた
と、その時ひびが外につながったのか薄暗い石室にうっすらと光の線が落ちてくる
「よーし、あと少し」
そう言うと今度は左右交互に連打で壁を殴っていく。ヒビがどんどん広がっていき落ちてくる光の線が増えてくる
「っしゃー ラスト―― 」
ケイは最後に大きな声で気合を入れるとぐるりと体を回し思いっきり回し蹴りを壁に突き刺した
魔力を込めた渾身の蹴りは壁を崩すどころか吹き飛ばし目の前の壁に大穴があく
「おーーし、ぶち壊したぞこの野郎」
ケイは両手を挙げてその場に倒れこんだ
「クックック、本当に壁を壊せるとはな」
「お前が壊せって言ったんだろうが、こんなに大変だとは思はなかったぞコノヤロー」
ケイは立ち上がりこっちに近づいてくるフィーにこたえる
「しかしこんな短時間で壊せるとは思わなかったわ、あと2,3時間はかかると思ったんじゃがの」
フィーは話しながらケイのいまだに上下する胸に一度飛び乗るとそれを足場に崩れたばかりの壁に登りそこから外を見渡した
「人を足場にすんな。 まぁ、意外と魔力の操作?が面白かったな、しかし調子乗りすぎた、さすがに疲れた、ちょっと休憩ー-」
「はっはっ、そうかそれはよかった、まぁちょっと休憩させてやりたいがそうもいかないみたいじゃぞ」
そう言われてケイが壁の外に意識を向けると何かごそごそと生き物の動く気配が感じられる
「クックック、さすがにあの音で集まってきたかの、大量じゃな」
フィーのその言葉にケイは重たい体を引きずりながら顔だけ穴から外をのぞく、あまりの明るさに目を細めながらあたりを見渡す、そこに現れたのは雲一つない青空、遠くに見える壁のように並び立つ山脈、木の陰からまばらに並び立っている高さ50mはありそうな巨大な大木、そして破壊した壁がちらばる目の前の開けた空間に、木陰からぞろぞろと様子を窺うように近づいてくる小鬼たちだった。
ゴブ?