04 魔法
フィーはグーっと伸びをしてプルプルと顔を振った
「よしよし、で、どこから出るんだ?この部屋どこにも扉とかなさそうだけど」
そう言ってケイがフィーの方に視線を戻すと、突然フィーの額の石がケイに雷を落とした時と同じように再び輝きだした
今度はケイの頭の上ではなく壁に向かって魔方陣が編まれ始める、ある程度の大きさまで展開されると、ケイに撃ったのよりは小さいものの大きな雷撃が壁に向かって放たれた
大きな音と砂煙が部屋全体を覆う
「ゴホゴホッ、何すんだお前急に、」ケイは突然の出来事に砂煙を払いながら文句を言うとフィーはそんなことは我関せずなのかすたすたと雷撃が当たった壁の方に向かっていった
「ま、そんな簡単にはいかないか、」
砂煙が落ち着きフィーの視線の先、雷撃の当たった壁を見ると多少は焦げているものの傷一つついていなかった
フィーはそれを確かめるように小さい猫の手で壁を撫でながら答える
「いいかこの岩には封魔鋼と呼ばれる特殊な金属が含まれておる、その名の通り魔法を封じる力を持つ金属じゃ、この金属の近くでは普通魔法は使えないんじゃ、それに高い魔法耐久性能を誇っておる、ちゃちな魔法じゃ傷一つつかん」
「へー、でもお前使えてるじゃん」
ケイは当然の疑問だというようにそう口にする
「わしは神じゃぞ、ここでも魔法は使えるわい、ま、威力は格段に落ちるがな、それでもこの壁に穴をあけられるほどの威力はないわい。さっきお前にあてた魔法、本来の威力が出ていたらお前消し炭どころか塵一つ残らんぞ」
「お前そんなもん俺に撃ったのかよ」
「うるさいわい、今生きてるからいいじゃろが、まぁ魔法は使えないといっても魔力を放出する魔法じゃなきゃいいわけで、それに封魔鋼が含まれる岩は比較的柔らかい、というわけで、だ」
そう言ってフィーちょいちょいと前足で合図をしてはケイを座らせるとその長い二又に分かれた尻尾でケイの左右の手首をつかむ
さらにフィーの額の宝石が淡く輝きだした
するとケイの手首が注射をされた時のような体内に何か異物が流し込まれたような感覚に襲われる。体内に入ったそれは自らの意思で動くかのようにうねりながら、腕から全身へ駆け巡っていく。
「ぐぁ、何すんだお前」
「まあまあ落ち着け、今お前に流し込んでいるのがマナ、魔法の原料みたいなもんじゃ人間どもには魔素と呼ばれておる。さっきお前の怪我が治ったのもこいつの力によるものじゃ。今そのマナが全身で暴れまわっておるじゃろ、それを押さえつけるようにまた腕に押し返してみろ。大丈夫やり方は体が覚えているはずじゃ」
「お、おう」
ケイは戸惑いながらも全身を駆け回っている マナ に注目する、流れ込んだそれは全身を体表に沿って体の中心から逃げるように這いずり回っていた。ケイはフゥッと息を吐くと目を瞑り腕に力を籠めるように意識を集中する。全身のマナをゆっくりと腕に誘導する、逃さないように、コツをつかむとすっと流れるようにマナが腕に集まっていく。すべてのマナが集まった両腕はほわほわと何か熱を帯びているように感じられた。
「ほう、一回で出来るか」
フィーは驚いたようにそう言うと両腕をつかんでいた尻尾を外し近くに転がっていた石をひょいとケイに向かって放り投げた
「よし、そしたらその石を両手で握り込んでみろ、重要なのはイメージじゃぞこの石を握りつぶすことをイメージするんじゃ」
「あ、あぁ」
ケイは戸惑ったように返事をするとフィーの言うまま飛んできた石を両手で受け取りそのまま祈るように両手を合わせて石を握り込んだ・・
ゴリゴリと鈍い音がする
ケイがゆっくりと両手を開くとさらさらと細かくなった石が両手の隙間から流れ落ちてきた
「ふむ、上々じゃな。いいか魔法というのはわしがやったように雷を落としたり水を発生させたりするだけじゃない、マナを肉体や物質に作用させることでその性能を飛躍的に向上させることができるんじゃ。例えば今のように元の力以上のパワーを生み出したりといった感じじゃ。クックック面白いじゃろ、、、
おーい聞いておるか?」
フィーはなぜか両手を見つめて動かないでいるケイに声をかける
「 ぅぉぉぉおぉぉおおおおすごいなこれ、これが魔法か!?俺魔法が使えたぞ、すごいな次は!次はなんだ??」
急にケイは急に顔を上げるとフィーを抱き上げ上下にゆする
「すごいな石が簡単に砕けたぞ!今度は俺も雷が落とせるのか?!」
「ヴっお゛おぢづけ、この、魔力を込めたままでわしを持つんじゃない」
「え、なんだって、聞こえなっ」
ケイがそう言うと急にフィーの額が輝きだし再び魔法を発動しようとする
「おっと危ない」
そう言ってケイがフィーを離す、フィーはシュタっと危なげなく着地しいつの間にか額の光は元の黒に戻っていた
「まったく落ち着いたか、お前は」
「あ、あぁOK、取り乱した、でもこの力はなんなんだ?魔法は使えないんじゃなかったのか?」
ケイは深く深呼吸するとそう尋ねる
「ん、まあそれはお前の肉体が特別だということじゃな、ま、そこら辺の話は外に出てからでもいいじゃろ、」
フィーは乱れた毛をぺろぺろと整えながら答える、
ある程度息を整えて満足したのか、また別の石をつかんでは粉々にしているケイを一瞥するとそのまますたすたとまた壁のほうに歩きながらいう
「さて、ある程度その力の使い方だわかったところで次じゃ」
「おーう、次はなんだ、俺もさっきの雷が出せるようになるのか?」
周りに転がった石をあらかた砂に変え終わったケイはフィーの方を振り返りながら答える
「何のためにわしがその力の出し方を教えたと思っとるんじゃ」
フィーはため息を吐くと続ける
「そもそもこの壁は魔法だけでは壊れない、というわけで、だ」
そう言ってフィーは壁のところまでやってくるとゴロンと寝転がる
「魔法でダメなら物理で殴る、というわけでがんばれよ」
そう言うとフィーは自分の仕事はもう終わったというようにぺろぺろと再び毛づくろいを始めてしまった
「はい??」