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救世の巫女   作者: TAO
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03 ファティマという器

 ロイシュ、そこは地球から次元を幾重にも隔てた異世界。

 

 そこには二つの巨大な大陸があった。ウルティマ、クラトン、そう呼ばれつ二つの大陸の上で人間と魔獣、二つの種族による長い長い生存競争が続いていた。しかしある時のちに ‘‘死凶’’ と呼ばれることになる獣が突如世界に現れた。それは強大な力を持った魔獣であり、当時優勢だった人類は一転、最も栄えていた帝国はたった半年の間に滅んだ。人類の安住の地だったクラトンは魔獣の巣窟となり人類は未だ未開の地が多く残るウルティマに逃亡した。

 ただ死凶がそれを見逃すはずがなかった。死凶は海を越えてやってきたのだ。人類は最後まで戦った。やがて人類はその人口の半分を失いやっと死凶の討伐に成功した。




 そして200年の時が流れた、世界は未だ平和が訪れることはなく人類と魔獣の争いは続いていた。クラトンは未だ人類が足を踏み入れることを許さない禁域として存在し、ウルティマでは人類と魔獣、そして復興を果たした人間同士の争いが世界を、ロイシュを再び混沌の海に沈めこもうとしていた。

 

 そんなウルティマ大陸の中でいまだ人類の開発の手が届かない深い森の岩の中、すっとんきょうな声を上げた一人の人間とそれをあきれたように見つめる一匹の黒猫がいた。

 




 「、、、と、こういうことがあってお前は仕方なくこと世界、ロイシュに連れてこられたというわけなのじゃ」


 黒猫はさも仕方ないというように目の前の人間、風祭慧に地球での出来事を話した


 「なるほどー、って納得できるか!なんかいろいろ起こりすぎて意味わからんわ、何、魂ってつかめるの?というかお前の兄ちゃんなんで投げたの?それより俺の身体はどうなってんだ⁉ てか俺死んだんじゃないのか? そもそも異世界ってなんだよ、というかなんで猫が喋ってるんだ??」


 ケイはかなり動揺しているのか思いついた疑問をそのまま口にするように一気にまくし立てる

 黒猫はそれにため息をつくと答える


「まてまてそんな一気に聞くでないわ、気持ちはわからんでもないがいったん落ち着け」


 そう言って黒猫はケイの胸の上からひょいと飛び降りるとケイの正面におとなしく座る、

 ケイの目の前に座る黒猫は黒猫というのは名ばかりでその姿は普通の猫とは異なっていた、まず特徴的なのはその尻尾であり長さはその体長の2,3倍ほどもある。それが途中から二股に分かれてゆらゆらと揺れていた、いわゆる猫又のような姿をしていた。そしてその小さな額には第3の目のように毛の色と同じ真っ黒な石が埋まっておりそれがこの猫の異様さ、神秘的さを一層際立たせていた

 ケイもそれに倣って起き上がるとあぐらをかいて黒猫を見つめ返した、それを確認すると猫は話し出した


「さて、何から説明しようかの、、、まあまず自己紹介から行こうかわしの名はフィーこの世界ロイシュの管理者じゃ、人間どもには神と呼ばれている存在じゃな。

そしてこの世界はお前の地球とは似て非なる世界、異世界じゃ。まあ、お前ら地球人特に日本人が想像するような剣と魔法の世界じゃよ。魔法と呼ばれる特別な力が存在し、それを操る魔獣、ゴブリンから始まりオークやドラゴン、ドワーフやエルフなんかもおる、そんな世界じゃ。」


「エルフ!異世界転生! いや待て神ってホントにいたのかよ。そこからまず衝撃なんだが」


ケイはなぜかガッツポーズだけをするとそこから普通に疑問をぶつける。黒猫、フィーは一瞬いぶかしげな顔をするとそのままケイの疑問に答えた


「まあ兄さまはあまり下界には下りてこないタイプじゃからの、昔はだいぶ人間にもちょっかいを出してたそうじゃが最近はまるっきりじゃからな、別に信じられなくても仕方ないわい。じゃが地球やロイシュのような世界にはそれを管理する存在、いわゆる神がいるんじゃよ。そしてわしもその一人というわけじゃな

 どうじゃ、わしは偉いんじゃぞ、ほれ崇めろ、敬え、へりくだれ」


フィーはふんと胸を張りほからしげに語る、そもそもここでいう神というのは信仰対象としての神という存在ではなく人間と異なる特別な力を持った超越的な存在のことである、普段は天界という地上とは異なる世界に存在し大地を創り生物を産み落としたりする世界の創造主たる存在のことだ。ただそれが下界の生物、人間に認識されているのか、信仰の対象と同一かはその世界によって異なっている


「フーンお前がねえ、俺にはただの喋る猫にしか見えないんだが、、まあ猫が喋ってる時点でおかしいか。というかさっきの話だと俺がこんなことになってる最大の原因お前の兄ちゃんだろ、そんな簡単に人間を異世界に送っていいのかよ」


ケイは頬杖を突き冷めた口調で返事をする、


「まあ、あれはただの気分じゃろうな、特に兄さまに深い理由はないじゃろうよ」


フィーも特に気にするでもなく答える


「うへ、俺は神の気分で異世界に来たってことかよ。で、俺は何で女の体をしてるんだ?」


ケイの新しい体、女性の姿形をしたそれは元は白かったのであろう薄汚れたところどころ茶色くシミが残っている簡素な服を着ており靴も履いておらず裸足だった。にもかかわらずそのみすぼらしい服とは対照的に、肩まで伸びる艶のあるきれいな黒髪、誰もが美人というような非常に整った顔立ち、いやらしくないほどに仕上がった理想的なプロポーション。黒猫と並んで人知を超えて生まれた人形のようなその身体は、それを全き意識していないケイの胡坐をかき首も曲がったその姿勢に美しさは微塵も感じられなくなっていた


そんなケイをフィーはその身体を眺めながら答えた


「ん、さっきも言ったがお前がこっちの世界に来たときは魂だけだった、ただ肉体が無くては何の役にも立たん。だからわしがちょうどよく余っていたその肉体、ファティマに魂を植え付けたというわけなのじゃ」


「ファティマ?なんだそれ?人間じゃないのかこれ?」


ケイの疑問に答えるようにフィーは話を続ける


「ファティマは姿かたちは人間の女のと似ているが中身は全くの別物じゃよ。かつてこの世界を滅ぼさんとこの世界に現れた魔獣、そいつと戦い自らの肉体に封印する。そのためにわしが創りだした特別な器、それがファティマじゃ。じゃから人間どころか生物と呼べるかすら怪しいそんな代物じゃよその肉体は。

 お前らにわかりやすく言うなら汎用人形決戦兵器神造人間ファティマ、というところじゃな」


フィーは自慢するように言う、


「ふむ、とりあえずお前の言っていることはよくわからんがお前が地球で何をしていたかはなんとなくわかったぞ、あと別にそこまでうまくないぞ」


ケイはあきれたようにそう口にする。フィーもまたごまかすように顔をそらした。


「ふん、別に暇じゃったから地球の文化というのをいろいろ物色してただけじゃわい、まだ積み残しがあったのにもう帰されることになるとはの。全くお前のせいじゃぞ。それでそのファティマじゃが今お前の体の中には一匹の魔獣が封印されておる、名を窮奇、かつて死凶と呼ばれこの世界を滅ぼさんと下界に堕とされた魔獣じゃ」


「え、大丈夫なのかそれ?」


ケイは体のあちこちを触りながら訪ねた


「知らん」


ケイの心配に反してフィーは割とぶっきらぼうに答えた


「知らんというかどうなるかわからんな、ファティマは魔獣を封印するために創ったが別に人間の魂を植え付けることを想定して創ったわけじゃない、それに封印が完了してから200年放置、、もとい保管して負ったんじゃ、何か異常があってもおかしくはないの。

ま、多少異常が起こったところで、、」


そう言うとフィーは長い尻尾でケイの腕をとり自分の方に近づけると自身の爪でケイの腕、前腕の裏側をツーっと強くひっかいた。できた線に沿ってケイの腕から赤い血がタラーっと流れ出てくる


「痛ってーな、なにすんだよ急に」


「まあよく見るんじゃ」


フィーはケイの文句をさらっと流すと自分が付けたその傷に注目するように言う

ケイもつられて自分の腕を見た


ケイが見ると同時にフィーは爪を腕から離す、とたん何もなかったように傷跡がきれいにふさがった。流れ出た血もふわっと煙のように消えてしまった


「うお、なんだこれ」


ケイも戸惑ったように自分の腕を確認する。ケイの腕には傷があった痕跡はなく元の白い肌に戻っていた。

フィーは満足そうに頷きながら答えた


「ファティマは魔獣と戦うために生み出したものじゃ、だから壊れてしまっては意味がない。ただモデルは人間じゃからのあまり生身の防御力というのは期待できなかった。

そこでわしはファティマには強力な自己修復魔法が常に発動するように設計したんじゃ。たとえどんな傷を負ったとしても怪我をした瞬間からなおしてしまえば特に問題はないからの」


「フーン、なるほどなぁ」


ケイはあまり納得できていないのかまだ自分の身体を確認していた。そのことをよそにフィーは話を続ける


「さっきわしがお前に撃ったケラウノスという魔法、完全ではなかったがこの世界でも指折りの強力な魔法じゃそれを食らってもその身体は一瞬で元に戻った。修復魔法が正常に発動しているところを見ると特にファティマ、その肉体に異常はないだろうよ。今お前の魂が入っても異変が起きていないということは特に問題はないということじゃな」


「へー」


「すごいんじゃぞファティマは最強の肉体じゃ、チートじゃぞチート好きじゃろお前らそう言うの」


フィーはケイの反応が思っていたのと違うのか少し心配そうにケイの顔を覗き込む


「わかったわかった、大丈夫だよ、ちょっと戸惑ってただけだよ」


ケイはフィーの頭をポンポンとたたきながら答えた


「さてそれよりフィーさんやいろいろと説明してくれてるところ悪いんだがとりあえずこっから出ません?俺まだその自慢のロイシュやらを石の壁しか見てないんだけど、全く異世界に来たっていう実感ないんですけど...」


そう言いながらケイはあたりを見渡す。見渡しても見えるのは出口も見当たらないまっさらな岩の壁だけだった


「ならいいがの、ま、それもそうじゃなわしも外の空気が吸いたくなってきたところじゃ」


ケイのそう言われて納得したのかフィーも立ち上がるとお尻を上げてグーっと伸びをした


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